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西田宗千佳のトレンドノート:空間を把握する未来のスマホ「PHAB2 Pro」を体験

西田宗千佳

2017/10/05(最終更新日:2017/10/05)


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 スマートフォンやPCを次にブレイクさせるのは、「バーチャルリアリティ(VR)」や「オーグメンテッドリアリティ(AR、拡張現実)」だと言われて久しい。そうした技術が使える機器も広がって来ているが、今回紹介するのは、そんな機器の一つである。

 Lenovo(レノボ)が12月に発売した「PHAB2 Pro」は、AR体験に特化したスマートフォンである。若干実験的な匂いもする製品だが、それで体験できるのは現状「これでしかできない」ユニークなものだ。

「奥行き」「位置」を把握するカメラで世界を把握

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レノボの6インチスマートフォン「PHAB2 Pro」。Androidを採用したSIMフリーの製品で、直販価格5万3,784円(税込)。

 PHAB2 Proは6インチのディスプレイを備えた、かなり大柄なスマートフォンである。その価格にふさわしい高性能なプロセッサーを採用しており、ウェブやアプリが快適に使えるものであるのは言うまでもない。

 しかし、PHAB2 Proのポイントはそこにはない。実際問題、高性能の代償として重い(259g)ので、すべての人におすすめできる製品、という訳ではない。

 だが、PHAB2 Proには、いまのところ「この製品しか備えている市販品がない」能力があり、それが最大の価値となっている。

 その能力はカメラにある。といっても、画質がいい、という話ではない。PHAB2 Proのカメラには、「立体空間を把握する機能」が備わっているのだ。PHAB2 ProはGoogleが開発を続けてきた「Tango」という技術を採用している。

 Tangoはカメラの映像に赤外線センサーから得られる奥行き情報、さらにスマホに内蔵された6軸のモーションセンサーによって、「自分がどこにいるか」「周囲にどんなものがあるか」を認識し、スマホアプリの中で活用することを目指した技術だ。PHAB2 Proは、Tangoを搭載して市販された、初めてのスマートフォンである。
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PHAB2 Proのカメラ部。上から順に、都合3つのセンサーが搭載されており、映像はもちろん、前にある物体のおおまかな立体形状まで把握する。

 Tangoが目指しているのは、スマートフォンの中に「AR」技術を取り込むことだ。ARとは「拡張現実」と翻訳されることが多い技術だが、要は、実際の空間にCG映像を重ねて表示することで、現実に存在しないものが「そこにある」ように見せたり、現実の物体に情報を加えて価値を高めたりすることを目指している。

 AR自体は、スマートフォンが生まれてすぐ実現されたが、当時のものは非常にクオリティが低かった。カメラで映像を撮影し、スマートフォンが向いている方向に合わせて映像を出していただけだからだ。

 例えば、机の上に物体があったとする。そこに映像を重ねる場合、我々は「奥行きや凹凸に合わせて重なる」ことを期待する。現実に物を置けばそうなるからだ。だが、カメラで撮影した映像には通常、奥行き情報がない。

 ARは、ある意味人間の目を騙すものだから、人間の目に近い能力が必要になる。人間の目とは違う仕組みで、人間の持つ「奥行きを把握する能力」をスマホに搭載しようとしたのがTango、ということである。

 現在はPHAB2 Proが唯一の採用例だが、ASUSが2017年第2四半期(4月から6月の間)に、やはりTangoを搭載した「ZenFone AR」の発売を予定している。

現実空間の中にCGが入り混じる「未来の体験」

 では、Tango搭載によってどのくらいのことができるのか。以下の写真をご覧いただきたい。

 一つ目の写真は、ドミノ倒しをするゲーム「Domino World」のもの。若干不自然な部分もあるが、高さが違う「机」「PCの上」「カメラの上」を認識して、上にドミノが乗っているのがわかる。もちろんこれは、きちんと「倒す」こともできる。
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「Domino World」。スマホの中でドミノ倒しをする、というシンプルな内容だが、実景の中に配置できる、という点が新しい。

 二つ目の写真は「Dinosaur Among Us」。実世界に恐竜がいたらどうなるか、を見せるアプリだ。この写真でも、きちんとソファの上に恐竜がいることに注目していただきたい。この恐竜のサイズは実際のもので、大きな恐竜は当然、それだけ大きく表示される。このアプリが、「恐竜の大きさを体感する」目的で作られているからだ。動作の軽さを重視したのか、恐竜のモデルが荒いのはご愛嬌。
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「Dinosaur Among Us」。実景の中に、実際のサイズの恐竜が現れる。

 これもある意味インパクトがある。「Tango Virtigo」というアプリでは、「床」に穴が空いて、その先にダンジョンや街が見える……という体験ができる。これも、きちんと「床」がどこかを判断しているからできることだ。
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「Tango Virtigo」。普通の床に穴が空いたようにみえる。のぞきこめばもちろん、奥が見える。

 こうした例はある意味「デモ」であり、ちょっと遊べば飽きてしまうものだ。だから、Tangoの実用性は、まだ高いものではない。

 しかし、それも要はアプリ次第だ。部屋の中に家具を置くシミュレーションをしたり、バーチャルペットを飼ったり、ビデオチャットをしたりと、AR技術には様々な可能性がある。今の限界は主に、スマートフォンの性能とコストだが、これは数年以内に解決しうる。

 スマートフォンで体験できることは「おおむねどの機種でも同じ」になってきたが、現状このAR体験はPHAB2 Proでしかできない。

 ちょっと未来を体験したい人は、「小さいタブレット」だと思って買ってみてもいいのではないだろうか。

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