HOMEビジネス 世界基準には程遠い? なぜ日本のフリーWi-Fi環境は遅れているのか

世界基準には程遠い? なぜ日本のフリーWi-Fi環境は遅れているのか

藤田裕太郎

2017/01/30(最終更新日:2017/01/30)


このエントリーをはてなブックマークに追加

世界基準には程遠い? なぜ日本のフリーWi-Fi環境は遅れているのか 1番目の画像
 2020年の東京オリンピックを控え、外国人観光客のニーズにいかに応えるかが課題となっている。今回は世界に比べ対応が遅れているといわれがちな日本のフリーWi-Fiの現状について紹介する。

実は盲点だった:外国人観光客の不満

世界基準には程遠い? なぜ日本のフリーWi-Fi環境は遅れているのか 2番目の画像
 2013年に、2020年夏季オリンピックの開催地に東京が選出された。多くの人が日本中が期待に沸いたのを肌で実感していたはずだ。

 一方でスタジアムの建設費問題、エンブレムの盗用疑惑、宿泊所不足の問題など、様々な課題も浮き彫りになっていった。華々しく夢のあるプロジェクトには常に現実的な問題点が付きまとうが、中でも外国人訪日客のニーズという点で、フリーWi-Fiの整備というのは大きな問題の一つである。

 日本はフリーWi-Fiが少ない、という問題は外国人を対象とした観光庁の調査などから明らかになっていったが、なぜ先進国である日本がそのような状況となっているのだろうか。

1.キャリア契約の問題

 日本の場合、パケット通信の利用を前提としたプランで通信キャリア各社と契約をする、というのが一般的だろう。そのためメインとしてはLTE回線などで済ませ、自宅でゆっくりインターネットを利用するためにWi-Fiを利用する、というスタイルなどが定着している。

 しかし海外の場合、移民であるなどの問題でキャリアと契約できない人々も多く存在し、そうした人々はプリペイド携帯(パケット通信ができない)を利用することになる。その対応としてフリーWi-Fiの拡充が図られていくとキャリアとの契約が可能な人々の中にも、プリペイド携帯を選択して安い料金プランで済ませようという人々が現れるのは必至だ。こうした社会構造から、一層フリーWi-Fiへの要請が高まっていった。

2.セキュリティ問題

 海外で実際多くのフリーWi-Fi環境が実装されているという現状があるなか、日本では警察の情報開示請求を乗り切るために、スポットを提供する側はセキュリティ対策を固めなければならない、という障壁がある。

 これをしないと、そのフリーWi-Fiを利用している端末の情報が盗まれるといった犯罪が想定される。本人認証システムの整備を提供者側が怠れば、こうした犯罪があったり、身元不明のアクセスがあったりした場合に責任を問われることになってしまう。そのうえ認証システムの整備にかかる高いコストという問題もある。

 こうした背景から、日本では無料とうたいながらも事前登録や手続きが必要なものが多くなっていた。

今後の課題は「数よりも利便性」

世界基準には程遠い? なぜ日本のフリーWi-Fi環境は遅れているのか 3番目の画像
 2014年のWi-Fi整備についての総務省の調査では、日本のフリーWi-Fiの設置数自体に対する不満は大幅に減少しているものの、手続きや登録など、利便性の面でやや低い評価となっている。オリンピック特需に伴う訪日外国人のこうした要望に応えることが第2段階となっていくだろう。

 Wi-Fi環境整備の一翼を担うことになるのは民間事業者だが、これらが日本国内において総体的・統一的な取り組みとして理解されているかどうかという点には疑問が残る。数は増えてきたといっても、それぞれがばらばらに提供されているといった感をどう払しょくし、訪日外国人に日本全体が一枚岩でプロジェクトを進めているという理解を持ってもらえればより使いやすいものとなる。

 東京や各主要都市で実践されている自治体主導の環境整備はその点で外国人にとって非常にわかりやすいものだろう。また観光都市バルセロナのようなWi-Fi環境と一体となった都市設計なども、外国人にとっては最も分かりやすいWi-Fi環境敷設の形と言える。

 また最も手っ取り早い方法の一つとしては、NTTドコモによって運営される「Japan Connected-free Wi-Fi」のような、日本全国の自治体やコンビニなどのフリーWi-Fiを一回の手続きのみで利用できるようにするアプリが便利だ。バラバラのサービスを一つのアプリで一括で扱えるのはかなり重宝する。

オリンピックではハッキングに注意?

世界基準には程遠い? なぜ日本のフリーWi-Fi環境は遅れているのか 4番目の画像
 2012年のロンドンオリンピックでは、初めて大々的なフリーWi-Fi環境が敷設された。昨今のSNSの世界的な普及に際し、世界中の人が同時実況中継的にTwitterなどを通じて盛り上がるという、人々の現代的な“繋がり”感覚を敏感に反映した楽しみ方の型が一潮流となってきた。

 一方で都市主導でのフリーWi-Fi環境の整備という新しい形のオリンピック特需に乗じた犯罪もまた、それに比例して問題となる。

 2016年のリオオリンピックでは空港や商業施設、ホテルに数多くの偽ホットスポットが見つかった。うかつに利用すればたちまち重要な個人情報を抜き取られる恐れもある。また国別のメダル数を確認できるアプリなどの中にも悪質なものがあり、アプリからスパイウェアに感染というケースも確認された。

 正しいものと悪質なものの線引きと注意の呼びかけということも、オリンピックに向けた重要な課題の一つとなる。特に規制が比較的厳しく自国のネット環境のある程度の安全性がある分、国民のネットセキュリティの感覚が希薄になりがち日本だからこそ、一層対策が必要である。


 ある種お祭り気分では人をいかに呼ぶかという部分には力が入るのは当然というもの。ネットのセキュリティ問題など、ネガティブな面にも十分な目が向けられてこそ、東京オリンピックを真の意味で世界にアピールできる。こうした課題の解決含めてのフリーWi-Fi環境整備の今後に注目したい。

hatenaはてブ


この記事の関連キーワード