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2017年は欧州選挙の年:激動の“ポスト現代”で注目すべき国際政治リスク

菊池喬之介

2017/01/12(最終更新日:2017/01/12)


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by FutUndBeidl
 2016年はまさに激動の年であった。3月のベルギーのテロを皮切りにフランスやドイツなどでテロが頻発。他にも「パナマ文書」やイギリスのEU離脱、アメリカの大統領選におけるトランプ氏勝利などエスタブリッシュメントへの不満の高まりが顕著に見られた。

 反グローバリズムとポピュリズムが台頭しつつある現在の流れ、は2017年にも引き継がれるだろう。そのような国際情勢を鑑みて、2017年に注目すべき主な政治イベントを紹介していきたい。

2017年はEUの真価が問われる「選挙の年」

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 2017年もたくさんの政治イベントが予定されている。中でも特に注目したいのは、EU加盟国で行われる選挙だ。

 3月にはオランダ、4〜5月にはフランス、9月にはドイツの重要な選挙が控えている。昨年のイギリスのEU離脱を受けて、EU加盟国の国民が何を考え、何を望むのか。EUの存在に真価が問われる一年になりそうだ。

 また、アジアでも主要イベントが相次ぐ、秋には中国共産党大会が予定されており、第二期習近平政権の顔ぶれが決まる。韓国では裏金や汚職で世間を騒がした朴槿恵大統領の後釜を決める総選挙が行われる。

 世界の情勢に大きく影響を与えそうな政治イベントを日程順に紹介していく。

3月:オランダ総選挙

 昨年は難民問題などの反グローバリズム意識が高まったEU。イギリスのEU離脱はその象徴だ。そして、その潮流は他のEU加盟国にも蔓延っている。中でもオランダは離脱国の筆頭に挙げられている。
 
 現在、オランダでは第一党の自由民主国民党が労働党と連立政権を組んでおり、前者のルッテ党首が首相を務めている。それに対抗して反EU、反イスラム、反移民を掲げる極右政党である自由党が支持を広げている。

 自由党党首であるウィルダース氏は、選挙で勝利したらEU離脱を国民投票にかけると宣言している。だが、オランダにおいて極右政党はそこまで大きな勢力を持っていないことに加え、連立する政党も今のところないため、番狂わせは起こらないのではないかと思われる。

4月:フランス大統領選

 フランス大統領選はオランダに比べると、サプライズが起こる可能性が高い。現職のオランド大統領率いる左派政党「社会党」の支持率は10%台に低下。これはオランド政権下では課題であった失業率が高止まりしている上に、前述した欧州でのテロが頻発したことから、国民の支持が右派に移っていった。

 現在最有力だとされているのは、最大野党で中道右派の「共和党」。候補者の予備選では、ニコラ・サルコジ元大統領やアラン・ジュペ元首相を破りフランソワ・フィヨン元首相か共和党候補となった。

 ただ、今回のフランス大統領選で注目したいのはマリーヌ・ルペン氏率いる極右政党「国民戦線」だ。国民戦線は、現在のフランスの苦境は全て国外からもたらされたものであると主張しており、国外の分子は排除する方針を掲げている。

 EU離脱の他にも債務危機以降続けてきた緊縮財政を取りやめ、最低賃金も引き上げると公約を発表しており、既存の政権にうんざりしている国民にとっては魅力的にも見える。わかりやすいポピュリズムではあるが、トランプ氏の当選があっただけにルペン氏が当選する確率がゼロだとは言い切れないのが現状だ。

9月:ドイツ連邦議会選挙

 ドイツで9月に予定されているドイツ連邦議会選挙でも極右政党である「ドイツのための選択肢(AfD)」の台頭が危惧されている。政権発足当時から安定した支持率を保ってきたメルケル政権は移民政策で国民の反発に会い、2016年に入って失速。それに伴ってAfDの支持率が高まってきたのだ。

 実際に3月と9月に行われた地方選挙では、メルケル氏率いる与党「キリスト教民主同盟(CDU)」が票数を減らした一方、AfDが初めて議席を獲得した。次回の選挙でAfDが与党になる可能性はほとんどないが、与党が著しく後退し政権をコントロールする力を失うことはあり得る。

 その場合、現在EUを引っ張っているドイツが不安定な政権運営に陥ってしまう。先日もベルリンでトラックが市場に突っ込むというテロが起こったが、これ以上ヨーロッパでテロが起こると自ずとAfDの支持率は上がっていくことになる。

 来年のヨーロッパの選挙戦は「テロ」、「移民」というワードに大きく左右されそうだ。

秋:中国共産党大会

 ヨーロッパで主要な選挙が控えている一方、アジアでも重要な政治イベントが予定されている。中でも5年に一回行われる中国共産党大会は世界情勢を大きく左右する。現執行部のメンバーのうち習近平総書記(国家首席)と李克強首相を除いた5人が年齢制限で退任し、指導部の椅子の座を巡る争いは激しくなってきている。

 第二期政権を迎える習近平は、反腐敗キャンペーンにより政敵を排除し、自身のリーダーシップを確立してきた。2016年の六中全会では自らを「核心」と位置付け、権力を強化したイメージを与えた。この核心は今まで毛沢東、鄧小平、江沢民にしか用いられていない。

 指導部内で優位性があることを示した一方で、集団指導態勢を重視する姿勢も見せている。今後の中国で習近平が円滑に改革を進めるためには党大会でどれだけ習派がどれだけ権力を握るかにかかっている。

間近?:韓国大統領選

 2016年、朴槿恵大統領のスキャンダルが世間を騒がした。ソウルでは朴氏退陣を求めるデモ「ろうそく集会」が連日行われた。弾劾追訴案が国会で可決され、現在は憲法裁判所で弾劾審判の真っ最中である。

 この審判で弾劾が棄却されなければ、今年の12月に予定されていた大統領選も繰り上がることになる。憲法裁判所が判決を出す時期は、2月下旬から3月上旬とみられている。罷免された後、60日以内に大統領選が行われるので、本来の日程よりも半年ほど早い4月初旬から5月下旬に選挙が行われることになる。

 ただ、朴大統領の周り以外でも韓国の政界はバタバタしている。それまで次期大統領園最有力候補とみられていた前国連事務総長の潘基文にもお金にまつわる悪い話が浮上したのだ。潘氏の弟をはじめとする親族らが、中東の政府当局者に賄賂を送った罪でアメリカす司法当局に起訴されたのだ

 昨年の段階では与党のセヌリ党から出馬するとみられていた潘氏にとって、朴氏のスキャンダルでただでさえ与党の信用が落ちただけでも選挙戦を戦うにおいて痛手なのにもかかわらず、新たな不安要素が増えてしまった。

 汚職絡みの事件が起きてしまったため、世論は「クリーン」なリーダーを求めている。現在、トランプ氏の当選で動きつつある東アジアの中で、重要な立ち位置にいる韓国。どのような指導者が現れるかで来年の日本の立場も大きく変わってくるであろう。
  

 トランプ氏の当選やイギリスのEU離脱など世界が反転した昨年。2017年はその流れは国際情勢を大きく揺らしそうだ。フランスをはじめとするヨーロッパで極右政党がどれほど支持されるかが、2017年の重要な問題の一つとなりそうだ。一刻で極右政党が大躍進すれば、その動きはヨーロッパ全体に広がっていくかもしれない。

 上述した主要な選挙以外にも、1月20日にはトランプ氏が大統領に正式に就任し、それに伴い安倍首相の訪米が予定されている。トランプ氏の動向はヨーロッパの問題にしろアジアの問題にしろ大きく作用するだろう。

 2017年はEUの危機、トランプ大統領という既存の体制と異なる流れが何かしらの結果をもたらす、そんな視点で国際情勢を見てみてはいかがだろうか。

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