すっかり自動車メーカーの先端技術やコンセプトモデルのお披露目の場として定着してきた「CES(ConsumerElectronics Show)」。特に今年は、AIや自動運転についての意欲的な技術の発表が相次いでいる。
今回が初の出展となる日産もCEOカルロス・ゴーン氏が基調講演を行うなど、力の入っているところを見せた。講演の中では、自動運転に対する取り組みなど、同社の先進性の感じられる技術やシステムがいくつか発表されたので、その中身を紹介したい。
NASAの技術で自動運転の早期実現を目指すSAM
AIの発達により、自動運転車の運転環境に対する状況判断や反応速度などは飛躍的に向上している。ただ、それでも全ての状況をクルマが判断して決定を下せるわけではない。
例えば、交通事故の現場などに遭遇した場合、交通整理をしている警察官の手信号に従い、信号機の表示を無視して中央分離帯を越えて走行しなければならない状況もあり得る。
現状の自動運転車はカメラやセンサーで信号機の色や警察官の手信号などは認識することができるが、どちらに従うべきかといった判断はできないため、こうした状況では立ち往生してしまうことになりかねない。
そうした状況に対応するため生み出されたのが「シームレス・オートノマス・モビリティ(SAM)」と呼ばれるシステムだ。このシステムでは、自動運転車はまず安全な場所に停止し指令センターに通報。
そして車両の状況を把握しているモビリティ・マネージャーから行動すべき正しい判断を仰ぐ。モビリティ・マネージャーは状況から判断し、この場合では信号機は無視して警察官の手信号に従うことをクルマに伝達し、通行すべきルートを教える。そして、自動運転に復帰できる状況になったら、クルマを自動運転状態に戻すのだ。
こうした状況や解決法などはクラウドに蓄積され、同地域を走行する他の車両にも位置情報とともに共有されるので、同じ場所を通る自動運転車はいちいちモビリティ・マネージャーを呼び出す必要はなくなる。
また、判断事例が蓄積されれば似たような状況では自動運転車自身が判断を下し、迂回ルートを設定できるようになるので、モビリティ・マネージャーの数は少なく、1人当たりの管理台数は増やすことが可能になるという。
「SAM」のベースとなっているのはNASAがロボットを視覚化して監視するために開発した「VERVE技術」と呼ばれるものだ。
NASAのロボットや無人ローバー(探査車)などは先の予測できない未知の環境でも自動運転を行うが、ロボットによる判断が難しくなった状況では管理者が走行すべきルートを指示し、通過した後に自動運転に戻すという操作をシームレスに行う。
「SAM」のシステムはこの技術をベースに日産が開発したもので、必要な場面では人間の知能を戦略的に活用し、AIとの融合を図ることで自動運転車が早期に社会に受け入れられるには不可欠の仕組みとなりそうだ。
無人運転の実証実験をDeNAとともに国内で実施
自動運転車による無人運転の実証実験を今年から国内の国家戦略特区にて開始することも発表された。パートナーとなるのはDeNAで、日産が自動運転の最新技術を搭載した電気自動車ベースのプロトタイプを提供し、DeNAはモビリティ・サービス提供のための情報技術(IT)システムの構築を担うとされている。
実証実験の範囲は順次拡大され、2020年までに首都圏および地方都市にてモビリティ・サービスでの技術活用の検証を含んだ実証実験を行う計画だ。
日産では自動運転車について2016年までに「ステージ1」と呼ばれる高速道路の同一車線での自動運転を実現した車両を投入するとしていたが、これは昨年8月に発売された「セレナ」に搭載された「プロパイロット」機能によって実現。次なる「ステージ2」は高速道路の複数レーンでの自動運転で、これは2018年までに実現される予定。
そして「ステージ3」は市街地における自動運転で2020年までに実現する計画だ。同社が力を入れる電気自動車についても、自動運転技術「プロパイロット」を搭載した「リーフ」を近い将来に市場投入することが発表された。
また、CESの会場では今年9月に動画が公開されて話題を集めた自動運転技術を応用した「プロパイロットチェア」も一般公開された。
これは自動運転技術によってイスが順番を詰めたり、会議室で元の位置に戻ったりするものだ。お店などでの行列待ちなどが楽になったりするほか、自動運転を身近に感じられるプロダクトとしても注目を集める。
日産では電気自動車による「ゼロ・エミッション」と、交通事故による死者0を意味する「ゼロ・フェイタイリティ」を目標として掲げているが、その達成には自動運転の技術が不可欠。「SAM」のシステムやDeNAとの実証実験によって、その実用化はさらに加速するはずだ。
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