HOMELINEトップを捨てたアラフィフ起業論:『我慢をやめてみる 人生を取り戻す「起業」のすすめ』

LINEトップを捨てたアラフィフ起業論:『我慢をやめてみる 人生を取り戻す「起業」のすすめ』

藤井浩

2016/12/26(最終更新日:2016/12/26)


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 自分の夢や信念をカタチにする「起業」。だがその実現には少なからぬリスクが立ちはだかる。今の日本の現状では、それはギャンブルに近い、無謀なこととさえ考える向きもある。

 だがここに、50歳を目前にして順風満帆のベンチャー企業トップを退き、新たなベンチャーを起ち上げた人物がいる。あのLINEの元代表取締役社長にして、現在は女性向けの動画配信サービス『C Channel』を運営する森川亮氏だ。そして、そんな彼の起業哲学をわかりやすく語った書籍が今回紹介する『我慢をやめてみる 人生を取り戻す「起業」のすすめ』である。

会社に長く属して年齢を重ねた人でも起業はできる!

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 著者である森川氏の職歴は、外野から見ればまさに波瀾万丈に思える。1989年日本テレビ入社、2000年にはソニーに移り、さらに2003年には後にSNSの大手・LINE株式会社となるハンゲームジャパンへと活躍の場を移す。

 そして2007年LINEの代表取締役社長にまで登り詰めたが、同ポストを2015年3月に辞し、たった1カ月後にC Channel株式会社を起業したのだ。そのとき、森川氏は48歳。働き盛りだが、安定を求めてもよい年齢だ。だが、彼が自身の経験を踏まえて最初に伝えるメッセージは、次のようなものである。

 “自分を押し殺して会社に尽くす「我慢」が美徳とされた時代は、とっくの昔に終わりを告げています。”

 「失われた20年」という表現がある。それは、旧態依然とした日本の従来型の会社社会に要因があると筆者は指摘する。「失われた」のは、単に経済の活況だけではない。日本人ひとりひとりの「人生」でもあるのだ。

 だがそれを後悔するには早すぎる。人は年齢に関わらず、また既存の会社に属していても、新たな価値観を生み出す「起業」はできるのだと本書はエールを送る。

 もちろん若者の自由な発想力は大きなアドバンテージとなるが、すでに会社員として経験を積んだ人、また定年退職でリタイアした人も、その実績はベンチャーを起ち上げる強力な武器となりうる。

 ただし、安易に起業を考える人への戒めも本書には示されている。いわく、「自分本位の起業は成功しない」「使命感と趣味を混同してはいけない」「時代を先取りしすぎてはいけない」「知らない人にも伝わるわかりやすさが大切」などなど……。「起業には目的と覚悟が問われる」とも筆者はクギを刺す。

「起業」のハードルを上げる日本の社会制度

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 著者のアグレッシブな経歴を、移り気で飽きっぽい、腰の定まらない人だと感じる向きもあるだろう。確かに、ベンチャーはともすると長続きしない、ある種投機的な印象を持たれがちだ。

 だが、森川氏は「起業→売却→起業→売却……」のサイクルが滞りなく行われれば、次々と新たなイノベーションが生まれ、それは従来の大企業も含めた経済の活性化につながると述べる。それを日本で実現できれば、ビジネスパーソン個々人が自信を回復できるだけでなく、日本が再び元気になるというわけだ。

 もちろん、起業が誰にでも「簡単に」できるわけではない。本書では起業を志す際に視野に入れておくべきことや、さらに「なぜ日本において起業は難しいのか」という問題点についても詳解されている。

 まず語られるのは「世界戦略」について。ベンチャーはスタートから世界を目指すべきだとしながらも、森川氏は「日本発コンテンツの優位性」がすでに幻想となっていることを指摘し、サービス地域によるローカライズの重要さを語る。

 だがそれは「日本らしさ」を捨てることでは決してなく、日本発のプロダクトに自然と染み出してくる「日本らしさ」が世界を惹きつける可能性にも触れ、そのバランスが真のグローバル化を生み出すとする。『C Channel』が模索し、結果を出しているのはまさにこの点によるのだ。

 また日本の体質が抱える事情として、「会社が潰れる、あるいは売却されること」が悪しきことだという思い込みがある。また、なるべくそうならないように国も企業を支援し(森川氏はこれを「過保護」と断ずる)、結果としてM&Aなどといった企業の新陳代謝は滞ってしまう。

 さらに森川氏が指摘するのは、若者に対する教育のありかただ。いつまでも個人の才能を引き出せない日本の教育現場を著者は痛烈に批判し、より個々の生徒の活動に寄り添ったアクティブラーニングと、生活に直接役立つ実践的教養を身につけるリベラルアーツの重要性を訴える。

「起業」マインドで日本と日本人に元気を!

 巻末には1章を割いて、3人の起業家と著者の対談が収められている。

 ひとり目は、16歳で起業し、2016年現在19歳でピアノテクノロジー株式会社の代表取締役社長を務める仲山仁之助氏。ふたり目は、大手証券系投資会社を経て独立系のベンチャーキャピタルを起業、有望な起業家に投資を行う木下慶彦氏。3人目は、日本テレビで数多くのヒット番組を手掛けた後、50歳間際で独立、株式会社アブリオ代表取締役社長を起業するとともに森川氏の起ち上げたC Channel株式会社の取締役も務める三枝孝臣氏。

 多くの「成功者」によって書かれた書籍と同様、本書の内容をして「特別な才能を持った人のメソッドなど凡人である自分の役には立たないのでは」と感じる人もいると思う。私もそのような凡人のひとりであり、また本書の「農耕民族である日本人には(イノベーションに対する)ハンデがある」など一部主張にも少し首をひねる部分がある。

 ただ、「今の日本の経済はどこかおかしい」、あるいは「自分の人生はこんなはずじゃなかった」という考えが頭の片隅にでもあるなら、本書はそんなあなたにいくばくかの元気と希望を与えてくれるかもしれない。今の場所から、今の年齢からでも、なにかできることがあるのではないか、と。

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