今季最大のヒット作となったTBSの連続ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』。通称“逃げ恥”は、最終回直前の第10話のリアルタイム視聴率が16.9%、録画して観た人の「タイムシフト視聴率」が17.5%、重複分を差し引いた総合視聴率が30.0%を記録した。
“テレビ離れ”が騒がれるいま、ここまでの視聴率を記録する逃げ恥は、これまでのドラマとどこ違うのかを、同作のメディア戦略をもとに紐解いていこう。
みんなが踊りたくなる「恋ダンス」の大ヒット
「恋ダンス」は、同作の主人公・津崎平匡を演じる星野源が歌う主題歌『恋』に合わせ、星野源本人や主人公・森山みくりを演じる新垣結衣、みくりの叔母・土屋百合を演じる石田ゆり子らキャストが踊ることで話題を集めている。
観ていると「自分でも踊れるかも?」と思わせるキャッチーなダンスにも、この作品のヒットの理由が隠されているのだ。
世界的振付師・MIKIKOによる振り付け
ドラマの雰囲気に合わせた、かわいらしさと少し懐かしさを感じさせるこの振り付けは、PerfumeやBABYMETALなど世界で活躍するアーティストの振付師としても有名なMIKIKO氏によるもの。
2016年リオオリンピックの閉会式では、五輪旗引き継ぎの芸術パートも彼女が手掛けたものだった。
恋ダンスはもちろん、Perfumeの振り付けも完コピして楽しむファンが多いのを見ると、誰もが真似したくなる“覚えやすさ”と“曲と振り付けのシンクロ加減”が、このムーブメントの一端を担っていると感じる。
公式動画の再生回数は異例の280万回超え
TBS公式チャンネルのYouTubeの動画再生数は、288万回(2016年12月16日現在)を突破するほど。
公式ホームページでは星野源、新垣結衣、石田ゆり子、大谷亮平、古田新太の5人で踊るバージョンに加え、テレビでは放送されない、津崎の同僚役を演じる藤井隆ら4人のキャストによる恋ダンスも公開されている。
この“テレビでは放送されない”というのがポイントで、歌手としても活動している藤井隆のキレのあるダンス見たさに、サイトにアクセスするユーザーも多いだろう。実際、4人バージョンが公開されたのは11月27日と、番組開始から少し経ってのタイミングだったが、すでに92万回以上再生されている。
公式が楽曲使用を許諾する異例の事態に
YouTubeなどの動画サイトに「踊ってみた」動画を投稿するユーザーが増えるに従い、楽曲の無断使用に関する問題が浮上した。
そこで、星野源の所属レーベルのスピードスターレコーズは、CDや配信で購入した音源を使い、ドラマエンディングと同様の90秒程度の恋ダンス動画をドラマ放送期間中にYouTubeに公開することを許可するとのコメントを発表。
ただし、営利目的での利用など不適切な場合には削除手続きを行うそうだ。通常、アーティストの楽曲を無断で使用する動画は削除することの多い音楽レーベルが、ブームを受けたこのような対応を取ったのは異例の事態と言える。
著名人の“踊ってみた”動画でさらに拡散
恋ダンスは一般人だけでなく、著名人の間でもブームになっている。最近では、フィギュアスケートの羽生結弦選手が踊った動画が話題になったり、劇中ではシャープのモバイル型ロボット電話「ロボホン」が恋ダンスを披露するなど(残念ながら公式動画はすでに非公開)、さまざまな業界に恋ダンスブームが波及している。
なかでも、関西出身の筆者が気に入ったのは、「よしもと新喜劇」メンバーによる恋ダンス。笑いの要素も満載でコンテンツとしての面白さが際立っていた。
これまでには、2011年放送のドラマ「マルモのおきて」で芦田愛菜や鈴木福が踊る様子を真似するのがブームになったり、2013年にAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」で踊る動画をさまざまな企業がYouTube上に公開したりという流れがある。
しかし、スマホやSNSの普及で動画を投稿することが身近になったいま、以前よりもさらにブームに乗りやすい状況が整っていると感じる。
ターゲットを絞ったユニークな企業コラボを展開
昨今のドラマは企業とのコラボレーションも盛んとなっている。よくあるのが、コンビニとのコラボ。今回、逃げ恥でもJRのコンビニ「NewDays」とのコラボで2種類のおにぎりとサンドイッチを発売したが、企業コラボはそれだけに留まらない。
クックパッドには登場人物のレシピアカウントが実在
主人公のみくりは、家政婦という役回りなので、料理が得意。そこで、同作品はレシピサイト「クックパッド」とのコラボを展開している。
みくりが津崎に振る舞った実際に料理のレシピを「逃げ恥@TBS」にアカウントを解説し、視聴者も同じ料理を作れるような工夫をしている。
また、古田新太が演じる津崎の同僚・沼田は、料理好きでレシピサイトにレシピを投稿するほどの腕前だという設定。そのため、実際にクックパッドには沼田のレシピサイトネーム「ハートフル坊主」によるレシピが投稿されている。しかも、このアカウントは、ほかのユーザーのレシピを作った「つくれぽ」を投稿するなど、かなりリアリティに溢れた仕様に。
さらに、12月13日放送回では、「#逃げ恥彼レシピ」のハッシュタグを付けて、彼や夫に作ってあげたいごはんの写真を投稿すると、プレゼントが当たるだけでなく、レシピがドラマ内に登場するというキャンペーンを展開するなど、ドラマと視聴者をつなぐ仕掛けが用意されていた。
劇中かと思うような車メーカーとのコラボCMを放映
逃げ恥を視聴していて驚くのが、途中で必ず流れる日産JUKEのCM。助手席に座る津崎の後輩・風見役を演じる大谷亮平が、運転席に座っている設定の視聴者に向かって話しかけるという設定が、まるでドラマの続きのような構成になっている。
録画でドラマを観る人が増えているいま、思わず早送りせずに観たくなるこのCM。劇中でも百合がJUKEを運転するシーンが出てくるので、「これって百合ちゃん目線から見た風見さん?」と妄想したくなるようなリアリティがある。
地方自治体もドラマによる宣伝に積極的
今回、逃げ恥の舞台となるのは横浜。架空の町ではなく、実際にある町を全面に出すことで、ドラマにリアリティが増す。2016年4月期に放送された日本テレビの「世界一難しい恋」でも舞台は横浜で、ファンがロケ地を巡ったブログなどもネット上では多数見受けられた。
「横浜逃げ恥MAP」が登場
ファンがロケ地を巡る“聖地巡礼”をすることで、その町の知名度が高まるだけでなく、人が訪れることで消費活動が促進される。そういった効果を狙い、逃げ恥は「横浜フィルムコミッション支援作品」になっており、横浜はドラマとタイアップした観光キャンペーンを実施。
横浜の定番コースやデートスポットなどを紹介した「横浜逃げ恥MAP」を配布したり、マップに掲載されたスポットを訪れることでオリジナルのクリアファイルをプレゼントしたりなど、番組のファンが横浜を訪れたくなる企画を用意している。
もちろん、逃げ恥がここまでファンを獲得したのは、海野つなみの原作マンガの面白さがあるのは大前提で、ドラマ化に伴う脚本・演出の巧みさ、そして役者陣の演技力の高さが大きい。ストーリーとしても、「契約結婚」「プロの独身」「愛情の搾取」など、視聴者が「そうきたか!」と感じる展開に溢れている。
明日の放送でついに最終回を迎える『逃げるは恥だが役に立つ』。最後の最後まで“ムズキュン”させてもらいつつ、ハッピーエンドな2人が観られることをイチ視聴者として期待している!
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