世界最大のECサイトであるAmazon(アマゾン)。日本でも、最も使う通販サイトとして楽天を抑えて一位を獲得している。時間指定ができ、一定の額の買い物なら非プライム会員でも配送料無料。しかも、場合によっては当日に届く場合もある。アマゾンなしで生きていけないなんて人もいるかもしれない。
そんな便利なアマゾンがさらなる進化を遂げる。1時間以内配達が可能になる「Amazon Prime Now(アマゾンプライムナウ)」とボタン一つで注文できる「Amazon Dash Button(アマゾンダッシュボタン)」のサービスが開始されたのだ。今まで誰も手掛けてこなかった新サービスの実態と挑戦の精神を探っていく。
もっと速く、もっと便利になったアマゾン
by kohlmann.sascha 「アマゾンプライムナウ」は東京23区や神奈川、大阪などの一部地域で利用可能なプライム会員向けサービスだ。今回、東京23区の新宿、池袋・城北エリアを追加し、全域でサービスを利用可能に。
配送方式は一時間配送と二時間配送の2種類。1時間内配送は6時〜23時59分の時間帯に税込980円で申し込むことができる。2時間配送は24時間受付ており、無料でサービスを受けることができる。
最適化された収納方法が1時間を可能に
極限まで配達時間を縮め、しかも深夜の配送まで提供している。それを実現するためにアマゾンは何を工夫しているのだろうか。
その答えは都内に5カ所設けられているプライムナウ専用倉庫にある。アマゾンの倉庫といえば広大な倉庫内をロボットが走り回っているといった印象があるが、専用倉庫は比較的コンパクトでロボットもいない。
ここでの収納方法に迅速な配達を可能にするタネがある。実は、アマゾンの専用倉庫では商品のジャンル分けをせずに、空いている棚に商品を詰めていっているのだ。一見雑な方法に見えるが、商品と棚のコードを記録することで収納場所がすぐにわかるようになってある。
同じ商品を異なる場所に収納することで、人気商品の棚が混雑することを防ぐことができる。この方法は大型の倉庫でも試されてきたことであり、その精度と効率性にも折り紙つきだ。
ボタンを押すだけで配達の「アマゾンダッシュボタン」がついに日本上陸
出典:www.amazon.co.jp さらに12月5日から、ボタン一つで商品を注文ができる「アマゾンダッシュボタン」が日本でも発売された。このサービスでは、上の画像のような小型端末をクリックするだけで特定の日用品を注文できる。こちらもアマゾンプライム会員のみが利用可能で端末価格は500円。ただ、アマゾンダッシュボタンの初回利用時に500円が差し引かれるため、実質0円だ。
アマゾンダッシュではメーカー毎でなく、商品ブランドは対象になっている。現時点では、エフティ資生堂の「TSUBAKI」やサントリー食品インターナショナルの「サントリー天然水」など40種類のブランド商品が注文可能。
アマゾンダッシュボタンはアマゾンのショッピングアプリでスマートフォンとペアリングさせて利用する。対象の商品は、登録後でも変更可能だ。設定を終えれば、キッチンやトイレなどに設置し、日用品が切れたらその場ですぐに注文することもできる。
注文の手間を簡略化したことでさらなる売り上げ増加を狙う。以前からサービスを開始していたアメリカでは、ピーツ・コーヒー・アンド・ティーがアマゾンで販売する商品の5割がアマゾンダッシュからの注文になった例もあるなど、顧客をさらに集められそうだ。
過酷な労働環境という便利さの代償
さらなる便利なサービスを次々に発表するアマゾン。だが、サービスを実現する上で、運送会社の負担が懸念されている。プライムナウでの1時間というシビアな時間指定、アマゾンダッシュでの小口の注文の増加。これらは配達する側からすれば、歓迎しない声も多い。
今、運送業界の労働環の悪さが深刻な問題となっている。佐川急便では、配達の回転を止めないために配達途中に駐車違反で検挙されたドライバーの身代わりを出頭させたことが表沙汰となった。ヤマト運輸でも、名目上の休憩時間や残業代の不払いなど問題が後を絶たない。
そして、それらの劣悪な労働環境を作り上げた一因がアマゾンにあるのだ。アマゾンは全品送料無料を掲げて、日本での売り上げを伸ばしてきた。その裏には、低コスト化の代償を現場が負ってきた背景がある。
2005年からアマゾンの商品の宅配を担っている佐川急便は、アマゾンのシェアを獲得することで業界一の称号を手に入れることとなったが、結果的には悪い影響を受けることになった。商品の数は多いが、シビアな時間指定や契約料は現場のドライバーを苦しめる。
配送料無料と時間指定などをサービスに取り込むアマゾンとの契約によって、運賃単価が低くなり、配達する荷物は多くなる。必然的に休憩時間をけずる、残業が増えるなどの悪循環が生まれてくる。そのようにして生まれた悪循環は、新たな人手を確保するのにも妨げとなり、さらに人手不足が深刻になる。
結局、佐川急便はサービスの質がだけでなく各営業所の収支が悪化したことから、2013年にアマゾンの配送のほとんどから撤退した。
急がない便の必要性
消費者の中にもこのようなドライバーたちの惨状を案じる人もいることだろう。「急を要さない荷物だから即日や翌日じゃなくても」という場合もアマゾンは考慮してもいいかもしれない。
アメリカやイギリスのアマゾンでは「No-Rush Delivery」という、いわゆる急いでいない人のための配送方法を選ぶことができる。この配送方法では、3〜5日で荷物が届き、クーポンをもらうことができる。
配達する人も受け取る人も利益がある「急がない便」を導入してみるのも、配送会社の労働環境を変える一つの方法ではないだろうか。
アマゾンは「世界一の失敗をする企業」
by jurvetson プライムナウのような今までにできなかったサービスを電子書籍やスマートフォンなど、ジャンルにとらわれない大小のかけを多くするアマゾン。
そしてそれらのほとんどが低価格での提供だ。どうしてアマゾンはリスクが高いサービスを低い価格で実現できるのか。そこには、失敗を糧にするという同社CEOジェフ・ベゾス氏の精神が根っこにある。
「失敗」を誇る:失敗こそが負けない理由
ベゾス氏は滅多にいないタイプの経営者だ。自社を「最も失敗する企業」と明言し、損益を出していることを誇る。
ベゾス氏が失敗を恐れない理由は、その後の大きな成功を見据えてのことだ。実際、アマゾンはこれだけの大きな企業に成長したが、失敗をいくつもしてきた。
2014年に発売した「Fire Phone」もその一つだ。スマートフォン市場が拡大していく中、満を持してアマゾンが発表した自信作だったが、評価は高くなく一年ほどで販売停止となってしまった。
大きな失敗もあるが、その一方で成功をあげた事業も多い。2006年に開始したクラウドコンピューティングサービス、AWS(アマゾンウェブサービス)では多くの顧客を獲得。今ではアマゾン全体の売り上げの約40%を占めている。
もともと書籍販売するECサイトとして発足したアマゾンが、広く、大きな事業を手掛けてきた理念はここにある。誰も手掛けていない、それでも大きく成長する可能性を持っている事業を成功させることこそ、アマゾンが大事にしていることだ。
「赤字」を誇る:プレミアムな商品をプレミアムでない価格で
失敗を誇る、それに負けず劣らずの特徴的な理念を持っている。それは、「赤字を誇る」ことだ。 ベゾス氏は1997年に株式公開した当時、こう語っている。
ただでさえリスクが高い新しい事業に挑戦するときもこの考えを反映させる。むしろ、新しくリスクが高いからこそ重要なのかもしれない。Fire PhoneやAWSでは、機能面では他社に劣っていないにもかかわらず、他社を圧倒する価格設定をしている。
AWSでは50回以上にわたり値下げを敢行し、他社のサービスに付け入る隙を与えなかった。だからこそ、成功したとも言える。
今回、サービスを開始したプライムナウやアマゾンダッシュでも同じことが言える。どこもやってこなかった事業。多大なコストがかかるのにもかかわらず、付加価値に払う消費者の額は非常に少ない。
高品質なサービスを低価格で売る。これはネット関連で成功した世界的企業と大きく異なる部分だ。マイクロソフトやアップル、グーグルにしろ高い利益率が企業の売りだ。
一方でアマゾンが大事にするのは、低価格で高品質というブランドイメージを構築し、5年、10年にわたる長い期間にわたる未来の利益を追求することだ。長年にわたってその分野の第一人者であり続ける秘訣なのだろう。
今までになかったサービスを提供し続けるアマゾン。絶えず続ける挑戦は、ずっと先の未来を視野に入れた大きな野望のもとに成り立っている。
諸費者はサービスを享受し満足するが、サービスは消費者だけで成り立っているわけではない。見落としていた不安要素を解決することで、本当の長い、大きな成功に繋がるのではないのだろうか。
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