ファッションショーの在り方が変わり始めている。今まで、店舗に実際に服が店頭に並ぶのはコレクション発表の半年後、というのが当たり前だった。つまり、春夏に発表される服は秋冬の服であり、秋冬に発表される服は春夏の服だったのである。
そんなファッションの常識は徐々に壊れ始め、発表された服は即発売、という形に変化しているのである。ファッションショーは、そしてファッション業界はこれからどうなっていくのか?
半年前のコレクションを廃止! バーバリーの「新商法」
この動きの口火を切ったのは、誰もが一度は名前を耳にしたことがあるであろう英国のファッションブランド、Burberry(バーバリー)だ。
ファッションブランドの新作発表の場であるニューヨーク・ファッション・ウイークの開幕を目前に控えた2月5日に、バーバリーは今年9月からコレクションの発表と発売の時期を合わせると発表した。つまり、新作発売の半年前にファッションショーで披露するという従来の方式をやめたのである。
消費者のニーズに合わせた柔軟な対応
またバーバリーは、これまで別々に行ってきたメンズとウイメンズのショーを統合することも発表。
そして従来のような春夏/秋冬のシーズン分けも行わないことや、広告展開の時期も新作発表及び発売に合わせるなど、多くの変革を同時に発表している。
つまり、ファッションショー自体がブランドと顧客の間を直接つなぐ大きなマーケティングおよび販促ツールになり、百貨店やファッション誌だけに向けたものではなくなるのだ。消費者のニーズにできるだけ寄り添った、ファッション業界の常識を根底から変える決断だと言えるだろう。
バーバリーが行った“改革”
- コレクションの発表と発売の時期を統一
- 従来の春夏/秋冬のシーズン分けを廃止
- メンズとウイメンズのショーを統合
- 広告展開の時期も新作発表/発売に合わせる
「See Now Buy Now」:NYコレクションで激変した“消費”の形
「革命」とも言えるバーバリーの試みに追随するブランドも急増している。世界5大コレクションと呼ばれるニューヨーク・ロンドン・ミラノ・パリ・東京の中でも特にビジネス色が出やすいと呼ばれているNYコレクションでは、Tom Ford(トムフォード)とVETEMENTS(ヴェトモン)がコレクションの発表と発売を同時期に調整することを発表した。
巨額の費用がかかる割には消費に直結しにくい旧来のショー構成に対する疑問が以前から提唱されていたこともあり、実際の季節に合った商品を展開する「See Now Buy Now(今見て、今買う)」を実現し、購買行動の活性化へと繋げる動きがファッション業界に広がっていると言えるだろう。
理由には「パクリ」への懸念が
「See Now Buy Now」が拡大する背景には、自分たちが発表した直後から発売までの期間中に、似たようなデザインがファストファッションブランドから低価格で発売されて需要を食い荒らされてしまうという懸念も理由として挙げられる。
発表から発売の時期を早めることによって、巨大な資本と迅速な生産体制を持つファストファッションブランドにデザインを「パクられて」失う利益を守ることができるのである。
トレンドはもう教わらなくていい?
通常、ファッションの世界では、パリ、ミラノ、ニューヨークなどで年2回、複数のブランドが集中してファッションショーを開く。そこで発表された新たなトレンドは、テレビ・新聞・雑誌やネットメディアで紹介されて消費者のもとに届き、そして小売業者からの注文を受けつつ商品が生産され、店頭を飾るまでに4~6か月を要する。
しかし「See Now Buy Now」の動きによって、その常識が変わろうとしている。コレクションを見て、すぐ買えることによって消費者がトレンドを判断する時代になりつつあるのだ。
「See Now Buy Now」のメリット
- 発売を早めることによって消費者の需要により近づくことができる
- ファッションショーの熱が冷めぬまま発売に移行することが可能
- ファッション誌を通さないことで、トレンドがより本質的なものに
- コレクション発表から発売までの間にデザインを「パクられる」危険性が減る
ファッション業界では否定的な意見も
出典:ja.wikipedia.org メリットばかりのようにも思えるこのムーブメントだが、ファッション業界では否定的な意見も少なくない。
Chanel (シャネル) と Fendi (フェンディ) という巨大メゾンを手がけるカール・ラガーフェルド(上画像)は一連の動きについて「めちゃくちゃだ」と発言しており、長年ファッションの根底に流れ続けてきた伝統といった部分が破壊されてしまうことを危惧している。
また、豊富な資金力を持つ大規模なファッションブランドでは可能であるものの、小さい独立系のデザイナーは流通を卸売業者に依存しており、ファッションショーから発注、生産まで約半年の猶予期間がどうしても必要となる。
「See Now Buy Now」のデメリット
- 小さい独立系のブランドにはどうしても準備期間が必要
- プロモーションに割く時間が短くなる
- 出荷量のコントロールが難しくなる
- 長年培われたコレクションの伝統の“消失”
SNSとの連携も! 変革を迫られるファッションショー
批判もあるとはいえ、この動きが拡大していくのは間違いなさそうだ。ショー会場へ一般消費者を招いて、その場で商品を購入できるようにしたり、SNS発信を促したりするような試みも盛り上がっている。
また、ファッションショーをネットで生中継したり、SnapchatやInstagramで新作を発表するブランドも増えてきている。ファッションショーが始まる前に、ファンが新作の完成予想図を見ることができる、というのも珍しくない。
「See Now Buy Now」のその先へ
早くも「see now buy now」のその先を試みているブランドも存在する。「Alexander Wang(アレキサンダーワン)」と「adidas Originals(アディダス オリジナルス)」のコラボライン、「adidas Originals by Alexander Wang」はその代表的な例だ。
アレキサンダーワンのショーでコレクションを発表した翌日に、コレクションを両ブランドのショップで販売せずにニューヨークの3箇所にポップアップ・トラックをゲリラ的に出現させ、そこでアイテムを発売したのである。同じ試みは9月17日にロンドンと東京でも行われ、大きな反響を呼んだ。
ファッション業界は今、大きな変革の時期に立たされている。先陣を切ったバーバリーも、ファッションショーのシステムを変えていくことによりもたらされるさまざまな問題をどうやって解決していくのか、はっきりとはわかっていない。
しかし、ファッションブランドたちが可能な限り早く、消費者の望むものを提供しようとしているのは確かだ。私たちの“消費”の形が変わる瞬間は、すぐそこかもしれない。
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