小学校教育に「笑い」を取り入れた「笑育」(わらいく)というものが話題になった。
くじ引きでコンビを決めて生徒同士に漫才をさせる。二人で一緒にネタを作ることが、生徒同士の仲をよくすることや生徒一人一人の発想力や創造力を磨くことにつながるのだそうだ。
今の時代を生き抜くための知恵や力が詰まっているのが「お笑い」であり、小学校教育においてその価値は高まっているらしい。
このように笑いの需要があるのは教育業界だけではない。ビジネスの世界でも「笑いのスキル」が求められている。
「笑いのスキル」や「トーク力」を身に着ければ、営業やコンペに活かせるはず、という発想だ。
「お笑い」がビジネススキルだなんていきなり言われても、なかなか納得できないが、「ビジネスへの転用」を目的に「お笑い」を教える社会人向けのセミナーは、実はたくさんある。今回は、「お笑い」を扱うビジネスセミナーを具体的に見ていきながら、「笑い」はビジネスにどう活かされるのか考えていきたい。
「お笑い」から得られるビジネススキル
この後で具体的に説明するが、ビジネススキルとして、「お笑い」を提唱する研修や講座が謳うのは大きく分けて下の3つである。
①トーク力
流暢かつ、クスッとくる小ボケ満載のトークができるようになることで、営業のときクライアントとスムーズにコミュニケーションをとることができるようになる。
②度胸
人前に立ち、笑いを取ろうとし、何度もスベることを経験することでメンタル面が鍛えられる。その結果、コンペや飛び込み営業でも物おじせずに堂々と話ができるようになる。
③発想力
笑いの起こるような話の持っていき方や展開の仕方ができるようになり、相手を笑わせるためのアイデアが浮かんでくるようになる。
確かにこうしてみると、これら3つは紛れもなくビジネスを円滑に進めるためにぜひとも身に着けたいスキルであり、お笑いにはビジネスの神髄が詰まっているようにも感じられる。それでは、実際に存在する「お笑い研修」についてその内容を見ていきたい。
実際にある「お笑い」研修
出典:upgarage.sub.jp漫才研修(株式会社アップガレージ)
アップガレージが中古車やバイクの買い取り・販売専門店であるが、社員研修に「漫才」が取り入れられている。
大手芸能事務所の養成所で実際に芸人たちに教えている構成作家に指導をうけた後、社長らの前でネタを披露するという本格的なものである。この研修の狙いは営業に活きる「笑いの取り方」を習得させるだけでなく、飛び込み営業にも屈しない「度胸」を身に着けることだ。
なんと、「プロの芸人が出演するライブに自社の社員を出させる」という無謀にも聞こえることを行っているのだ。こうすることによって、社員たちの度胸がつき、面白ければ会社の評判を上がる。まさに一石二鳥である。
ちなみに、上の写真は2015年の漫才研修の時の一枚とのこと。
お笑いコミュニケーション研修(株式会社TKP)
出典:www.tkpseminar.net TKPは、企業向けの会議室の貸出や社員研修の提供を軸にする企業。この会社の提供する研修の1つが「お笑いコミュニケーション研修」である。この研修には4つの種類がある。
①ひな壇トーク研修
個性伸長、チームビルディング、組織活性に繋がるひな壇芸人のキャラづくり、信頼づくり、空気づくりを伝授。
②スベらない雑談研修
売れっ子芸人の雑談を分析することで、相手の心を掴みかつ、仕事の本質を明確化するトークスキルをつけることを目指す。
③漫才プログラム研修
実際に漫才を行う。ネタ作り、ネタ合わせ、ネタ見せを通して、発想力や表現力、さらには快適なコミュニケーションの間やリズム、トークの構成力を養う。
④番組MC流リーダーシップ研修
番組MCを体感することで、リーダーに必要不可欠な会議でのユーモアを取り入れた仕切り術、部下の可能性を引き出す芸人流コーチング術を養う。
ツッコミュニケーション(株式会社ブックブリッジ)
出典:book-bridge.jp ブックブリッジは、現役の放送作家である橋本昌人を代表として、企業や団体向けにセミナー・研修を提供する会社である。同社の提供するセミナーの1つが「ツッコミュニケーション」である。
「ツッコミュニケーション」とは?
- 「ツッコミ」と「コミュニケーション」の融合をテーマに、ツッコミのスキルを磨くことで、自分や相手の良さを引き出す方法や会議などで的確に指示・判断ができる方法が身につくセミナー
ブックブリッジは他にも、「漫才ワークショップ」や「大喜利ワークショップ」も行っている。様々なセミナーを通して、対人スキルやビジネススキルとしての「お笑い」の重要性を発信している。
お笑いスキルを身に着けたい、そんなあなたにお勧めな講座
「『お笑い』がビジネススキルである」といきなり言われてしまうと眉唾ものに聞こえるが、実際にこれだけ「お笑い」を軸にしたビジネスセミナーがある。
自分でも「お笑い」の力を体感してみたくなった読者もいるのではないだろうか。そんな方のために、個人でも受講のできるお笑い講座をいくつか紹介しよう。
笑伝塾
出典:www.human-cx.co.jp 株式会社 ヒューマンコメディックスが主催するセミナーで1人でも参加しやすいものとなっている。同社の代表である殿村正明は元芸人で、芸人をやめた後、そのスキルを活かして住宅販売のトップ営業マンになった人物である。
笑伝塾では、殿村氏が10年かけて作り上げた「笑いのプログラム」を実践形式で学んでいく。
笑講~ビジネスパーソンのためのお笑い講座~
出典:www.warako.com 吉本興業で構成作家を務める猪虎太郎氏と、東京演芸協会理事を務める好田タクト氏を講師に、ビジネスシーンで使えるお笑いテクニックを伝授。
そのカリキュラム例を紹介しよう。
カリキュラム例
- 0:00〜講師自己紹介(お笑いとともに歩んだキャリア)
- 0:20〜アイスブレイク(売れている芸人のデビューの話等)
- 0:40〜お笑いにおける唯一無二の公式とは?(実例を挙げ徹底解析!異性間のコミュニケーション力アップ、初対面の人達とのコミュニケーション力アップなど)
-
1:10〜漫才・コント体験(漫才やコントをやってみよう!)
講師が用意した漫才、コントの台本を受講者の皆さんに体験。人前で話す事への慣れ、笑いの間などを指導 - 1:40〜(なるべく)すべらない話:受講者の好きな設定で話をして、改善するべき点を指導(自分のエピソード、1分間スピーチ、朝礼の訓示、様々な場面での挨拶など)
全部で2時間程度のカリキュラムだ。「お笑いにおける唯一無二の公式」というのが筆者としても非常に気になる。
そんなものが存在するならのどから手が出るほど知りたい代物であるが、これが知りたければ、同セミナーを受けるしかないのである。
落語会なまらく
出典:www.office-zoe.jp 一人喋りで何役もこなし、情景まで見せるというある意味「究極の話芸」である落語を体験することができる。
おすすめなのが、「落語会なまらく」。練習場(上野・品川・千葉・船橋)はどれも最寄り駅から徒歩10分以内のところにあり、個性豊かな5名のプロの落語家の指導が受けられる。
「お笑いはビジネススキルである」という発想は、「笑いがコミュニケーションを円滑にする」というという点に由来しているようだ。つまり、ビジネスとはコミュニケーション無しには成り立たないということだろう。
だとしたら、「お笑いのスキル」を習うことは、「コミュニケーションの取り方」を習っているということとなり、「コミュニケーションの取り方って座学や講座で身につくものなのか?」と私は思ってしまい、「お笑いスキルのセミナー」などと言われるとやはり狐につままれたような気分になる。
しかし、これだけ「お笑いスキルのセミナー」が実在しているということはやはり需要があるということで、現代とはそれだけコミュニケーションの求められる時代で、とりわけビジネスにおいてはコミュニケーション能力への需要が高まっているのだろう。
「お笑いがビジネススキルだ」と言われるのは、ビジネスがそれだけ人間臭いものだということなのではないだろうか。
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