少子高齢化社会の日本で、労働者不足が叫ばれて久しい。ここ20数年、いわゆる生産年齢人口(15歳〜64歳)は減少し続けている。その現状を受けて、政府は外国人労働者の受け入れへの体制を変えつつある。本記事では、人手不足の日本の外国人労働者事情とその問題点について迫っていく。
外国人労働者の受け入れは人手不足を解決してくれるのか
介護の現場に外国人労働者を
今回可決された法案では、日本で介護福祉士の資格を取得した外国人が日本で働けるよう、在留資格を与えることが新たに加えられた。
介護の現場での外国人労働者の多くは、日系人や配偶者に日本人を持つものが多くを占めている。今まで、日本と血縁や戸籍で関わりのない外国人は、2008年に結ばれた経済連携協定(EPA)に定められた条件を満たさなければ在留資格を得ることができなかった。
その条件とは、まずEPAを締結したインドネシア、フィリピン、ベトナムからの介護士であること。また、日本の介護福祉士の資格を期限内に取得できなければ、帰国しなければならない。改正入管法により、日本語学校に留学している外国人が留学中に介護福祉士の資格をを取り、在留資格を得ることが可能になった。
今国会では外国人技能実習制度も見直され、新たに介護が対象の職種に加えられることになる。この二つの法案が国会を通ったことで、日本の介護現場で働く外国人が一気に増えることになる。
現代の奴隷を生み出さないために
だが、このように介護の門戸を外国人労働者に解放することは、根本的な問題解決につながらず、むしろ新たな問題を生み出す可能性がある。
介護の人手不足の大きな要因は、厳しい仕事内容に見合わない低賃金だ。劣悪な待遇でも外国人労働者ならば受け入れてくれるのでは、という考えが日本の外国人労働者の政策に見え隠れしている。現状を改善せず外国人労働者を安易に受け入れれば、現在の介護を取り巻く環境は変わらない可能性が大きい。
また、前述した外国人技能実習制度にも問題点がある。この制度は発展途上国の外国人を受け入れ、実習を通じて技能を身につけてもらうというものだ。国際貢献として設けているこの制度だが、研修として低賃金で単純労働を課しているのではないかと国内外から多く批判を受けている。
100時間を超える残業や最低賃金を下回る時給で労働させられていた例があったなど、現代の人身売買ではないかと指摘する声もある。その過酷さは研修からの失踪者数が表している。2013年から2015年の間に9,000人超もの研修生が無断で連絡を絶っているのだ。
この惨状の解決のために、今回の制度の見直しに研修生の受け入れ先の監督強化も盛り込まれている。低賃金での長時間労働やパスポートを取り上げるなどの人権侵害行為防ぐため、受け入れ先の企業を監視する。
待遇が悪いが故に人手不足である介護の現場を、外国人労働者で補おうとするのは本末転倒だ。介護が抱える問題を解決できないだけではなく、外国人労働者への冷遇は国内に恵まれているものとそうでないものの対立構造を生み出すことになる。
今のところ、日本の外国人労働者はまだ多くないから実感しにくい問題だ。だが、このまま少子化が進めば、近い将来外国人労働者が増えるのは間違いない。そのときのためにも、外国人労働者が同等の立場で働ける環境を作ることは必要不可欠だ。
エリート留学生を手放す人材不足の日本
望んでいるのに叶わない、留学生の就活事情
今年の3月に経済産業省によって公表された「内なる国際化研究会」報告書によると、学部生の70.4%が日本での就職を希望しているのにもかかわらず、29.7%のみしか就職できていない。修士課程、博士課程含めて年間約1万人もの人材が流出していることとなる。
なぜ、これほど開きが出てしまうのか。大きな要因は、日本独特の就活文化だ。一般的に企業は3月卒業を基準に日程を組んでいる。9月卒業が多い留学生にとって、予定が合わないことが多くなってしまう。
日本語が母語でないのにもかかわらず、エントリーシートを書いたり、SPI試験を受ける必要があることも就職を困難にしている理由の一つである。外資系の企業も含めた多くの企業が高い日本語能力を留学生に要求するため、どの分野の企業に就職しようとしても言語の壁にぶつかる。
就活に関する情報が得られないことで苦労する留学生もいる。日本の就活は学部生なら3年の秋からと、かなり早く始まる。すでにその時期には情報収集の戦いは始まっているわけだが、留学生は情報源がない故にその流れに出遅れてしまう。
働くには魅力的でない国
また、日本は働く場所としては留学生からの評価が高くないようだ。日本に住むことが魅力的だと約83%の留学生が答えた一方、日本で働くことが魅力だと答える留学生は約22%にとどまる。
前述したような就活文化への不満も少なからず含まれているが、就職後の待遇に違和感を感じる留学生が多い。というのも、多くの日本企業が留学生に対して最も求めている能力が語学力である。入社してから気づく社内での「翻訳」としての役回りは、「大学で学んだことが活かせない」と不本意に感じがちだ。
この感情は多くの日本企業の一般的な業務にも感じることが多い。大企業に入って高給を得たとしても、業務内容に満足できない留学生がたくさんいる。
在留資格の基準が高いハードルに
在留資格が取りにくいことも、留学生が日本で働く上で障害となっている。まずぶつかるのが、就活時の就労ビザ取得だ。
卒業までに内定が取れていれば問題なく就労ビザを取得できる。だが、就職先が決まらなかった場合就活のためのビザが存在しないため、在留資格を「特定活動」に変更する必要があるのだ。この申請には、大学からの推薦状や1ヶ月ごとの就活のレポートを提出しなければならないなど時間と労力を要する。
また、永住権取得も厳しい基準が設けられている。日本の永住権獲得には、原則10年間日本に住まなければならない。韓国、イギリスは5年、アメリカは規定なしだということを考えると、日本の永住権獲得のハードルの高さがわかる。
その他にも、手続きの手順の多さが他国に比べて多い。約40%の留学生が永住権取得の基準の厳しさに、約20%がその手続きに時間がかかることに不満を抱いている。
それでも10年前、20年前に比べれば、まだ留学生が就活しやすい環境になったと言えるだろう。大学の留学生向け就活プログラムや社員の意見が通りやすい中小企業などの独自の取り組みが増えてきている。だが、まだ海外の高度人材確保への改善点は多い。日本全体の問題としてそれぞれの機関が取り組む必要がある。
本記事では、日本が抱える外国人労働者に関する問題について述べてきた。現在の日本は、徐々に外国人労働者を受け入れる姿勢に変えつつある。だが、発展途上国からの労働者、高い能力を持った留学生どちらの意見も反映できていないのが、現在の政策の現状だ。
これから外国人労働者を取り込む上で必要なのは、外国人労働者の声を聞くことで、企業や現場と外国人がお互いに抱くイメージのギャップを埋めていくことである。そうすることで、双方が働きやすい環境を作ることができるのではないだろうか。
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