最近、“クラフトビール”という言葉をよく耳にする。比較的低価格で手に入り、口当たりが優しいものもあるため、苦味の強いビールが苦手な人や仕事から帰宅して自宅でのリラックスタイムに嗜む読者も多いのではないだろうか。
本記事では、クラフトビールが近年広がりをみせた背景と、キリンホールディングスが打ち出す「クラフトビール戦略」、2017年新たに始動するクラフトビール事業について見ていきたいと思う。
独特なパッケージに包まれ話題のクラフトビールとは
出典: Amazon.co.jp 「水曜日のネコ」、「よなよなエール」、「前略 好みなんて聞いてないぜSORRY」一見すると、なんの商品か分からないポップなネーミングに思わず惹かれてしまう。これらは全てクラフトビールの商品名である。ここは、ここ2~3年で一気に普及したクラフトビールの背景に迫りたい。
クラフトビールとビールの違いは?
日本ではビールとクラフトビールは法律上では同じ区分で扱われており、明確な定義も定められていないが、「クラフトビール」=「安いビール」と簡単に定義付けしてはいけない。クラフトビール先進国である米国における定義は下記の通りである。
米国におけるクラフトビールの定義
- 小規模生産であること(年間生産量が600万バレル(約70万kl)以下であること)
- 独立していること(酒造メーカーに所有されていたり、資本提携がなされていないこと)
- 例外を除き麦芽100%などの伝統的な製法を守ること
一概に米国の定義を製造・販売環境の違う日本に当てはめるのは難しい。そのため小規模で高度な技術を持った職人がこだわって作ったビールを「クラフトビール」と呼んでいるようだ。
簡潔にいうと大手メーカーの販売する従来のビールは全国どこでも同じ味を楽しめるのに対して、クラフトビールはその時その場所独自のビールを味わうことができるという点だと言われている。
地ビールとの明確な違いも定義付けられてはいないが、地ビールは町興しのために自治体の支援のもと多くの地ビールが誕生したのに対して、クラフトビールは比較的低価格だが、地ビールよりも高度な技術を持った少数の職人がこだわりを持って作ったビールと言われている。
また、大手メーカーが参入している点や、インディア・ペール・エールや、ポーター、ベルジャンホワイトといった多種多様なビールがあるのが特徴である。
香りや味わいから分類されるクラフトビール
ビールは、使用している酵母や発酵法の違いで「ラガー」と「エール」に分けられる。「ラガー」はラガー酵母による下面発酵で、切れの良い苦みとスッキリとした味が特徴。「エール」はエール酵母による上面発酵で、複雑な香りとフルーティーな味が特徴である。
また、一般的に色味によって「金色のビールはシャープな味わい」「白色はフルーティーな味わい」「茶色はコクと苦味が特徴」「黒色は苦みと甘みがある飲み口」などと言われている。
特にクラフトビールは、種類が豊富なため、色を楽しんだり風味を飲み比べてみるのも醍醐味のひとつだ。ここでは、味の特徴別でビールの種類を紹介していきたい。
ピルスナー(ラガー)
大手メーカーが販売するポピュラーなビールのほとんどは金色のラガービール「ピルスナー」である。ポップの苦味と、シャープな味わい、そして爽快な喉越しが特徴である。代表的なものでは、「アサヒスーパードライ」や「キリン一番搾り」がある。
ドルトムンダー(ラガー)
少し赤みがかった金色のラガービール「ドルトムンダー」は、ドイツ発祥のスッキリとした程よい苦みと、モルツの甘味が調和した穏やかな味わいと同時に力強いコクがある。「ヱビスビール」などがその代表だ。
ベルシャンホワイト(エール)
エールビール「ベルシャンホワイト」は淡く、白く霞んだ美しい色をしており、ベルギーが発祥の地だ。日本では、人気クラフトビールである「水曜日のネコ」が代表的。苦味が少なく柑橘系のフルーティーな香が特徴。ビールが苦手な人や、女性にも人気のビールスタイルだ。
ヴァイツェン(エール)
小麦麦芽を50%以上使用したエールビール「ヴァイツェン」は、ヨーロッパでは「貴族のビール」と称されるほど贅沢なビールとされている。
ビール酵母をろ過せず製造しているため、白濁した黄金色となっており、バナナのようなフルーティーな香と甘味が強い特徴をもったビールスタイルだ。日本ではクラフトビールの「銀河高原ビール」などが代表だ。
ビール酵母をろ過せず製造しているため、白濁した黄金色となっており、バナナのようなフルーティーな香と甘味が強い特徴をもったビールスタイルだ。日本ではクラフトビールの「銀河高原ビール」などが代表だ。
ペールエール(エール)
エールビールである「ペールエール」は、鮮やかなオレンジ色が目を惹くビールで、ポップ由来の華やかな香りと、苦味の中から感じられるフルーティーな甘味が特徴。クラフトビール初心者には飲みやすいスタンダードな味わいとなっている。「ヨナヨナエール」などのクラフトビールがその代表だ。
キリンが2017年新たなクラフトビールで目指すもの
年々ビールの市場が縮小し、さらに若者の酒離れが追い打ちをかけている。そこでクラフトビールに注目したのがキリンホールディングスだった。
クラフトビール戦略
キリンが掲げる「クラフトビール戦略」は、キリンの主力商品である「キリン一番搾り」だけを推すのではなく、場面や好みに合わせてビールを消費者に提案していくものである。2014年には、先ほど紹介した「よなよなエール」などを手掛ける国内クラフトビール最大手のヤッホーブルーイングと資本業務提携を結ぶなど、今までにない新たな一歩を踏み出した。
2015年春にはビール醸造所と飲食店を併設した「スプリングバレーブルワリー」をオープンし、クラフトビールを嗜む場を提供。クラフトビールをより身近なものにすることに成功した。さらに、2016年には、自社製品のクラフトビール「グランドキリン」の販売経路を拡大するなど徐々に市場を拡大しつつある。
現在クラフトビール市場はビール市場全体の1%にも満たない状態だが、アメリカにおいては11%、金額ベースで見ると20%にも達している成長分野であるという。キリンは、今の日本のクラフトビール人気をブームとして終わらせないためにも、時間をかけて市場を大きくしていきたいと言及している。
米クラフトビールメーカーと提携し新たなビールを提供
キリンは2016年10月新たにクラフトビール市場を拡大すべく、米国のクラフトビール製造大手であるブルックリン・ブルワリーとの業務提携を発表した。2017年1月をめどに日本国内にキリンビールが6割出資する合弁会社を立ち上げ、ブルックリン社のブランドで商品を提供するという。
海外のクラフトビール製造は日本初の試みであるが、クラフトビール輸出量世界トップクラスを誇るブルックリン・ブルワリーが業務提携を決めた理由は、キリン社員の熱意と、クラフトビール市場の伸びしろだったという。
キリンは2021年までに市場規模を3%に拡大し、その中で自社が50%のシェアを握ることを目標に掲げている。
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