厚生労働省が発表した「平成27年賃金構造基本統計調査」によると、働く女性の賃金は平成26年より1.7%増、過去最高の数字となったという。また、男女間賃金格差は過去最少となり、女性の社会進出と活躍が伺える。
そんな中、女性の働き方と、扶養家族のいるビジネスマンの納税が大きく変わるかもしれない議論が始まった。本記事では安倍政権が見直しを検討している「配偶者控除」についての現状と、見直されたらどのように変わるのか見ていきたい。
“内助の功”を評価する制度だった?:配偶者控除
そもそも配偶者控除とは
国税庁が記載する配偶者控除の概要には「納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合には、一定の金額の所得控除が受けられます。これを配偶者控除といいます」と示されている。
この制度は1961年に設けられたという歴史を持つ。簡潔に言うと、納税者の所得に関係なく既婚者の場合、配偶者である妻が専業主婦、または収入が少ないなど一定の条件を満たしていれば、「夫には養うべき人がいるため、支払う所得税を減らす」という所得控除の制度である。
控除対象配偶者となる条件
- 民法の規定による配偶者であること(内縁関係者は該当せず)
- 納税者と生計を一にしていること
- 年間の合計所得金額が38万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
- 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと。または、白色申告者の事業専従者でないこと
この控除の条件が制定されたのは、女性の社会進出がまだ進んでいなかった時代に、家庭を守る女性に対して評価するという意味も込められていたそうだ。しかし、働く女性が増えた世の中でこの制度が逆に女性の社会進出を妨げていると問題視されるようになった。
配偶者に憚る“103万の壁”
控除対象配偶者の条件で注目してほしいのは、「年間の給与収入が103万円以下であること」という部分だ。多くの女性は、この条件を満たすために年収103万を超えないように意識しながら働くことになる。
ある外食チェーン店のパート雇用の勤務時間を調査したところ、多くの月の出勤時間は100時間前後で推移する一方で、9月、10月は月に50時間以内の勤務と大きく減り、さらに11月は他の月の給与を計算してさらに勤務時間を短くしていることが明らかになった。
この結果から、年収が規定の金額を超えないように年末にかけて帳尻を合わせていることがよくわかる。
配偶者の年収が103万円を超えると働き損?
例えば、夫の年収が500万円、妻の年収が150万円、世帯収入が650万円の場合、妻の年収が103万円を超えているため、配偶者控除が認められず、妻は社会保険料を自分で払わなければいけなくなり、最終的な世帯の手取りは511万円となる。
一方で、働く環境は同じ条件で夫の年収が500万円、妻の年収を102万円に抑えた場合、会社からの家族手当や、配偶者控除が認められることで夫が払う所得税が低くなり、最終的な世帯の手取りが510万円となる。という試算がある。
配偶者が150万円分働いても、102万円分働いても最終の手取りに1万円分しか差が出ず、働き損と言われている。この様な背景から、国は2017年を目処に、配偶者控除の制度の見直しを本格的に進めているそうだ。
配偶者控除が見直されたらどの様に変わるか
出典:www.france24.com 1997年以降専業主婦と共働きの家庭の数が逆転。共働きの家庭が増えた影響で、配偶者控除の制度が度々問題視されるようになった。
しかしながら、2005年小泉政権・2009年鳩山政権・2014年安倍政権で幾度も制度の廃止をマニフェストに掲げたり、議論されてきたが実現には至っていないのが現状だ。
安倍政権が掲げる“一億総活躍社会”の環境づくり
少子高齢化の日本において「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」の“新三本の矢”の実現を目的とする「一億総活躍社会」の実現には、女性の社会進出が重要だとし、安倍首相はそのための環境づくりをしたいと言及。そこで、配偶者控除の制度が見直されることになった。
2016年11月14日政府の税制調査会の報告書によると、配偶者控除の見直しに対する消極的な意見が出た一方、上限を103万円から150万円に引き上げるといった意見や、夫の所得が一定額を超えた場合控除を受けられない制度にする案も挙げられたという。
具体的な改革内容は発表されていないものの、政府全体の意見としては、「見直しを進めることが必要だ」という方向で今後議論していくと言及した。
配偶者控除廃止のメリット・デメリット
配偶者控除が廃止された場合、低所得者層の増税額は5万円程度に留まるとされているため、子育て支援の拡充の方向性によっては低所得世帯にはメリットが出る可能性があると見られているが、それ以外の層については金銭的なメリットがもたらされる可能性は非常に低いと言われている。
また、高所得者については、新たな控除の対象になる可能性が低いため増税になる可能性が高い。
出典:blogs.ft.com 長年改革が実現してこなかった制度を廃止することは容易ではないことは確かだ。配偶者控除の制度に助けられている家庭がいる一方で、この制度があるがために働きたくても働けない状況にあるひとがいるのも事実である。
政府には、双方にメリットがあるような新制度が求められている。安倍政権が掲げる「一億総活躍社会」の実現には、税制を見直すだけでなく社会保障制度や企業手当の制度の改革も必要なのかもしれない。議論の結果は12月上旬に発表される予定だが、配偶者控除がどう変わったかと同時に、どのような内容の新しい制度や手当ができたのかも一緒に注目していきたい。
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