2016年11月10日にバラエティ番組「アメトーーク!」で読書が好きな芸人がオススメの本を紹介する企画が放送された。その中でお笑いコンビ「メイプル超合金」のカズレーザーが『中をそうぞうしてみよ』という絵本を紹介。
この放送後、Amazon(アマゾン)などのネット書店に注文が殺到し、品切れが起きるほどの反響ぶりである。今、大人も楽しめる絵本が増えてきている。そんな大人も魅了する絵本を紹介していく。
大人の想像力も超える絵本:『中をそうぞうしてみよ』
出典: Amazon.co.jp 前述したように「アメトーーク!」でカズレーザーが紹介した本がこの『中をそうぞうしてみよ』である。X線写真を使って身近な物を透かした写真が満載の一冊である。この本の醍醐味はタイトルの通り「想像する」ことである。この表紙の椅子の中はどうなっているのか?と「想像する」ことが重要である。そんな自分の想像力を超えてくる写真を見た時に、新しいものが見えてくるかもしれない。
筆者の佐藤雅彦氏はNHK・Eテレの番組である「ピタゴラスイッチ」の監修をつとめている。様々な形や大きさの線に当てはまるものを想像する『ぴったりはまるの本』など、佐藤氏の絵本はピタゴラスイッチのように想像力を掻き立てられるものばかりである。
「The 和」な絵本:『盆栽えほん』
出典: Amazon.co.jp 2016年12月にインドで国際盆栽コンベンション&展覧会が行われる。現在、世界的に「BONSAI」に注目が集まっている。盆栽の歴史、盆栽の手入れの方法など盆栽の基本を絵本で学べるのがこの『盆栽えほん』である。典型的な木の盆栽だけでなく、花や実が実るものや草の盆栽など幅広い種類の盆栽が取り上げられており、盆栽の深さを手軽に感じることができる。
また、盆栽の育て方だけでなく、四季の移ろいなど日本人が知るべき「和」の文化を学ぶこともできる。中高年のイメージが強い「盆栽」というものへの敷居を下げてくれる一冊になっている。
天国で何する? 天国で何になる?:『このあと どうしちゃおう』
絵本ながら「死」がテーマの一冊。ストーリーは、主人公の男の子がおじいちゃんの死後の夢を書いた一冊のノートを見つけるところから始まる。そのノートを読んだ男の子は死後のことを考え始める。男の子は、死を考えることで、生きている「今」というかけがえのないものに気づかされる。
死を意識できるようになった大人が読むからこそ、子どもが読むときと一味変わった物語に感じるだろう。そんな『このあと どうしちゃおう』という素敵な物語に浸ってみてはいかがだろうか。
600万円もの資金はクラウドファンディングで!:『えんとつ町のプペル』
出典: Amazon.co.jp お笑いコンビの「キングコング」の西野亮廣氏がクラウドファンディングで目標金額600万円をはるかに超える約1,013万円の資金を集めて、製作したのが『えんとつ町のプぺル』である。
煙突だらけのえんとつ町の空は、黒い煙で覆われているため、住民たちは青い空や輝く星を知らない。空を知らない町に生まれたゴミ人間と町で唯一空を信じる少年が黒い煙の先を見ようとする物語。
この物語はえんとつ町を現代社会と捉え、そのコミュニティの中からはみ出して夢や希望を追いかけ、問題へと立ち向かっていくことが素晴らしいことであるというメッセージがある。『えんとつ町のプペル』は西野氏の生き方そのものであり、絵本作家としての努力の賜物である。
「新しい絵本の形」を作った西野亮廣
出典:sezonartgallery.com この展覧会はクラウドファンディングで資金を集め、日本のクラウドファンディング史上最多となる支援者数6,257人を記録し、目標額の180万円をはるかに上回る約4,637万円を集めた。西野氏は、この絵本をどのように売れるものにしたのか。
絵本を「完全分業制」に
出典:nishino.thebase.in 西野氏は『えんとつ町のプぺル』を発売する以前にも3冊の絵本を発売している。
絵本は5,000部や1万部でヒットといわれるような業界である。そのため、映画などのように制作費の採算がつかないため、絵本を一人で作る場合が多い。
しかし、その中で西野氏は「なぜ1人で絵本をつくるのか」という疑問を持った。西野氏は「そこを任せたら一番」という人を集めて、完全分業制という絵本制作では異例の形をとった。イラストレーターやクリエイターは総勢33名にまでのぼり、製作期間は4年半もの歳月をかけた。そのため、絵本とは思えないクオリティの作品になっている。
「クラウドファンディング」で資金集め
出典:wesym.com また、今回のクラウドファンディングでは46種類と数多くのリターン(クラウドファンディングに資金提供した人への見返り)が用意されていた。
特に筆者が魅力的に感じたリターンは、「西野による90分の講演会」。西野氏が指定された講演テーマに合わせて、90分間喋りに行きてくれるというもの。特に、西野氏の出資者への感謝の気持ちが伝わるリターンとなっている。
丁寧なプロモーション
西野氏は2016年8月に行われた「西野亮廣独演会 in 東京」の最終日に、えんとつ町のペプルの「読み聞かせ」を行った。そんな西野氏の独演会をYouTubeで見ることができる(読み聞かせは1時間27分頃から)。作者が自分の絵本を「読み聞かせ」することは珍しいことである。読み聞かせになると聴覚も刺激され、目で絵本を読むのとは一味違ったものになっている。
また、2012年には西野氏と「NON STYLE」の石田明氏が出演し、舞台「えんとつ町のプペル」の公演が行われた。絵本制作をスタートさせる前に、西野氏の「お客さんの反応が見たい」という希望のもと行われたもので、絵本作成前後での丁寧なプロモーションがこの絵本の成功を支えているのだ。
加えて、11月いっぱいまで開催している「えんとつ町のプぺル展」で限定1セット41枚で販売していた作品が西野氏と面識のあった実業家に1,000万円で購入された。もはや、西野氏の絵は絵本の一部というより「芸術作品」として捉えられている。
西野氏は『えんぴつ町のプペル』に様々な角度からのアプローチを行った。西野氏は一方的に絵本を売るのではなく、絵本の購買者との間で相互的な交流を図ったのがこの絵本のヒットに大きく影響している。このように、西野氏は絵本の新しいマーケティングを提示している。
少子化が進み児童をターゲットにしたマーケットは、どんどん収縮していくだろう。そんな中で大人も楽しめる「絵本」の市場というのはまだまだ発展途上である。西野氏のように、絵本に対して色んな角度からアプローチをかけることが、絵本をより魅力的なものにしていくのではないか。そんな大人も楽しめる絵本市場の行く末に期待である。
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