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ドローンビジネス最前線:携帯電話網でコントロールするNTTドコモの「セルラードローン」を追った

井上 晃

2016/11/18(最終更新日:2016/11/18)


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 NTTドコモは11月15日、エンルートおよびMIKAWAYA21と協力し、携帯電話のネットワークを通じて操縦する「セルラードローン」の実証実験を実施した。

 実験内容は、“離島にドローンで日用品を届ける”というシンプルなもの。しかし、その背景を探ることでドローンビジネスの実態が見えてくる。

実証実験は福岡市の離島で行われた

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 同実験の舞台となったのは、福岡県福岡市にある能古島(のこのしま)。博多湾の中央にある、面積3.93平方kmの自然豊かな離島だ。奈良時代には防人が置かれ、万葉集にも詠われた。島内には史跡や博物館のほか、海水浴場や「のこのしまアイランドパーク」などの観光スポットもある。島民にとって重要な交通手段となるのは、1時間に1~2本運行している片道230円のフェリーだ。

 この島にはコンビニがない。島民によれば、島内で日用品を購入できる場所は、個人商店が1軒のみ。夕方7~8時頃には店は閉まり、さらに月曜日は休業となるそうで、大きな買い物をするにはフェリーに乗って買い出しに出かける必要がある。夕食時にうっかり醤油を切らしたとしても、気軽に買いものには行けない。

 今回の実証実験は、ドローンを使い、この能古島に日用品を届けるというものだ。

事業モデルはMIKAWAYA21のドローン宅配サービス

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 協力企業であるMIKAWAYA21は、元々こうした「買い物弱者」を対象としたサービス「まごころサポート」を展開している。このビジネスモデルはFCに近い。既存の新聞配達店が拠点となり、配達スタッフが、草むしりや電球交換、日用品の配達などのサポート業務を代行する。

 同社が脚光を浴びたのは2015年の「国際ドローン展」のこと。先述の「まごころサポート」事業として、国内初となる“ドローンを用いた配達サービス”のイメージ動画を公開したことがきっかけだった。今回の実証実験も、“ドローンを用いて消費者に日用品を届ける”という同社のドローン宅配事業の流れを汲んで実施された。

 ドローンが活躍するシーンとしては、空撮、災害時の現場確認、建設現場の測量、軍事利用などを想像しやすい。ホビー用途を除けば、あまりコンシューマーとの接点がない同市場おいて、こうした配達ビジネスへの注目度と期待感は自然と高まる。

改正航空法による規制は無視できない

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 ドローンを用いた配達ビジネスには、法律面に壁があることも事実だ。2015年12月に施行された改正航空法では、人口集中地区や夜間における飛行などが禁止されており、禁止空域の飛行には国土交通相の許可が必要となる。対象となるのは重量200g以上の機体。今回実施された実証実験も、これらの条件に該当するため、事前申請が行われた。

 注目したい禁止項目の1つに「目視外飛行」――操縦者の目の届く範囲外でドローンを飛行させてはいけないというもの――がある。これは、既存のドローンのシステムでは、目視外での操縦が危険と判断されていることを物語っている。

携帯電話網を用いたセルラードローンへの期待

 今回の実証実験で用いられたUAV(ドローン)は、エンルートが提供した。大きさは縦横1m、高さ50cm程度で、6個のローターを回転させて飛行するマルチコプター型だ。ここにNTTドコモのスマートフォンが搭載されることで、「セルラードローン」という飛行体になる。NTTドコモの携帯電話ネットワークを介してリモートコントロールを行えるのが特徴であり、こうした制御は国内初の試みであった。

 この実験が実現した背景には、電波法の改正も絡んでいる。元々、携帯電話の電波は、ドローンに搭載して上空で使用することが禁じられていた。

 しかし、多くの要望があったことを受け、2016年7月に「実用化試験局」という扱いでのみ、試験的に使用できる制度が整った。総務省のホームページを参照すると、“携帯電話等を無人航空機に搭載して使用することについて、既設の無線局等の運用等に支障を与えない範囲で試験的な導入を行うもの”という条件が記述されている。

LTE対応の意義とは

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 携帯電話のネットワークを介するということは、操縦者がどこにいてもドローンを操れることを意味する。ドローンからは移動速度や高度などのデータ、そしてカメラからリアルタイムに映像が受信される。飛行体は基本的に予め登録した航路を進むが、遠隔操作で細かい調整ができるというわけだ。精度が高まれば、目視外の飛行も安全に行えるようになるだろう。後々はドローンの目視外飛行に関する規制も限定的に緩和されるかもしれない、と期待は高まる。

 また、ドローンの航空管制システムの開発という面でも、LTEネットワークへの対応は重要な意味を持ってくると予想される。日本政府としては、2018年にはドローンの運航管制システムを導入する方針であり、2020年以降には有人地帯での実用化を目指すことを既に明らかにしている。

 諸外国と連携して国際化標準が進められていく上で、ドローンのLTE対応は今後も注目しておきたいテーマである。――ちなみに、アメリカでは携帯電話基地局を活用する管制システムの開発が既に始まっている。

実証実験の流れと結果について

 前置きが長くなったが、今回の実証実験の概要を流れに沿ってご紹介しよう。

1)「まごころボタン」が押される(家庭に配布された想定)

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2)オペレーターからコールバックが掛かってくるので、品物を注文する

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3)航路などのデータがドローンに入力される

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4)品物が積載される(洗剤などの日用品が積まれた)

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※最大積載可能量は距離によっても変動する。今回の条件では1kgほど

5)離着陸のみ操縦者がプロポから直接操作を行った(2.4GHz帯の無線)

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※離陸の指示を出すだけで、上空数十メートルまで自動で浮上する

6)登録された経路をドローンが飛行する(海を越える)

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※出発地点は福岡市立ヨットハーバー(本島側)

7)現在地や飛行スピード、周辺映像などをモニタリング

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8)離島にドローンが到着する

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※到着地点は能古島の私有地(離島側)

9)機体はホバリングしつつ、ワイヤーを垂らして荷下ろし

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※荷物が接地するとワイヤーが切り離なされ、ドローンは帰還する

10)消費者が商品を回収する

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結果と所感

 悪天候時に飛行できないのはドローンの弱みでもある。実験当日は、飛行こそ可能なレベルだったが、木の枝が揺れる程度の風は吹いていた。テストフライトは2回行われ、1度目には強風でワイヤーが切り離せない事態も起こった。予定外のアクシデントにより課題が明らかになったのは、実証実験としては収穫と言えるだろう。また、想定内ではあるが、「積載できる荷物が限定されている」ことを懸念する意見もあった。

 ドローン本体の価格は約200万円。運用コストは1回の飛行につき数十円の電気代のみである。これに加え、実際にはドローン本体に対する保険、オペレーターの人件費、そして運用商品に対する保険が必要となる。

 昨年、筆者がMIKAWAYA21にインタビューする機会を得た際には、ドローン宅配事業の目標価格は30分500円であると説明を受けた。フェリー1往復の交通費は460円。目標価格が実現すれば、充分に競争力があると言える。ビジネスが成り立つかどうかは、“ドローンがいかに低価格化するか”という点にかかっていそうだ。

 セルラードローンによるサービス提供は2018年頃を目標としているとのこと。12月には、今回の結果を踏まえ、再び実証実験が実施される予定だ。ドローン宅配事業の実現は、着々と現実味を帯びてきている。

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