日本シリーズやドラフト会議が終わり、契約更改や移籍の情報が盛んになる「ストーブリーグ」に突入してきた。そんな中で1972年から続く名誉ある賞「三井ゴールデングラブ賞(以下、ゴールデングラブ賞)」の受賞者が発表された。
ゴールデングラブ賞はプロならではの守備技術でチームに貢献した選手をプロ野球担当記者が選ぶ賞であり、2016流行語大賞の「神ってる」でブレークした広島東洋カープの鈴木誠也も初受賞し話題になっている。
しかし、この賞は日本プロ野球機構(以下、NPB)が主催するのではなく、三井広報委員会が協賛し、表彰を行っている。本記事では、NPB主催の賞ではなく、一般企業が表彰を行っている賞を紹介する。
沢村賞は52年ぶりの外国人!
出典:www.carp.co.jp まず、今年NPBが発表した賞を取り上げていく。今年、注目された賞は「沢村栄治賞(以下、沢村賞)」である。沢村賞とは、1944年に戦死した伝説の投手「沢村栄治」の功績を称えて1947年に創設された。
投手にとって非常に名誉ある賞で、この賞を受賞するには勝利数15以上、200イニング以上の投球回数、6割以上の勝率などの7項目の厳しい評価基準があるが、近年では基準を満たしていない場合でも受賞する例がある。
今年は、当時阪神タイガースに所属していたバッキー投手以来、52年ぶりに広島東洋カープのK.ジョンソン投手が外国人投手として受賞した。また、今年はパ・リーグの沢村賞の該当者がおらず、厳しい条件下で受賞した選手の凄さが伺えるだろう。
2016年、主なNPBが表彰した賞(セ・リーグ)
- 沢村賞:K.ジョンソン(広島東洋カープ)
- 最多勝利投手賞:野村祐輔 16勝(広島東洋カープ)
- 首位打者賞:坂本勇人 .344(読売ジャイアンツ)
- 最多本塁打者賞:筒香嘉智 44本塁打(横浜DeNAベイスターズ)
2016年、主なNPBが表彰した賞(パ・リーグ)
- 沢村賞:該当者なし
- 最多勝利投手賞:和田毅 15勝(福岡ソフトバンクホークス)
- 首位打者賞:角中勝也 .339(千葉ロッテマリーンズ)
- 最多本塁打者賞:B.レアード 39本塁打(北海道日本ハムファイターズ)
NPBだけじゃない! 野球界を盛り上げる賞
先述したように、ゴールデングラブ賞は三井広報委員会が協賛し表彰を行っている。
しかし、他にも企業が表彰を行う賞はあり、必ずしもシーズンの成績が表彰に関連しているとは限らない。
ドラマティックな「サヨナラ」に賞を:スカパー! ドラマティック・サヨナラ賞
2012年から各月の印象的なサヨナラ打を放った選手に贈られる賞が設けられ、スカパーJSAT株式会社が協賛している「月間スカパー! ドラマティック・サヨナラ賞」という賞である。
今年、筆者が特に印象的だと感じたサヨナラ打は、今シーズンの首位打者賞・ゴールデングラブ賞を受賞した読売ジャイアンツの坂本勇人が放った一打である。歓声を聞いても分かるように、両チームが間一髪のプレーを見せ、観客を魅了したこの一打は年間を通しても上位にランクインするドラマティックな一打と言えるだろう。
また、「スカパー! ドラマティック・サヨナラ賞 年間大賞」という賞も2009年から設けられており、年間大賞も表彰される。
「短さ」が受賞のキーに:ローソンチケット スピードアップ賞
出典:dragons.jp 株式会社ローソンHMVエンタテイメントが協賛する「ローソンチケット スピードアップ賞(以下、スピードアップ賞)」は、試合を心地よくスピーディに進めた選手・チームを表彰している。この賞は「投手表彰」、「打者表彰」、「チーム表彰」、コミッショナーから与えられる「特別賞」の4つの部門に分かれている。
投手表彰はシーズン中、ランナーがいない場面で最も平均投球間隔が短かった投手が表彰される。打者表彰はシーズン中、ランナーがいない場面で最も相手投手の平均投球間隔が短かった打者が表彰される。チーム表彰は、9回で終わった試合のみが対象で、最も平均試合時間が短かったチームが受賞する。
また、この賞は2008年からNPBが地球温暖化対策として取り組んでいる「NPB Green Baseball Project」の中で掲げられた「試合時間マイナス6%」に大きく貢献している。NPBは選手に対して「Speed Up11カ条」という方針を打ち出し、試合時間の短縮を促し、CO2の削減に努めている。
2016年度:スピードアップ賞の受賞者・チーム (セ・リーグ)
- 投手表彰:R.バルデス(中日) 8.5秒
- 打者表彰:大島洋平(中日) 12.1秒
- チーム表彰:読売ジャイアンツ 3時間2分
2016年度:スピードアップ賞の受賞者・チーム (パ・リーグ)
- 投手部門:牧田和久(埼玉西武ライオンズ)8.1秒
- 打者部門:藤田一也(東北楽天ゴールデンイーグルス)12.3秒
- チーム部門:千葉ロッテマリーンズ 3時間8分
二人三脚のバッテリーを表彰:スポーツ日本新聞社 プロ野球最優秀バッテリー賞
野球は花形であるピッチャーに目が行きがちであるが、ピッチャーの球を受け、試合を司る「扇の要」のキャッチャーがいないとゲームは成り立たない。
ピッチャーとキャッチャーの2人を対象に表彰するのがスポーツ日本新聞社が制定する「プロ野球最優秀バッテリー賞」である。通年での活躍を最低条件に、ピッチャーには勝利数、セーブ数、ホールド数、キャッチャーには配給などを指すインサイドワークや盗塁の阻止率などが基準になり選考される。決して1人ではなし得ないこの賞は、個人受賞の多い野球の賞では稀な賞である。
2016年プロ野球最優秀バッテリー賞
- セ・リーグ:野村祐輔投手&石原慶幸捕手 (広島東洋カープ)
- パ・リーグ:石川歩投手&田村龍弘捕手 (千葉ロッテマリーンズ)
選手の社会貢献活動に注目:報知新聞社 ゴールデンスピリット賞
出典:www.giants.jp 「巨人軍たる者紳士たれ」この言葉は、プロ野球団である大日本東京野球倶楽部(現在の読売ジャイアンツ)の創設者である正力松太郎の言葉である。今やこの言葉は野球人全員に当てはまる言葉である。
そんな言葉を体現し、野球人ながら球場外で社会貢献活動に取組んでいる選手を表彰するのが報知新聞社が制定する「ゴールデンスピリット賞」である。
第18回を迎えた今年は、読売ジャイアンツの内海哲也投手が受賞した。内海投手は、2009年に「内海哲也ランドセル基金」を設立し、児童養護施設の児童にランドセルを毎年寄付している。また、2014年からは東日本大震災で被災した東北の児童養護施設にも寄付を行い、現在1,087個のランドセルを寄付したことが受賞を後押しした。
この賞は、内海投手の他にも15人の選手がノミネートされている。横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智は25歳という若さで、野球が盛んだが道具が不足しているドミニカ共和国とグアテマラ共和国に用具を寄付した。このように賞を受賞した選手以外にも、社会貢献活動に取り組む選手は多くいる。そんな選手たちの活動から目が離せない。
協賛する企業の狙いとは
ここまで、企業が協賛している賞を見てきたが、協賛する企業は何を狙って協賛するのだろうか。
多くは「社会への貢献」が目的
三井広報委員会は「三井ヒューマンプロジェクト」という社会貢献活動の一環としてゴールデングラブ賞に協賛している。また、ゴールデンスピリット賞は社会貢献活動を行っているプロ野球選手を表彰している。ゴールデンスピリット賞は制定元の報知新聞社の一種の社会貢献活動と言えるだろう。いずれの企業も社会貢献活動を目的に賞に協賛している。
つまり、企業はスポーツ振興や社会貢献活動を行っている選手を表彰することで、「コーポレートシチズンシップ」を体現していると言える。「コーポレートシチズンシップ」とは、企業も社会の一員で、企業の活動拠点の地域社会やコミュニティーの発展に貢献すべきであるという考え方のことである。企業がスポーツの振興を行うことで、企業の活動を社会に還元することが狙いである。
広告の一環にも
出典:baseball.skyperfectv.co.jp 社会貢献やスポーツ振興だけでなく、社のコンテンツユーザーの獲得にも用いられることもある。「スカパー! ドラマティック・サヨナラ賞」がその典型である。スカパー! は、「プロ野球セ・パ両リーグ公式戦全試合、プレイボールからゲームセットまで放送」というコンセプトを2006年から掲げている。
スカパー!がコンセプトに基づいてプロ野球中継の魅力を最大限伝えられるコンテンツであることを多くのファンに知ってもらうために、このような賞を設けている。このように協賛することが、自社のアピールに用いられるパターンもある。
一見、プロ野球の賞は数字で判断されたり、個人が評価される賞が多いイメージがある。しかし上記のように、グラウンド以外の活躍や「数字」だけでは表されない成績や二人三脚で評価される賞もある。
このような賞からもプロ野球の深さを伺うことができる。また、来年3月からは野球の世界一決定戦の「WBC」が開幕され、メンバーの選定や強化試合が行われている。日本シリーズも終わった野球界であるがまだまだ熱が収まる気配はない。
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう