KDDIは冬モデルのスマホ4機種、タブレット1機種を発表した。他社と比べやや寂しいラインナップで、「選べる自由」を掲げていたauらしさに欠ける印象もあるが、ここにはある事情もある。
「非通信分野を拡大し、オンライン、オフラインのタッチポイントでそれを販売する」——こう語るのは、KDDI代表取締役社長・田中孝司氏だ。KDDIが目指しているのは、ユーザーの「ライフデザイン」。「au WALLET」や「auかんたん決済」などで支払いの仕組みを作り、その上にサービスを乗せていくことで事業の拡大を目指している。
実際、KDDIは2016年に入り、新規事業を立て続けにスタートさせている。スマホなどと支払いをまとめて割引も受けられる「auでんき」や、ライフネット生命と組んだ「auのほけん」などがそれだ。クレジットカード事業のau WALLETを生かす仕組みとしては、ショッピングモールのau WALLETを2015年に立ち上げ、今年は取り扱い対象ショップを拡大している。
ライフデザイン戦略を掲げるau
こうした新規事業の契約の受け皿になるのが、オンラインに加え、オフラインの接点となるauショップだ。auはモデルとなる直営店を新宿や札幌、福岡などに続々とオープンしており、10月にはみなとみらい店を開設。こうした店舗では、生活用品の物販を行っていたり、保険の対面相談ができたりと、スマホにとどまらない“何でも屋”になりつつある。
10月6日にオープンしたauみなとみらい。
端末もタッチポイントの1つ。写真は「Qua Tab」。
背景には、頭打ちになりつつある国内市場の動向がある。スマホが6割程度のユーザーに行き渡り、増やせるユーザーには限界がある。通信料に対しても行政からの圧力が強く、値下げせざるをえない状況にある。一方で、端末については実質0円がガイドラインで禁止され、販売数が低下。ラインナップも絞り込まざるをえなくなった。
閉塞した状況に活路を見出すために始めた取り組みが、ライフデザインだったというわけだ。一見無関係な事業を寄せ集めているだけのようにも思えるが、電気はスマートメーターで消費量を“見える化”できたり、保険は将来のIoT(モノのインターネット)時代を見すえていたりと、軸足は通信にあることは間違いない。
この「au経済圏」を拡大していくのが今のKDDIの戦略で、2016年度末には「1兆2,000億円ぐらいの経済圏に広げていきたいと思っている」(田中氏)という。一方で、現状ではまだ事業間のシナジー効果は十分ではなく、取り組みそれぞれが有機的に結びつくには、もう少し時間がかかりそうだ。
au経済圏を拡大していくのが、田中社長の掲げている方針だ。
ただ、柱になっている通信事業には、ほころびも見え始めている。格安スマホの台頭で、契約者の「流出が起こっていて、現実にはマイナス傾向」(田中氏)。端末の販売台数が減ったことでコストを抑えられているが、長期的に見ればこれもユーザーの流出につながる上に、新技術の導入に遅れが出てしまうおそれもある。
また、端末がなければライフデザインを提案するはずだった肝心のauショップに足を運ぶユーザーも減ってしまいかねない。通信事業の環境が激化している今だからこそ、ユーザーがワクワクする、auならではのラインナップ作りにも期待したい。
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