今月、FRONTEOコニュニケーションズが一般消費者向けロボット「Kibiro(キビロ)」の予約受付が開始するなど、日々成長するロボット産業。そんな成長を続けているロボット業界に近年、中国が力を入れ始めている。今年7月、産業用ロボット業界TOP3に入るドイツ大手企業“KUKA(クーカ)”を、中国最大の家電メーカー・美的集団(ミデアグループ)が買収したのだ。
ドイツが謳う第4の産業革命――インダストリー4.0の中核企業となるはずだったKUKAの買収劇とは一体どんなものだったのか。また、“世界覇権”を狙う中国の現状について迫っていきたい。
ドイツを驚愕させた買収劇
ドイツ国民を驚かせた「KUKA買収劇」。元々、13.51%の株を保有していたミデアは、KUKAの筆頭株主であったドイツ企業・ボイトから持ち分25.1%を12億ユーロ(日本円で約1,400億円)で買収。現在、ミデアのKUKA持ち株率は76.38%。筆頭株主へと躍り出た。
ミデアが大金を払ってでもKUKAを買収するほどに、産業用ロボットに力を入れている中国。産業用ロボットに中国が熱視線を向ける背景には「中国の最低賃金水準が高くなった」という事実がある。韓国貿易協会北京支部が発表した「中国最低賃金動向と中韓対比報告書」によると、韓国の2015年の最低賃金が5,580ウォン(約505円)であったのに対し、同年の中国(5大都市)の平均最低賃金は3,303ウォン(約299円)。
その他にも、2011年~2015年の5年間で、工業都市である深圳の最低賃金が710元(日本円で13,000円)も高騰しているというデータもある。報告書内で「中国はもはや安価な労働力市場ではない」と言われているように、中国は人件費を抑える手段として産業用ロボットに目をつけたのだ。
買収劇の主役「KUKA」と「美的集団(ミデアグループ)」
買収劇の主役である、KUKAとミデアとはどんな企業なのか。KUKAは、産業用ロボットの世界的なリーディングメーカーの1つ。その他の世界的な産業用ロボットメーカーを列挙すると、トップシェアを誇る日本のファナック、安川電機、不二越などがある。
産業用ロボットは、人の腕のような形をした「多関節ロボット」やICチップなどの電子部品をプリント基板に載せる「電子部品実装機」の2つに大別できる。KUKAはその2種類の中でも、多関節ロボットを得意としている企業で、ドイツの大手自動車メーカーであるBMW、フォルクスワーゲン、Audiの工場にもKUKAの産業用ロボットが導入されている。
一方、買収サイドであるミデアは、今年3月に東芝の白物家電事業を買収したことでもニュースになった中国企業だ。中国の工業都市である深圳に本社を構え、1968年から順調に会社規模を拡大させていたが、2010年に業績ピークを迎えた。翌年には一大リストラに着手し、次の年には創業者が会長の座を退き現会長である方洪波氏が迎え入れられた。美的集団の課題は、「コア」となる技術がないことだった。そこで、日本の大手企業である「東芝」とドイツ企業の「KUKA」を豊富な資金を元手に買収したのだ。
インダストリー4.0とは
KUKAが中核企業となっているドイツのプロジェクト「インダストリー4.0」。これはドイツ政府が主導し、産官学共同で進める国家プロジェクトを指す。「スマートファクトリー」(考える工場)というコンセプトで、2011年から取り組みがスタートした。
インダストリー4.0の目的は、工業をデジタル化して、21世紀の製造業の様相を根本的に変化させることによって製造コストを大幅に削減すること。ドイツが目指すスマートファクトリーでは、部品が自律的に動いて完成品になる。そのために、工場の情報をデジタルデータに変換して集約し、そこに人工知能とITの力を加え、設計、生産計画、物流、部品の供給から調達までの効率化を図る。
KUKAはインダストリー4.0で実現させようとしている「スマートファクトリー」に必要な技術を持っている。日本やアメリカの生産方式と一線を画した生産方式を生み出そうとしているドイツにとって今回の買収劇は、インダストリー4.0で用いられる技術を中国に見せることになるのではないか……という不安の種になっているのだ。
KUKAの今後にドイツ側が難色を示す理由
中国企業がKUKAを買収するニュースに対して、ドイツ国民は消極的な意見が多い。今回の買収によって、ミデアの持つアジアの巨大な販路をKUKAが活用できるようになるが、ドイツの「インダストリー4.0」の行く末やKUKAの今後に難色を示す意見が多いのが現状だ。
ミデアとKUKAとの間では「ミデアはKUKAに人員や拠点の削減を迫ってはならない」という契約がなされている。契約によってリストラや移転などの恐れはないが、KUKAの社員の顔色は暗い。
実は、ミデアとKUKAの間では、その他にも気になる契約が交わされている。「ミデアはKUKAに対し顧客情報を渡すように圧力をかけない」という内容だ。この契約によって、KUKAの製品設計図や顧客の機密情報は守られている。
しかし、この契約は7年半という期限付き。機密情報を中国企業に明かしてしまえば、ドイツ製造業の根幹とインダストリー4.0の計画を揺るがしかねない……と社員をはじめ、国民が不安視しているのだ。
社員の思いをよそに、買収に同意したKUKA上層部の意見は「グローバル企業でいるためには巨額の投資が必要。KUKAの未来に必要な決断」というものだ。7年後、KUKA、ドイツ企業の行く末が危ぶまれている。
“世界覇権”を狙う中国で成長する産業
冒頭に書いた「MADE IN PRC」。このPRCとは「People's Republic of China」の略、つまりはMADE IN CHINAと同じ意味なのだ。PRC表記にしてから、中国産を敬遠する消費者の目を欺いて売上を伸ばしているという意見もある。
そんな、少し狡猾に思える手段を用いる中国は、中華人民共和国建国から100年に当たる2049年までに「世界覇権」を握ろうとしている。目的を成功させるためなら手段を選ばず、猪突猛進な姿勢でひた向かう中国。世界覇権を握ろうと画策する中国が力を入れている産業が、どのような現状なのかを見ていこう。
民生用ドローン世界シェア率70%“DJI”
映像に革命を起こした「ドローン」。2030年には市場規模が1,000億円に到達する――日経BPクリーンテック研究所は、そう予測している。農林水産業、行政、巡視、点検、計測・観測、撮影、輸送・物流、危険区域作業など、ドローンの活用シーンは幅広い。
そんな、世界的にも利用する人がますます広がりそうなドローン市場にも、中国はしっかりと参入している。それが、民生用ドローンの世界シェア70%を誇る“DJI”という企業だ。個人が購入し、操縦することが可能な民生用ドローン。DJIは民生用ドローンで断トツのシェア率を誇っているのは何故なのだろうか。
その理由は、DJIの主力モデル「Phantom」シリーズの性能にある。現在1~4までが発表されている同シリーズ。誰でも滑らかな空撮映像を撮影できる機能性が消費者の心を掴んだ。シリーズの最新機が出るたびに改良され、ますます機能性に磨きをかけている。
ZTEが2020年に目指す“5G”
次世代移動通信システム、5G――今後爆発的に増加すると考えられている移動通信のトラフィック量の負荷に耐えうるネットワークシステム。「超高速」「超大容量」「超大量接続」「超低遅延」が5Gの要求条件となっている。IoT化、自動運転、VRなどといったIT技術が進歩するにつれて、移動通信のトラフィック量も増加する。言わば、ITの進歩を支える箱のようなもので、今後必要不可欠な通信設備なのだ。
NTTドコモやKDDI(au)も、5G開発に力を入れているが、中国のZTEはソフトバンクと提携し、日本で「プレ5G」を展開する計画をしている。通信業界でも、中国は手を拡げているのだ。
中国の自動運転・ロボット業界事情
インダストリー4.0の中国版、「中国製造2025」という計画がある。この「中国製造2025」では、ロボットと人工知能に重点を置いている。
他国の競合に並ぶように、ロボット企業には国が様々な優遇措置をとっている。金銭的な支援をはじめ、人材、税金。地方政府では、ロボット企業の地方進出、投資誘致、ロボット産業圏区の建設促進に力を注いでいる。
国や地方政府の支援もあってか、中国産業用ロボットの導入比率は年々右肩上がりで増加。ロボット先進国である日本、ドイツ、米国と比較すればまだまだであるが、今回のKUKA買収が中国のロボット産業にとって追い風となる可能性もある。
その他にも中国では、自動車の自動運転化に向けての開発が進んでいる。2016年、上海に山手線の内側と同じ面積を誇る自動運転の実験場が誕生した。実験場は、実際の街と同じような造りで、自動運転の試験が行われている。肝心の技術面は、ハンドルがおかしな動作を起こしたり、暴走したりしていたが、中国の自動車メーカーの社員は「今はこれでいいんだ」と前向きだった。
以上、KUKA買収と中国企業の現状から見えてくる中国の狙いについて追及した。工業大国ドイツの要となる企業“KUKA”を買収した裏には、世界覇権を狙う中国の姿があった。日本やアメリカ、ヨーロッパに負けじと、中国なりの最大限の努力をしていることがわかるだろう。他国になんと言われようが、思われようが、気にせず自国の成長に目を向けている姿勢は日本にはないもの。
自動運転の技術も未発達な状態で、その技術が搭載された自動車を販売しようとするなど、日本では考えられないことを行っている中国。しかし、いつまでも「規制」という言葉で成長を阻んでしまうと、現在は日本がトップを占拠している産業ロボットも簡単に追い抜かれてしまう可能性がある。日本政府には、工業の発達には“スピード感”が大切だということを認識してもらいたい。
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