最近「Fintech」という言葉を目にしたことのある読者は多いだろう。FinancialとTechnologyを組み合わせたこの言葉はアメリカでは2010年頃から話題になっていたが、当時の日本国内ではまだ知名度が低かった。
それが今になって急速に日本国内でFintechに対する取り組みが動き出している。なぜ今Fintechに注目が集まるのだろうか? 日本ではどのような取り組みが始まっているのか? 革新を続ける金融サービスの最先端をのぞいてみよう。
メガバンクの牙城に風穴を開ける新型金融サービス
by marki1983 単にIT技術を金融に応用するだけなら今までにもオンラインバンキングやネット決済のようなサービスがあった。三井住友銀行の「SMBCダイレクト」などがそれだ。しかし、このようなサービスは既存の金融サービスをITから利用しているに過ぎず、Fintechと呼ばれることはまずない。なぜなら、Fintechとは金融の在り方をITによって変えてゆく取り組みだからである。ここでは、従来の金融によるIT利用と新しいFintechの違いについて説明する。
従来のアプローチ:金融機関の提供するITサービス
今までもITは金融業と密接な関係にあった。ITというと先に挙げたオンラインバンキングのようなWeb上でのサービスを思い浮かべがちだが、ATMのような非Webの技術も忘れてはならない。また、「金融系といえばCOBOL」というイメージをお持ちの方も多いだろう。以前はこのような金融機関によるIT利用をFintechと呼ぶこともあった。
しかし、これらのサービスは大手の金融機関が預金や決済、資産運用に至るまで一手に担っており、融通が利かないことも多かった。Web振り込みのために口座番号を入れ、手数料を払ったが、実際に振り込まれるのは翌日、なんて経験をした読者もいることだろう。そもそもWeb上のサービスで、メンテナンス中でもないのに、時間によって利用できる機能が制限されることさえある。このように、従来の金融ITサービスは金融機関が提供するものであり、それ故に融通が利かず利用者にとって不便な状況が続いていた。
新たなアプローチ:ITサービスが金融情報を利用
このような従来の金融によるIT利用に対し、ITから金融サービスに革新を起こしていく取り組みが今話題となっているFintechである。従来のFintechと区別するため、従来型をFintech1.0、新型をFintech2.0と呼ぶこともある。
新型Fintechが対象とする金融サービスは銀行業の枠に囚われず、金銭が絡む全ての領域にその可能性が見出されている。
出典:dailyfintech.com このように、送金や融資といった主に銀行が担ってきた領域から、人工知能による資産運用サポートのような先進技術の活用、さらには会計サービスといった銀行にはなかった新しい領域への進出も見られる。
どのサービスにも共通して言えることは、それぞれが自分の領域に特化したサービスを提供している点だ。従来の大手金融業者が総合的なサービスを提供しているのに対し、Fintechに参入したスタートアップ達は自由な発想でユーザーのニーズに当てはまるサービスを小回りの利く形で提供している。その様子はITエンジニアであれば「伽藍とバザール」の例えを思い出すことだろう。大手金融機関という大がかりな「伽藍」が占有していた金融業はFintechによる「バザール」的な小さいサービスによって確実に変化している。
今Fintechが注目される理由
by KamiPhuc Fintechという言葉が初めて使われたのは2003年で、雑誌「American Banker」だという。それがなぜ今になって注目され、革新が起き続けるのだろうか? それには大きく変化した二つの要因がある。
ユーザーの変化:普遍的となったインターネット
まず、Fintechが広まる基盤が出来上がったことである。従来の金融サービスにはない利便性を提供するFintechにとって、インターネットは必要不可欠な要素である。それは誰もが自由に使えるというだけでなく、インターネット関連技術が発展を続けていることも一因である。
そのインターネットは今やスマートフォンを通してどこからでもアクセスできるのが当たり前となっている。その結果、誰もが必要な情報を瞬時に手にでき、人の繋がりは物理的な距離・時間に囚われなくなった。無料Wi-Fiが広まっているのもその一助となっている。
このような環境の中で金融サービスは保守的なままで、利用者のニーズにこたえきれずにいた。このようなインターネット環境の普及とそれに伴うニーズの変化がFintechが受け入れられる基盤を作り上げたのである。
技術の変化:AI技術の急発展
もう一つの要因として、AIに関する技術がここ数年で急速な発展をしたことが挙げられる。従来はAIとは未来の技術で、利用するためには膨大なリソースが必要になると考えられていた。
それがクラウドコンピューティングの普及によって誰もが基盤を使えるようになり、Googleの「TensorFlow」に代表される機械学習技術の発展及びオープンソース化によって誰もがAI技術を利用できるようになった。このようなオープンな技術が広まったことにより、多くの技術者が気軽に先進技術を利用できるようになったことも、Fintechが注目される要因となっている。
日本におけるFintechの現状
by peter.lubeck 記事冒頭で述べた通り、アメリカでは早くからFintechが注目され、関連分野への投資が行われてきおり、それに続いてヨーロッパでもFintechの動きがある。動き出しているのはGoogleやFacebookのようなIT企業のみではなく、スペインのビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)はCEOが「BBVAは将来ソフトウェア企業になるだろう」とまで言うほどFintechに注力している。
このように、世界的にFintechの流れがあるが、日本はそういった新分野への投資が鈍い傾向にある。日本ではFintechは発展するのだろうか? 現状を分析する。
前例主義に陥りがちな日本の弱み
日本におけるFintechを阻害する大きな要因は現金主義と前例主義である。そして、この二つの要因は互いに関係しあっている。
日本国内でクレジットカード利用率が低いのは有名な話である。これは主に治安の良さに起因する現金の信頼感とクレジットカードに対する知識の少なさによるものであるが、このような環境が仮想通貨全般に対する不信感を生み出している。これはインターネットという仮想空間で取引をするWebサービスにとっては致命的である。
さらに、このように現金が信頼されていることで、実体の掴みにくいWeb上の金融サービスに進出し辛くなっていることも足枷となる。ある程度安定した環境で、リスクの高い新事業に取り組みにくくなるのは仕方のないことではあるが、先駆者が現れるのを待つだけでは事態は好転しない。前例主義という枷を抜け出せるかが日本のFintech発展の鍵となるだろう。
意外とオープンソースに親しむ日本の強み
先ほどは日本は先進的なことを敬遠しがちであると述べたが、この傾向に反する出来事が起こっている。それはオープンソースに慣れ親しんでいるということである。実際、Github利用率で日本はトップ10に入り続けており、Github初の海外支社として日本を選ぶほどである。技術的なことに注目する限りは、日本は決して前例主義に陥っているわけではないのだ。
さらに、Fintechに関してはメガバンクからの動きも始まっている。三菱東京UFJ銀行は「Fintech Challenge」というFintech専門のハッカソンを開催するなどして、Fintechへの取り組みを進めている。
出典:www.bk.mufg.jp 他にも金融庁は「フィンテック・サミット」を開催するなどしてFintechを広めるための活動を行っている。動き始めたのが遅めとはいえ、大手業者や政府機関がFintechへの取り組みを始めていることはこれから参入する企業にとっても追い風となるだろう。
クレジットカード利用率が低いように現金主義が目立つ日本。しかし、Fintech普及の流れは確実に生まれている。また、Suicaのようなサービスはすでに受け入れられており、新たな仮想通貨が受け入れられる余地も十分ある。Fintechによる新サービスが受け入れられるかは現金の信頼感を上回ることができるかに懸かっているといってもいいだろう。
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