HUAWEI(ファーウェイ)という会社を知っているだろうか? 中国に本社を置く通信機器メーカーで、スマートフォンの出荷台数はサムスン、アップルに続いて世界3位となる。
さらなるシェア拡大を目指している、世界的には「知っていて当たり前」の企業なのだ。実は日本でも、モバイルWi-Fiルーターのシェアは1位。スマホのSIMフリー市場でもトップ争いを展開する存在になっている。そんなファーウェイの成長戦略について、現地中国に渡って聞いてきた。
ファーウェイは世界最大の通信機器メーカー
筆者は10月13日に、中国・深圳にあるファーウェイ本社を訪問。これはファーウェイ・ジャパンが開催した日本のジャーナリスト向けのプレスツアーの一環で、一部施設を見学し、グループインタビューという形でスマートフォン部門の要人の話を聞くことができた。
深圳は、香港に隣接する中国広東省の都市。1979年に経済特区に指定されて以来、急速な経済発展を遂げた都市だ。ファーウェイ本社は、その深圳市の中心から車で30~40分ほどの竜崗区坂田というところにある。
現地に到着して驚いたのは、敷地の広さ。約200㎡もあり、東京ディスニーランドの約4倍に相当するという。約4万人が勤務していて、社員寮が並ぶエリアもある。一つの街と言ってよい規模だ。
本社はAからKの地区に分かれていて、経営管理センター、R&Dセンターなど、それぞれ部門が異なる。われわれ取材陣はマイクロバスに乗って、キャンパス内を見学したのだが、従業員たちもシャトルバスに乗って移動するとのこと。
約1万人が勤務するというR&Dセンター。地下には、アジア最大の地下駐車場があるそうだ。
敷地内では巡回ルートを示したシャトルバスが運行。
ちなみに、ここには工場はなく、さらに郊外の東莞市の松山湖というところに巨大な工場があるそうだ。そして、近い将来、本社機能の一部もそこに移すらしい。ここ深圳本社でも十分に広くて、新しい建物が工事中だったりもしたが、この規模ですら狭いらしい。中国企業の成長のスピードを実感した。
通信機器の研究や開発を行う場所でもあり、セキュリティに厳しく物物しい雰囲気を想像していたのだが、意外にも敷地内は、大学のキャンパスのような開放的な雰囲気だった。
地理的には亜熱帯に属するので、緑が濃くリゾート感すらあった。もちろん、立入禁止でバスの車窓からしか見学できない地区もあり、撮影に使うカメラのシリアルナンバーを事前に申告するなどの管理はあったが、あちこちに警備員が立っているわけではなく、中国の空港よりもガードが緩いようにも感じられる。
製品の試験を行う通称「ホワイトハウス」。
データセンターは車窓からの見学のみ。Googleマップの航空写真にも表示されないらしい。
広大な敷地内にはリラックスできる場所も至るところに。
中国のエリートが集まる“大学”にも潜入!
地区によって、ガラス張りのビルがあったり、美術館のような建物があったりと、建築のコンセプトやレイアウトが異なるのも興味深かった。個人的に、最も興味を惹かれたのが「大学」だ。と言っても、敷地内に本当の大学があるわけではない。新入社員の研究や一般社員の技能トレーニングなどに使われる「トレーニングセンター」のことを、社員は「ファーウェイ大学」と呼んでいるらしい。
トレーニングセンターには、おしゃれなカフェもある。
ここはタイ料理のレストランだが、日本料理店もあった。
大学の中にはカフェや各国料理のレストランがあったり緑が茂るパティオがあったりと言ってみれば、中国っぽくない雰囲気だった。若い世代の人が多く、国外から研修に来る人もいるので、“留学生が多い大学”という印象も受ける。
天井を見上げると、こんな演出があったり、職場とは思えない雰囲気。
経済成長が著しい中国だが、国内だけでなく国外向けの事業でも成功を収めている企業はそれほど多くはない。米国の著名なビジネス誌で、「Most Innovative Company Ranking(世界で最も革新的な企業ランキング)」の第5位に選ばれるなど、世界的な評価を得ているファーウェイは、中国の学生にとっては憧れの企業。エリート中のエリートが集まる会社と言って差し支えないだろう。
わずかな時間ではあったが、深圳本社を見学して感じたのは、想像以上に自由で開放的な雰囲気があったこと。中国ではGoogleやFacebook、Twitterが使えないなどのインターネット規制があるのはご存知だろう。
AndroidスマホでGoogleが使えないのは不便なのでは? と疑問を持ち、案内してくれた人に聞いてみたのだが、中国ではバイドゥ(百度)、テンセントQQ(騰訊)、Weibo(微博)など、圧倒的なユーザーを擁するサービスがあるため、不便は感じないとのこと。
しかし、世界を相手にビジネスする企業ゆえローミングやVPNなどで、規制を回避している人は少なくなさそうだ。筆者も、事前に用意していた中国移動香港のSIMを使うことで、中国国内でもGmailやFacebookを利用できたし、宿泊したホテルのWi-Fiでは日本にいるのと同じように、あらゆるWebサイトを閲覧できた。
スマホ部門のNo.2が語る“次の一手”
グループインタビューでは、スマートフォン部門のNo.2である李昌竹(リ・チャンジュ)氏の話を伺うことができた。
Handset business CBGのヴァイスプレジデント、李昌竹(リ・チャンジュ)氏。
ファーウェイは、今年ドイツの老舗カメラメーカー・ライカと共同開発したダブルレンズを搭載する「HUAWEI P9」を発売し、世界的な成功を収めた。
スマホに搭載するレンズは、大きさやコスト面でも制約が生じる。「ライカの品質を実現しつつ、量産できるものでなくてはならない。そこにはたくさんの課題があり、ライカと一緒に、そしてモジュールの製造メーカーとも協力して完成させました」と李氏は言う。
日本での売れ行きも好調なHUAWEI P9。
なお、ライカとのコラボレーションは一時的なものではなく、長期的な協業を想定しているとのことで、ドイツに共同運営の研究開発センターも設立している。ライカのレンズは「Pシリーズだけでなく、Mateシリーズにも搭載する予定」ということなので、今後発表されるモデルにも期待したい。
ちなみに、日本では9月に発売された「honor 8」という機種にもダブルレンズが搭載されているが、画質はHUAWEI P9とは異なるという。李氏は「P9にはライカ製のレンズを搭載し、色の調整もライカの専門家が行っています。一方、honor 8はファーウェイ製のレンズを搭載しています。画像センサーはP9と同じですが、色はライカスタイルではなく、“日本スタイル”とも呼べる透明感のある色で撮れるようにチューニングしてあります」と言う。
iPhoneやGalaxyなど、海外メーカー製でも防水に対応する機種が増えているが、ファーウェイも「今後、フラッグシップの機種には搭載していきたい」とのこと。実は、4年前に発売された「Ascend D2」は防水対応モデルで「すでに防水の技術は持っている」とアピールしていた。
最近の調査では、ファーウェイのスマホの世界市場でのシェアは14%に達しているそうだ。しかし、「グローバルの市場はまだまだ大きく、今後もシェアは伸びる」と自信を示した。世界で評価される要因として、「よい製品を作り、よいパートナーと提携し、より良いユーザー体験を提供すること。これらを実現することで、必然的にシェアは上がっていく」と語り、「売り上げの10%を研究開発費を充てている」とも。筆者が、他メーカーを意識させる質問を向けたところ、「競争相手は、ほかのメーカーではなく、われわれ自身です」とコメント。
ファーウェイ躍進の理由は堅実なビジネス
深圳本社での取材で、何度となく耳にしたのは、ファーウェイが「あくまでもハードウェアのメーカーである」ということ。そして、「ユーザーエクスペリエンスを重視する」ということだ。
ソフトウェアを手掛けないことにはこだわりがあるようで、例えばクラウド事業において企業に提供するのはサーバ機器のみで、盤石でセキュアであることをセールスポイントとしている。
スマートフォン事業においても、多様なニーズに対応する端末を製造するスタンスで自らコンテンツ配信や決済サービスといったものは提供していない。通信機器の専門メーカーとして、通信キャリアやソフトウェア企業、自動車メーカーなど、多様な業種をビジネスパートナーにできる立ち位置にあると言っていいだろう。
中国の3大IT企業(バイドゥ、テンセント、アリババ)はファーウェイのクラウドを利用している。
日本では、あまり知られていないが、ファーウェイは基地局などの通信設備も製造し、世界中の数多くの通信キャリアのネットワーク構築にも携わっている。事業規模としては、そうしたキャリア向けのもののほうが圧倒的に大きい。
10Gbpsの高速通信を目指す5G用の基地局のプロトタイプ。
日本でも全国広域でファーウェイの基地局が導入されており、2020年の開始を目指す5G規格にもファーウェイの技術が用いられることで、同社のスマホの品質向上に大きく寄与してくるはずだ。今後、日本での存在感も増していくことだろう。
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