オリンピック、パラリンピックとスポーツが世界中を賑わせる2016年。この二つの大きな国際大会の他に、第三のオリンピックと呼ばれている大会が今年の10月に開催されたのをご存知だろうか。その名もサイボーグ(cyborg)とラテン語で競技を意味するアスロン(athlon)の合成語「サイバスロン(Cybathlon)」だ。本記事では、障がい者アスリートと開発チームが極上のエンターテインメントを提供した今大会を振り返るとともに、エンジニアとアスリートの大会にかけた思いを紹介していこう。
最先端技術とパイロットの熱意が見どころ
今年はパラリンピックが開催されたこともあり、義足や義手を身につけるアスリートの活躍が耳に入ることが多い。サイバスロンでも同じように、身体の一部が不自由なパイロット(サイバスロンの選手の呼称)たちが競技を行う。
サイバスロンでは立つ、座るなどの日常生活の動きが競技に取り入れられている。6つの競技は、パラリンピックで行われる、いわゆるスポーツ競技と比べると華やかではないかもしれない。だが、熱意を持って競技に挑むそれぞれのチームとパイロットたちの戦いは、会場を白熱させ、一つのエンターテインメントとして成り立っていることを証明した。
サイバスロンの意義とは
出典:www.salzburg.com 今までとは全く違う競技の形をとっているサイバスロン。新たに誕生した大会には、いくつかの大きな意義が込められている。スロープや階段などの様々な障害が設けられているコースを競う部門「強化外骨格レース」にアメリカの「IHMC」のパイロットとして参加したマーク・ダニエル氏はサイバスロンの意義についてこう語っている。
ダニエル氏が話しているように、サイバスロンは障がい者のための補助器具の技術を発達させる一つのきっかけになりうる大会。世界から25カ国、300以上のチームが参加した今回の大会は、補助器具の技術が注目される絶好の機会だろう。
また、サイバスロンは補助器具の製品化に向けた登竜門としても期待されている。サイバスロンに使用される補助器具は、いうなれば試作段階のもの。世界中から多くの義足や義手の大手メーカーも参加しており、自社の製品を宣伝する絶好の場でもあるのだ。
和歌山大学が挑んだ電自動いすレース
出典:www.ticketcorner.ch 大会では「ブレイン-マシンインターフェース」「機能的電気刺激自転車」「パワード義手」「パワード義足」「パワード外骨格」「電動車いす」の6競技だ。本記事で取り上げるのは、電自動いすに挑んだ和歌山大学の研究チーム。システム工学科の中嶋秀朗教授を中心に今大会に一年以上の準備期間をかけてきた。
和歌山大学は4位入賞
出典:www.cybathlon.ethz.ch 電自動いすレースでは、6つの障害が設けられたコースを走行し、どれだけ正確に障害をクリアしたか、速くにゴールしたかを競う。ドアのついたスロープや階段がコースに設置されている。予選レースの後、上位4チームがAファイナル、次点の4チームがBファイナルで再びレースを行う。
和歌山大学の研究チームがが開発した電自動いすは、「PType-WA」。大会のために改良した4代目の車体である。アルミ製の車体は約80kgと軽量で、4つの車輪が独立して動く高性能電自動いすだ。
大会のために最も力を入れてきたのは、コースの中で最難関とされる階段の乗り降りがスムーズにできる技術だ。車体に取り付けたセンサーが斜面を察知し、座席を水平に保ったまま段差を走行することができる。
和歌山大学は予選4位の結果を出し、Aファイナルに進出した。だが、Aファイナルでは序盤の障害物で他チームに遅れをとり、結果は4位入賞。それでも、9カ国11チームが参加した中、全体4位という優秀な成績を収めた。
機体を操作した北京オリンピック400m・800m金メダリストの伊藤智也氏は、大会が起こす影響への期待を「通常、車いすは特注することが多く値段が高い。実用化し大量生産されるようになれば、結果的に低コスト化につながるようになるのでは」と語っている。
今回、サイバスロンが開催されたことによって、障がい者のスポーツ文化の形成だけでなく、大会を通した技術の発展という意義を持つ国際大会が誕生することとなった。また、最先端技術ならではの、白熱した競技は新たなエンターテイメントとして確立されたといっていいだろう。
実は、2020年に開催予定の第二回サイバスロンの候補地に東京の名が上がっている。もしも、東京で開催されることとなったならば、オリンピック、パラリンピックと同時開催ということになる。その時はぜひ第三のオリンピック、サイバスロンを直接観戦し、その熱を感じ取ってもらいたい。
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう