秋も深まり、空気も乾燥し始めた今日この頃。風邪やインフルエンザが流行するシーズンが到来した。
しかし、毎年見かける病気以外にも近頃“再興感染症”という怪しい言葉が囁かれている。一体、“再興感染症”とは何なのか? 男性読者に知ってもらいたい“再興感染症”の正体に迫る。
再興感染症とは
“再興感染症”というワードを本記事で初めて知った読者もいるのではないだろうか。「既知の感染症で、既に公衆衛生上の問題とならない程度までに患者が減少していた感染症のうち、近年再び流行し始め、患者数が増加したもの」――世界保健機関(以下、WHO)が定めた“再興感染症”の定義だ。
感染症を根絶することはとても困難なこと。人類がこれまで完全に封じ込めて根絶させた感染症は「天然痘」のみである。
再興感染症の例としては、マラリア、ペスト、結核、サルモネラ感染症、コレラ、狂犬病、デング熱、黄熱などがある。その中でも、眠りから覚めて現在、世界で流行しているのが結核、マラリア、デング熱、狂犬病、コレラの5つだ。さらに、再興感染症として復活した近年では、抗生物質の効かない薬剤耐性菌に進化している場合もある。
麻疹、結核――何故、今注目されているのか?
出典:reliefweb.int WHOの発表によると、2015年に結核で死亡した人の数は180万人超。2000年以降、結核患者は減少傾向であった。しかし、2015年は新たに結核を発症した人が1,040万人にまで急増。インド、インドネシア、中国を中心に感染が拡大しているのだ。
結核といえば、日本でも幕末の志士・高杉晋作や俳人・正岡子規、作家・樋口一葉などの著名人の命を奪った病気。空気感染で人体に結核菌が入り込み、菌が潜伏・もしくは増殖する病だ。初期症状は、咳・痰・発熱など風邪と似ている。しかし、結核の場合はそれが2週間以上続いたり、ぶり返したりする。そのまま放置すると、ドラマでよく見るような血痰、喀血(かっけつ)、呼吸困難などの症状が発症する。
出典:www.mhlw.go.jp 日本は「結核中進国」と位置付けられるほど、先進国の中でも結核患者が多い(年間約2万人の患者数)。免疫のない若い世代の集団感染、発見時すでに重病化しているケースの増加、高齢者の発病増加、HIVとの二重感染、海外での感染……結核に感染する要因はたくさんあるのだ。
また、今年9月には関西国際空港を中心に、麻疹(はしか)の集団発生が生じた。空港に勤務する従業員33人が感染するという集団感染が起きた原因の1つは、ワクチン接種が不十分な人がいること。麻疹ワクチンは、通常2回の接種で免疫が得られる。しかし、20~30代は1度接種しただけの人が多いという。関空のケースでは、感染者は1度だけ接種した世代に該当している。
日本は気づかぬうちに、1人でも感染者がいると感染力の強い麻疹があっという間に蔓延してしまう社会になっていたのだ。海外に行く機会の多い読者には、麻疹への免疫をつけるべく、ワクチン接種を勧めたい。成人してからの麻疹の感染は、中耳炎・肺炎・脳炎といった合併症を起こしやすく、最悪の場合は死に至る可能性もある。
男性だからこそ知っておきたい“性病”の恐怖
出典:www.mhlw.go.jp 再興感染症の中でも、最も読者に知ってもらいたいのが“梅毒”だ。戦後、ペニシリンが出回るまでは完治できない性病として恐れられていた。花柳界……遊女屋が集まっている場所で感染することが多いことから、「花柳病」という名前で19世紀頃から流行していた。そんな梅毒は、決して過去の病ではない。
1999年~2012年は、500~900例で推移してきた日本。しかし、2013年になると1,200例を超え、前年の1.4倍。さら患者数は倍増し、直近5年間で約4倍に膨れ上がっている。そのペースは衰えることがなく、昨年累計2,698件に対し、今年の累計は10月の時点で3,284件。まだまだ感染拡大していきそうだ。
梅毒は、皮膚や粘膜の小さな傷から病原菌が侵入。血液によって全身に病原菌が広がっていく。性的な接触によってうつる感染症だ。口に梅毒の病変部分がある場合は、キスや間接キスでも感染してしまう程、感染力が強い。
現在梅毒の感染で深刻なのは、男性よりも女性。性産業で働く女性だけでなく、一般女性にも広まっているのだ。スマートフォンの普及によって、若い女性が見知らぬ男性と気軽に会えるようになったことと、性行為に対する考え方の変化が、女性の間で流行している原因ではないかと筆者は考える。
梅毒の初期症状
出典:www.hercareer.pk 梅毒には、3週間~6週間程の潜伏期間があるといわれている。ゆっくりと、着実に症状が悪化していく病なのだ。初期症状は、男性であれば亀頭、女性であれば大・小陰唇のあたりに赤みをもった硬いしこり、もしくはただれがみられることが多い。症状が進行すると、男女ともに、太ももの付け根のリンパ節周辺が腫れてくる。
梅毒の厄介な点は、数週間で症状がおさまるケースが多いことだ。つまり、初期症状が出ても病院に行かず、梅毒の病原菌を保菌した状態のまま生活を続けてしまう。現在、梅毒が拡大している理由も、数週間で症状がおさまってしまうことが起因しているだろう。
梅毒に感染してから3カ月~3年程度の時期、「第2期梅毒」では菌が身体全体に広がっている。症状は全身に出るようになり、最初はかゆみのない赤い発疹(バラ疹)。その次は、バラ疹より色の濃い赤い小さなブツブツ(丘疹)が出てくる。丘疹は、汗のかきやすい場所、性器、肛門、脇の下に表れる。丘疹が悪化すると、えんどう豆くらいの平たく盛り上がった出来物の表面が白くなり、分泌物を出すようになる。「扁平コンジローマ」と呼ばれる、梅毒の特徴的な症状が出てくるのだ。
その他にも、丘疹の跡をかくと白い粉のようなものが出てきたり、発熱、倦怠感、体重の減少、食欲の低下、リンパの腫れ、関節の痛みといった症状が出たりなどする。
読者に伝えたい梅毒の予防法
出典:www.std-lab.jp 字面だけ見ても恐ろしい症状。次は、読者も知りたいであろう予防法を紹介したい。最初に言っておくが、梅毒を完全に防ぐ方法は殆どない。まず1つ目に挙げられる予防策は、避妊具を使用すること。避妊具によって、直接的な粘膜の接触を防ぐことができるからだ。2つ目は、不特定多数と関係を持たないこと。有り余るリビドーを本能のまま発散させることは、「性病というリスクを伴う」ということでもあると、読者には理解してほしい。
3つ目は、性病検査を定期的に受けることだ。「性病検査」と聞くと、病院に行かないと受けられないのでは……と身構えてしまうかもしれない。しかし、現代社会には「性病検査キット」という郵送で結果を知ることができるツールがある。尿検査、血液検査を自宅で簡単に行うことができて、値段も1万円程度だ。確実に梅毒などの性病を防ぎたい読者には、性交渉をする相手と一緒に検査をするのをオススメする。
致死率9割を超えるAIDS(エイズ)にも罹りやすくなる? 梅毒の恐怖
国連合同エイズ企画(UNAIDS)が推計した世界のHIV関連の死亡者数は、110万人。1年間のうちにAIDSに感染した人の数は210万人と増え続けている。
梅毒の記事の後に、AIDSを取り上げたことには意味がある。梅毒は性病の中で、HIV(AIDSのウイルス)感染と最も重複感染が多い病気なのだ。梅毒の炎症・潰瘍の部分からHIVが侵入するため、健康な人よりも感染リスクが倍になってしまう。
読者のみなさんは、HIVに感染すると免疫機能が低下するのはご存じだろうか。免疫機能が著しく低下することによって、健康な状態では罹ることのない病に体が蝕まれる病気こそがAIDSだ。
免疫機能が低下していると、梅毒を併発している患者はあっという間に重症化する。ペニシリンが開発される以前に見られたような“ゴム腫”という症状が現れるなど、とても厄介なのだ。梅毒を防ぐことは、恐ろしい病“AIDS”を防ぐことにもなることを読者には知ってほしい。
以上、再興感染症の正体について紹介した。過去の病と侮り、ワクチン接種の回数を1回に減らしたこと。“性病”という誰もが巻き込まれうる病への認識の甘さ。これらが麻疹の集団感染、梅毒の止まらない感染拡大を助長している。
「知らない」「他人事」「過去の病」――感染症に無関心でいることは、結果的に病を広げてしまっていることと同じであると理解してもらえると幸いだ。“一時の快楽が身を滅ぼす”。この記事をきっかけに、誠実で健康的な生活を送ってほしい。
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