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西田宗千佳のトレンドノート:“ペンとタッチに特化”レノボ渾身の「YOGA BOOK」レビュー

西田宗千佳

2017/10/05(最終更新日:2017/10/05)


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 スマホを軸にした「タッチファーストの時代」と言われて久しい。だが、PCに代表される作業用の機器では、タッチを生かすのが意外なほど難しい。かといって「タブレットで仕事は……」と思う人も少なくない。そんな現状に、Lenovo(レノボ)が刺激的な製品でチャレンジした。「YOGA BOOK」がそれだ。

 日本では10月半ばに発売されたが、ウェブ販売で人気が沸騰、一部モデルは入荷待ちの状況だ。YOGA BOOKには、OSにAndroidを搭載したモデルとWindowsを搭載したモデルがあり、それぞれ、Wi-Fiのみを搭載したモデルと、LTEも搭載したモデルがあり、計4つのバリエーションがある。今回は、YOGA BOOKのWindows版を使い、その狙いを探ってみた。

物理キーボードを捨てて薄く軽いボディを実現

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 YOGA BOOKは、まずとにかく薄い。閉じたままだと、ノートPCというよりは「薄手のノート」に見える。付属のペンを横に置くとなおさらだ。
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 片手で軽々持てる。重さは690gと、タブレットを「二つ折り」にしたようなイメージに近い。
 本体の厚さは、ディスプレイ部・本体部合わせて9.6mm。開いて持てば、片方5mm以下となる。しかも軽い。トータルで690gと、PCとして考えれば相当な軽さである。

 「なんかタブレットみたいだな」

 そう思った人は正解だ。YOGA BOOKは、キーボードがあるはずの本体部に物理キーボードがない。タッチセンサーを使った「Halo Keyboard」になっている。
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 キーボードは物理キーにあらず。タッチ形式で、やはり慣れがいる。だが、スクリーンキーボードよりは快適だ。
 キーを押した感覚は振動で伝えることで、物理キーをなくしてしまっているのだ。すなわち、タブレットとタッチ対応のディスプレイをつないだような構成なのである。とはいえ、本体側の表面はあくまで「キーボード兼タッチセンサー」であり、ディスプレイにはならないので、いわゆる「二画面タブレット」とは違う。
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 本体上部の「ペン」ボタンを押すと、キーボード表示が消え、全体がペン入力領域に変わる。
 本体部分はクルッとディスプレイの裏側まで回せるので、完全なタブレットとしても使える。使われているCPUもインテルのAtom x5-Z855(クロック周波数1.44GHz)・メインメモリー4GBだから、性能的にもタブレットとそう変わらない。動作は決して早くはないが、オフィス文書の作成やネットの閲覧+コンテンツ視聴であれば、さほど問題はない。

 キーボードも、タッチだけなので「物理キーと同じ効率で入力」とはいかない。スクリーンキーボードよりは快適だが……という感じである。個人的には「意外と打てた」という感じなのだが、過大な期待は禁物ではある。

レノボから「ペンとタッチ」の時代に向けた挑戦状?

 なんでこんな構成になっているのかといえば、キーボードでタイプすること以上に「ペンで書く」ことを重視しているからである。本体部分にはワコムのセンサーを使ったペンインターフェースが内蔵されていて、文字はもちろん絵も描ける。付属の「クリエイトパッド」(なんのことはない、底面に磁石が入ってずれないように配慮された、単なる紙のノートパッドだ)を敷けば、紙に付属のペンで描いたものをそのままYOGA BOOKに取り込む、という使い方もできる。
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 実際問題として、この構成が「実用的か」というと「ロマンの代物ですね」といいたくなるところが多い。理由は、特にWindowsモデルの場合、クリエイトパッドとの連携を志向したアプリが用意されていないからである。マイクロソフトの「Onenote」などでメモを残せるが、ペンの描画位置と画面上での描画位置を確認するのが大変で、実用的ではない。

 クリエイトパッドと手書きメモを連携する専用アプリがあれば、話はまったく変わっただろう。ここは、全画面でメモを書いて残すアプリが付属するAndroid版の方が良い、と思う。また、クリエイトパッドを使う時はペン先をボールペンに差し替えるのだが、これが面倒だ。そもそも、差し替えたペン先をしまっておくところがないため、なくしてしまいやすい。この辺、技術的にはできたが使い勝手をあまり考えていないようで、かなり残念な気持ちになった。

 レノボがこういう製品を作ったのは、ある種の危機感の表れではないか、と思う。

 確かにPCは仕事に必須の機器だが、もはや大きな進化はなく、「壊れなければ買い換えたくないもの」と皆が思っている。一方で、タッチやペンを取り込むことで、「仕事をする環境」はまだまだ進化できる。


 アイデアを練るには、まだ紙とペンの方がいい……という人もいるだろう。そういう人に、この製品を使ってみてほしい。ペンとタッチをメインに使い、時にキーボードで文章も……という、従来のPCとは逆転した使い方に向いている。そういう意味では、YOGA BOOKはメインのPCの置き換えではなく、「ちょっとした時に使うサブPC」である。だから、価格も4万円弱(Android版、税別)から6万円弱(Windows版、LTE搭載、税別)と比較的安価である。

 タブレットが開拓したかった「PCとは違う個人向けコンピュータ」を同様に追いかけているのがYOGA BOOK、ということもできる。実際、PCとタブレットの境目は、我々が思う以上に曖昧で、その曖昧なところを攻めたのがYOGA BOOKである。使い勝手にもう一工夫どこかふた工夫以上必要と感じるが、こういうトライアルがないと、市場は活性化しない。自分で使い方を考えるのが好きな人に向けた「挑戦状」のようなPCと言える。

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