今月22日に催された有田焼400年式典。秋篠宮家の長女眞子さまや佐賀県の山口知事などが出席し、国を挙げての祝いごとになった。
しかし、需要の低迷、後継者不足などによって減少し続けている日本の伝統工芸。今後、伝統工芸が生き残るための術とは一体何なのか? 400年続いた“有田焼”が仕掛ける、新たな“日本の伝統”の姿に注目していきたい。
創業400周年:有田焼とは
by detsugu 日本の伝統工芸“有田焼”の歴史について、簡単に紹介したい。江戸時代初期、日本で最初の磁器として焼成された有田焼。有田焼が誕生するまでは、中国製磁器ばかりが出回っていた。まるで現在の日本のようである。中国製の磁器よりも白くて美しく、硬くて丈夫、更には安価で購入できる有田焼は、華々しいデビューを果たした。
有田焼が誕生した17世紀初めは、豊臣秀吉の没後。大河ドラマ「真田丸」と同じくらいの時系列だ。戦いで荒んだ心を癒したい武将たちの間で、茶の湯がブーム。流行の茶の湯の指導的茶人であった“千利休”は、朝鮮の高麗茶碗を珍重していたため、秀吉は朝鮮半島の高麗茶碗作りに興味を持った。
秀吉といえば、朝鮮出兵を思い浮かべる読者もいるのではないだろうか? 朝鮮出兵の際に、佐賀藩主:鍋島直茂は何千人という朝鮮陶工たちを日本に連れて帰ってきた。その陶工の中に、有田焼の祖となる“李参平(りさんぺい)”がいたのだ。李参平は納得のいく磁器作りのため、良質の原料(陶石)を探す旅に出て、1616年に有田の地で良質な原料と出会った。これが有田焼の始まりである。400年続いた日本の伝統工芸は、海外の職人の努力からスタートしたのだ。
有田焼の特徴
出典:e-kihara.co.jp また、有田焼は透き通るような白色をしているのも特徴だ。美しい白色の上には繊細で華やか、鮮やかな絵付けがよく映える。豪華絢爛な有田焼は、1650年代に東インド会社によって、ヨーロッパの国々に輸出。伊万里港から輸出されていたため、「IMARI」と呼ばれた有田焼。有田焼が伊万里焼とも呼ばれるのは、これに由来している。有田焼は、純金と同じ値がつく程、海外の王侯貴族の中では人気だったのだ。
叩くと金属のような音がして、他の焼き物よりもツルツルとした触り心地の良さがある有田焼は、現在でも国内外の磁器愛好家の熱視線が注がれている。
現代に歩み寄る“伝統”の姿
2016/(ニーゼロイチロクプロジェクト)
出典:www.2016arita.com 佐賀県とオランダによるコラボレーションプロジェクト、“2016/”。有田焼とオランダは、江戸時代にオランダの会社である東インド会社を通して有田焼を輸出していたという古い関係がある。長い時間をかけて築いた関係を、有田焼再興の起爆剤にしようというプロジェクトだ。
プロジェクトの仕掛け人は、柳原照弘氏とショルテン&バーイングス氏。この2人はプロジェクト内で、佐賀県の16の窯元・商社、16組の国際的デザイナーのディレクションを行う。窯元、商社、デザイナーが一体となって商品開発しているのだ。
プロジェクトは、1616 / arita japanの成功から始まった。新しい素材、多様な食生活に対応するデザインを担当した柳原氏。カラーポーセリンと呼ばれる日本の伝統色を再解釈してシリーズを生み出したショルテン&バーイングス氏。この2人の努力から完成したコレクションは2012年にミラノで発表され、国際的に評価された。2016/は、海外でも高評価であったブランドを引き継いだプロジェクトなのだ。
気になる2016/の焼き物は、「スタンダード」と「エディション」の2つのシリーズで展開されている。スタンダードは、使いやすく機能的な磁器、コストを抑えた低価格帯のシリーズだ。エディションは、熟練の技術と工程を詰め込んだ最上級の有田焼。コレクター向けのデザインにこだわったシリーズだ。高価なイメージの有田焼を、現代のライフスタイルに合わせて低価格・モダンなデザインにして提供している点がポイントである。
ARITA 400projectによる国内外でのプロモーション活動
出典:arita400project.jp 2013年9月に、㈱KEN OKUYAMA DESIGNプロデュースによって始まったプロジェクト。プロジェクトの目的は、海外市場での有田焼のリブランディングと販路開拓。欧州最大級の国際見本市“メゾン・エ・オブジェ”に、2014~2016年の間に3度出展した。「ARITA」として、新たな製品・世界観を欧州に広める活動を行っていたのだ。
また、日本でも新たな有田焼の一面を知ってもらうために帰国展を開催。九州で開催した後に、東京でも行うことが決定した。10月5日〜11日に、六本木の森アーツセンターギャラリーにて開催された「ARITA 400project-伝統と革新-」。そして、10月19日〜11月1日には伊勢丹新宿店にて「ARITA 400project×ISETAN SHINJUKU」が開催されている。
筆者は六本木で行われた展示会に足を運んだが、ショーケースに入っていない状態の有田焼を、筆遣いや造り方を間近で鑑賞することができて大変感動した。有田焼が出来るまでのストーリーを見てから、作品の展示を見ることによって、伝統工芸の尊さを感じることができる。映画監督のビートたけし氏、建築家の隈研吾氏、アートディレクターの佐藤可士和氏など、デザインの世界で著名なクリエーターとコラボレーションした作品も展示してあり、伝統工芸に興味がない人でも楽しめるイベントになっていた。
新宿でのイベントでは、ゲストクリエーターの作品や伝統とモダンを掛け合わせた有田焼、メゾン・エ・オブジェの展示物などを見ることができる。有田焼の魅力を間近に感じられるので、新宿に用がある際は無料で入ることができるのでぜひ足を運んでみてほしい。
“器”を楽しむオトナになろう
敷居が高そうで、無縁なもののように思っている読者もいるのではないだろうか? ここでは、伝統工芸品が大好きな筆者が勧める伝統工芸品の楽しみ方と読者にオススメしたい有田焼を紹介したい。
伝統工芸品の楽しみ方
by wareta_tamago 伝統工芸品の楽しみ方は、日常的に工芸品を使うことである。飾るだけでは勿体ない。筆者は遠くの観光地を訪れたら必ず伝統工芸品を買うようにしている。三重の「伊賀組紐のイヤリング」、金沢の「九谷焼のマグカップ」、岡山の「備前焼のビアマグ」、沖縄の「琉球グラス」、岩手の「久慈琥珀のイヤリング」。いずれも少し値は張ったものの、買ったことに一切の後悔がない。
カジュアルなファッションでも浮かない組紐のイヤリング、シーンを選ばずに使える琥珀のイヤリングは、出かける時の気分を高めてくれる。マグカップ、ビアマグ、グラスは、コーヒーやお酒を飲むために使用している。飲み物を入れた器を見る度に、愛着が増すのだ。
日常の中に“日本らしい”ものが1つでもあると、どこか懐かしくて温かな気持ちにさせてくれる。また、伝統工芸品を旅先で買うことによって、当時の思い出を色濃く思い出すことができる。外でお酒を飲むことが多い読者には、ぜひお気に入りの伝統工芸品を見つけて家でゆっくり飲むということをしてほしい。器は、飲み物や料理にとって最高のスパイスであることがよくわかるはずだ。
オススメの有田焼
普段使いに丁度いい、オススメの有田焼を3つ紹介したい。
出典:tashirotouki.jp 1つ目は、田代陶器店の“rice wine glass for SAKE”。日本酒を、よりおいしく飲むために作られた日本酒専用グラスだ。お米をイメージしたデザインは、日本酒の香りを引き立ててくれるようになっている。
価格は19,440円と、少々高めではあるが器によって日本酒をより美味しく飲めるのであれば安いものだ。日本酒を注いだときに、ほんのりとグラスの乳白色が濃くなるのがとても美しい逸品だ。
出典:www.e-nisiyama.com 2つ目は、まるぶんの“究極のラーメン鉢”。コンセプトは「家庭でインスタントラーメンをおいしく食べるための器」。
“究極”の秘密は7つ。小さめの口径で冷めにくいデザイン。有田焼特有の丈夫さと、口当たりの良さ。女性が片手で持てるくらいの高さ。熱が伝わりにくい。スープが麺にからみやすい底面の大きさ。安定性。軽さ。さらには、13の窯元がそれぞれの得意な絵付け技法を施しているため、デザインも100種を超えている。即席ラーメンをグレードアップさせてくれること間違いなしの器だ。
出典:www.jicon.jp 3つ目は、JICONのマグカップだ。有田焼特有の白さもあるが、JICONの焼き物は生成り色をしている。温かくて柔らかな印象を受ける焼き物だ。独特の色味が、コーヒーブレイクを優雅なひと時にしてくれる。
サイズは大と小。大のカップに小のカップを重ねると、きれいに重なる。大のカップは12.0㎝×9.7㎝なので、少し大きめのサイズになっている。スープマグとしても活躍してくれるのだ。
以上、400周年を迎えた有田焼の歴史と現在の取り組みについて紹介した。後継者が減り、有田焼の価値をわからない世代が増え、長らく引き継がれてきた伝統が途切れてしまいそうになっている伝統工芸“有田焼”。この状況を打破するために、有田焼の窯元は「伝統」という言葉のしがらみを捨て、「現代」に歩み寄ろうとしている。
現代のライフスタイルに溶け込むようなデザイン、日常使いができることのPR……これらが功を奏するかどうかは未だわからない。本記事を読んで、少しでも伝統工芸品に対して興味を持ったり、魅力を感じたりしたのであれば、ぜひ1つでも良いので買ってみてほしい。伝統を紡ぐのは、職人だけではない。伝統工芸に対する日本人の意識が、伝統に大きく寄与しているのだ。
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