最近ではインターネットの普及により、「若者のテレビ離れ」が叫ばれている。歴代の民放ドラマで、最高の視聴率を誇っているTBSの「積み木くずし」(1983年放送)は平均視聴率35.7%、最終回の最高視聴率は45.3%という数字に対して、近年の民放ドラマは視聴率が取りやすいと言われているゴールデンタイム(19時~22時)でも、平均で7%前後、10%行けば上々の数字とされている。
昔に比べ、数字を取るのも難しく、厳しい予算の中で制作されている日本のドラマに対して、米国のドラマ市場は近年黄金期を迎えたと言われている。なぜ日本と米国でのドラマ市場に違いが出てくるのか。ドラマ市場の仕組みの違いと金の回り方を追ってみたい。
平均制作費3億円の欧米と3,000万円の日本:市場規模の違い
日対米ドラマ1話あたりにかける予算規模
日本の民放キー局が連続ドラマの1話あたりにかけている予算は、局によって前後するものの3,000万円前後のものが多いのに対して、米国は日本円換算で約3億円となっている。
また、日本のドラマは1年を4クールに分け、全10話のドラマ4作品を放送するのが一般的なのに対して、米国は1作品全24話が一般。また人気の作品は、何シーズンかシリーズ化されるものが目立つ。ドラマの予算と話数からみても市場の大きさの違いが見て取れる。では、なぜここまで違ってくるのか。日本と米国のドラマの商売の仕組みの違いを次の項目で見てみたいと思う。
米国と日本のドラマ市場の仕組みの差
出典:m.hulu.jp有料チャンネル登録率9割の米国:ドラマ市場における金の生み出し方の違い
そもそも日本のドラマ市場は、各放送局がドラマを制作し、著作権を持つ。また、収入のメインはスポンサーで、ドラマの放送時間内に流れるタイムCM(あらかじめ金額が決まっている広告)とスポットCM(スポンサーが付いていない時間帯に流れ、視聴率によって金額が決まる広告)が主となっている。つまり、視聴率が良いほどスポンサーが付きやすく、テレビ局にとって視聴率は収入の面で重要となってくる。
対して米国のドラマ市場は、制作会社が全国のネットワークに向けて作品を作り、その放送権を各放送局に販売するシステムで、その売買を行うシンジケーション市場が存在する。
また、このシステムは制作会社が、複数のネットワークに番組の「初放送権」だけでなく、すでに一度どこかのネットワークで放送し終えた番組の「再放送権」も、改めて取引することが出来るため、放送が終わってしまっても、人気作品などは再びお金を生み出すことができる仕組みになっている。米情報誌「USA TODAY」によると、1994年から2004年にかけて放送された米国ドラマ「フレンズ」の制作会社ワーナー・ブラザーズ・テレビジョンは、放送終了から10年以上たった今でも「フレンズ」で一年に10億ドル(約1,000億円)ほどのシンジケーション収入を得ているという。
このような仕組みになっているため、巨費を投じて最初の放送権の販売時に全額回収できなくても、何度も放送権を売り、コストを回収することが可能なのである。
by Tracy O 根本の収入源においても日米では大きく変わる。日本の家庭では、テレビの有料チャンネルに加入する家庭はあまり多くないが、米国では80年代あたりから地上波テレビ放送の他に、CATVや衛星放送の普及に力をいれてきた。その結果テレビを所有する家庭の9割の家庭が有料チャンネルに登録しているという。
そして、インターネットの普及によってテレビ離れした視聴者を呼び戻すための対策として、大手テレビ局3社(ABC、CBS、NBC)が共同で、地上波で放送された番組をパソコンで翌日以降に無料で視聴出来るインターネットテレビ「Hulu」を設立し、毎月2,700万人以上の視聴者を獲得に成功した。最近では、無料サービスに加えて、有料会員制度を設ける課金モデルの試みも普及を見せている。収入は有料サービスに加入した会員からだけでなく「Netflix」などのオンラインにて動画を配信する媒体に多くの番組を提供してライセンス料を得るなどの新たな動きが活発になってきている。
このように、収入源が主に広告の日本よりも、広告のほかにシンジケーション収入、視聴者の会員費、ライセンス料と大規模な資本が多数ある米国は自然とドラマ市場の規模が大きくなるのである。
市場の違いから見えるドラマ制作の可能性
上述したように、日本のドラマは各テレビ局が制作し、著作権を持つため、その系列局内のみ放送権をもつ。一方米国は、制作会社が作ったドラマの放送権をテレビ局が買う仕組みになっているため、悪い作品を作れば赤字は大きくなるが、良い作品を作れば、その可能性は無限である。日本のドラマ市場はローリスクローリターンなのに対し、米国はハイリスクハイリターンと言えるだろう。
米国のクリエイターたちは、ずっと売れ続ける作品を作るべく、ハイクオリティな作品を追求するため、莫大な予算とそれだけの価値に見合う作品が多いのだろう。また、ドラマの著作権をクリエイターが持つという部分も人気ドラマを制作すれば、その作品のグッズやイベントなどの収益も得ることができるため、予算を惜しまず投資する要因と言えるだろう。
近年日本でも「Hulu」や「Netflix」などの有料チャンネルが普及しつつある。国内外のドラマや映画の他にバラエティー番組やオリジナル作品までも配信されている。「Netflix」では、2015年芥川賞を受賞した「火花」をオリジナル作品として実写化し話題を呼んだ。有料チャンネルでしか見れないドラマを制作し会員数の増加に拍車がかかれば、日本でもドラマ市場の拡大の大きな一歩になるだろう。
米国ドラマの驚きの製作費と視聴者数
歴代米国ドラマ視聴者数ランキングと1話あたりの平均製作費
- 1位:ER緊急救命室 約2,540万人(シーズン1/2:約1億9,500万円 シーズン3:約13億4,000万円)
- 2位:フレンズ 約2,450万人(約5億7,000万円)
- 3位:CSI:科学捜査班 約2,370万人(約2億5,000万円)
膨大な予算を費やしても失敗した例も
出典:m.hulu.jp ドラマがヒットすれば大きな見返りがある米国ドラマ市場だが、成功例ばかりではない。日本でも有名なドラマ「LOST」は、第1話を10億円以上かけて制作し、その企画者が解雇されたり、「24」は最終シーズンの1話あたりの平均製作費は約4億となり放送権の販売額との採算が取れなくなり継続が断念されたとも言われている。
視聴率が優れず、質の低下も囁かれている日本のドラマ界だが、有料のオンラインチャンネルの普及とテレビドラマの市場を国内だけでなく、商品として米国のシンジケーション市場への参入に視野を入れれば、マンネリ化したテレビドラマ市場に、また新たな可能性を生み出すことができるのではないだろうか。
日本がテレビドラマの最盛期だった80~90年代のように、テレビドラマが学校や職場、家庭での共通の話題になる時代が再び訪れてほしい。
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