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“ザクとうふ”だけじゃない! ヒット商品の裏に隠された、豆腐の革命児・相模屋食料のビジネス戦略

Rikaco Miyazaki

2016/10/21(最終更新日:2016/10/21)


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“ザクとうふ”だけじゃない! ヒット商品の裏に隠された、豆腐の革命児・相模屋食料のビジネス戦略 1番目の画像
出典:jpnfood.com
 10月も下旬を迎え、朝晩と昼の気温差が大きい近頃。寒くなると恋しくなる「鍋」だが、その鍋に欠かせないのが“豆腐”だ。夏は冷奴。冬は湯豆腐。その他にも麻婆豆腐や、揚げ出し豆腐など、料理に大活躍の豆腐。木綿豆腐と絹ごし豆腐があり、料理の仕方によって使い分ける。

 白くて四角くて、ツルンとしているというのが“一般的な豆腐のイメージ”だが、そのイメージを打ち砕いたのが「相模屋食料」だ。今年の9月に発売した「モッツァレラのようなナチュラルとうふ」の売上が好調な同社は、SNSで話題になった“ザクとうふ”を製造している会社だ。今回は、過去6年間で業績を4倍にした豆腐業界の革命児、相模屋食料のビジネス戦略を解明したい。

豆腐業界の現状

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by 101LAB
 実は音楽業界とおよそ同規模、約6,000億円の市場規模を誇る豆腐業界。数字だけ見れば大きな市場のように見えるが、実は豆腐業界の製造業者は年々減少している。

 厚生労働省の調査によると、豆腐製造業の施設数は1960年度がピークで51,596施設。2012年度には、9,059施設にまで減少している。なんと、ピーク時から8割以上も減少しているのだ。現在も、年間約500軒もの豆腐製造者が廃業に追い込まれている。
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出典:www.tsr-net.co.jp
 豆腐業界の売上高は、2011年まで横ばいだった。しかし、2012年になると原料となる大豆の輸入価格や、原油価格の高騰により製造にかかるコストが跳ね上がってしまう。豆腐製造業者は、商品の値上げを検討するも納入先のスーパーが値上げに応じない……などという問題が生じた。製造コストが嵩み、経営難に陥った豆腐業者は廃業。その結果、横ばいだった豆腐業界の売上は2012年に激減したのだ。

 現在残っている豆腐製造業者の中でも、売上高40億円以上の豆腐メーカーは僅か10社程度。町の小さな豆腐店の殆どが零細企業なのだ。

60年以上続く、相模屋のはじまり

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 はじまりは、町の豆腐店。戦争で夫を失った江原ひさ氏が、生計を支えるために始めたのが「相模屋」だった。豆腐を商材にした決め手は、姉夫婦が豆腐の製造機械と豆腐を作れる職人を手配してくれたこと。そこで、創業の恩人に対し感謝と敬意を示して、姉夫婦が住む神奈川県(旧国名:相模)にちなんだ「相模屋」という屋号をつけたのだ。

 1951年の創業から8年後、相模屋豆腐店は有限会社化。群馬県前橋市に工場を増設し、本社を移転。本社は現在も群馬県前橋市にある。1978年には株式会社化し、その後も工場を増やしたり増築したりと、企業拡大を進めていく。

 企業拡大が順調だったのには、しっかりとした理由が存在する。相模屋は「木綿」「絹」というオーソドックスな商品に絞り込んだ設備投資を行っていた。2005年に稼働させた「第三工場」では、木綿豆腐の製造にロボットを導入。人件費を抑え、従来の3倍のスピードで豆腐を生産することを可能にしたことが、業績の拡大の要因となっているのだ。

 豆腐業界の頂点である相模屋食料は、業界トップ企業として以下のような使命を持っている。

おとうふをもっともっとおもしろくし
おとうふのマーケットを広げていきます。

出典:ビジョン|相模屋食料株式会社|とうふは相模屋
 豆腐作りを通じて、取引先・消費者へ感謝の気持ちを伝える相模屋食料の「おとうふ」への愛を感じる使命である。

豆腐業界の革命児、成功のワケ

 2006年には農林水産大臣賞を受賞するなど、豆腐業界の中でも確固たる地位を築いていた相模屋食料。2004年の売上約30億円が、2014年には約180億円にまで拡大している。豆腐業界の売上高が急激に落ち込んだ2012年も、営業成績を伸ばし続けた4つの理由を紹介したい。

其の1:豆腐業界の革命児「鳥越 淳司」

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 まず1つ目の理由は、2007年に相模屋食料の社長に就任した鳥越 淳司氏(以下、鳥越氏)だ。簡単に鳥越氏の経歴を紹介したい。京都府出身で、大学進学の際に上京。早稲田大学を卒業し、新卒で雪印乳業㈱に就職。仕事関係の知人に相模屋の三女だった女性を紹介してもらい、付き合うことになる。その女性が、現在の鳥越氏の妻である。

 新卒入社した雪印乳業を辞職し、妻の実家である相模屋食料に2002年に入社。入社5年目、鳥越氏は33歳の若さで代表取締役に就任した。就任した翌年には業界トップの成績を打ち出し、2009年には豆腐業界初の売上高100億円を突破。

 鳥越氏の経営手腕について、ここではビジネス戦略に関することを話したい。2012年に、ダイエーの元子会社「デイリートップ東日本(神奈川県川崎市)」をM&Aした。群馬に本社を置く相模屋食料にとって、渋滞の多い首都高を通らなければならない神奈川、静岡エリアは弱点である。「相模屋の豆腐」を全国に広げるために、M&Aや業務提携を繰り返しているのだ。

其の2:大量生産工場による量と生産性の追求

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 2つ目の理由は、「超量産型工場」だ。ロボットを使用した製造ライン、更に商品を“少数精鋭”にしていることが生産性の追求へとつながっている。

 2002年の年商28億円の時代には、370あった商品の種類。それを2008年には、143種類まで絞り込んで製造している。絞り込むことによって、「絹」「木綿」の生産スピードは他社の約4~5倍に。急な発注数の引き上げを要求するスーパーに対して、定番商品の安定供給をしているのだ。

 ちなみに商品の数を絞り込んだ2008年には、年商が90億円に急激に伸びている。品数は3分の1になったものの、売上が3倍になったのだ。現在では、M&Aした会社の兼ね合いで約165アイテムを製造している。

其の3:ユニークとシンプルの追求

 3つ目の理由は、「ユニークさ」と「シンプルさ」だ。ユニークの面については、冒頭の写真である「ザクとうふ」が物語っているが、先に紹介したいのは「シンプルさ」の面である。
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 シンプルな質にこだわっている相模屋の看板商品が「焼いておいしい 絹厚揚げ」。業界初のもっちりとした食感の厚揚げ豆腐。その名の通り、焼いて、しょうが醤油やポン酢をかけるのが一番オススメの食べ方だ。賞味期限も、通常の厚揚げ豆腐より2倍長い8日間。相模屋のこだわりの商品は消費者にも支持され、2011年に日本食糧新聞社主催の「食品ヒット大賞優秀ヒット賞」を受賞した。
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 ユニークさでは、SNSで話題になった「ザクとうふ」が代表的だ。ザクとうふの発端は、鳥越氏が“ガンダムオタク”だったことである。入社したときから「いつかは豆腐でザクを作ってやるぞ」という想いを抱えていた鳥越氏。100%趣味で始めたザクとうふは、初回で14万パックの予約注文が入るほど大ヒットした。

 ちなみに、ザクにした理由は「量産型」であるから。量産型である豆腐でシャア専用ザクやガンダムを作っても意味がないのだ。
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 また、女性向けのユニークな豆腐も販売している。“女の子が、毎日食べたいおとうふ”をコンセプトに作られている「ナチュラルとうふ」だ。濃厚なクリーム感とコクのある旨味がしっかりとあるのに、100%大豆でできている点が魅力的だ。定番のマスカルポーネチーズの豆腐にはオリーブオイルが付いていたり、ハチミツが付いていたりと味付けや用途も楽しめる。

 筆者は先日チョコレート味の「ナチュラルとうふ」を食べたが、豆腐とは思えないほど、しっかりとチョコの味がした。豆腐だからか、夜でも全く罪悪感なく食べることができて感動したのを今でも覚えている。

 その他にも、地域限定で販売している「とうふで、グラノーラ」や、「かぼちゃ風味」のナチュラルとうふ、最近発売されたもちもち×のびる×とろける食感が楽しめるモッツァレラのような新感覚のナチュラルとうふがある。甘いものが苦手な男性も、美味しく召し上がれること間違いなしの商品だ。

 相模屋食料の商品は他の豆腐メーカーより高めの価格設定だが、上記のような高い付加価値をつけることによって、消費者からの支持を集め続けているのだ。


 以上、市場規模が約6,000億円の豆腐業界のトップに君臨する相模屋食料のビジネス戦略について紹介した。製造コストが上がることによって廃業に追い込まれる豆腐製造業者が多くいる中で、思い切った設備投資をすることで従来の3倍以上の速さで大量生産を可能にした同社。「ザクとうふ」などのヒット商品だけが、会社を成長拡大させたわけではなかったのだ。

 危機的な状況においても、質を落とした商品の大量生産ではなく、少数精鋭で質の高い商品の大量生産をすることに踏み切った「判断力」こそが、業界初の売上高100億円を突破した1番の理由だと言える。今後、IoT化やロボット・AIの導入によって縮小、危機的な状況に陥る市場もあるだろう。危機に陥った際には、例え財力がなくてもその場のしのぎの対処をするのではなく、先を見据えた判断・投資をすることが重要だ。

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