昨年のGDP成長率トップがどの国だかご存知だろうか。インド、中国、あるいは急成長を続けるアフリカ諸国、このような国を想像する方が多数派であろう。だが、実際のGDP成長率1位は北大西洋に浮かぶ島国、アイルランドなのだ。そのGDP成長率は驚異の26.3%。世界中のエコノミストが驚愕したその数値には、アイルランドの矛盾した経済構造が背景にあった。
驚愕のGDP成長率はまやかしの数値?
出典:astanatimes.com 今年の7月、アイルランドの2015年のGDP成長率が26.3%と発表された。EU全体が景気低迷の時期にあり、アイルランドも2010年に金融支援を受けていたのにもかかわらずだ。中国の約4倍ものGDP成長率が算出されてしまったことによって改めて浮き彫りになった、アイルランド経済の構造とはなんだろうか。
低税率の法人税で多国籍企業を誘致
驚異的なGDP成長率の裏にある真相は、12.5%と極端に低い法人税率だ。ちなみに日本の法人税率は29.97%、EU加盟国で最も高い法人税率を設けているフランスは34.43%とその違いは一目瞭然である。
低い法人税を狙って本社や海外事業の拠点をアイルランドに移転する企業は少なくない。例えば、アップルの欧州本社はアイルランド南部のコーク市郊外に、グーグルのデータセンターが首都ダブリンにあるなど、名だたる多国籍企業がアイルランドに拠点を構えている。
もちろん、これらの大企業が雇用主になることで、アイルランドの雇用状況を良好にすることはできる。今では、アイルランドの労働者5人に1人が多国籍企業に勤める。だが、GDP成長率は目に見える経済効果だけが反映されているわけではない。グーグルなどは、知的所有権や特許などの実際の経済には影響を与えず、数値に表れるような資産を持っているのだ。
このことから、アイルランドの財務相も実質的なGDP成長率は5%程度だろうと説明をしている。
数値とかけ離れた現実も
再三述べてきたように数値だけを見れば、驚異的な成長を遂げている。確かに、国内に呼び込んだ国外のエリート、多国籍企業に就職した国民はその恩恵を受けているのかもしれない。だが、その他大勢は経済効果を実感できていないようだ。
今月2月に行われた世論調査では、約50%の人が景気が上向いていることを全く実感できていないと答えた。アイルランドはリーマンショック時に大きな影響を受けた国の一つだ。2008年以降、EUの中では最初に景気が低迷し、2010年に金融危機に陥ったこともある。
タックスヘイブンとしてのアイルランド
出典:panamaadvisoryinternationalgroup.com このような状況を鑑みて、今年の8月末には欧州委員会が、アイルランドがアップルに最大145億ドルの追徴を行うよう求めた。今年の初めから、問題が明るみに出たタックスヘイブンとして、アイルランドが好ましくない税収をしていたことが指摘されてる。
争点は脱税ではなく国家補助
今回、問題視されているのは、アップルのEU域内で上げた利益がアイルランドの法のもとでは課税対象にならない「ヘッドオフィス」に配分したことだ。というのも、アイルランドに設置されたアップルの子会社、アップルSIとアップルOEの売り上げがアイルランド国外に設置された本店に計上されていたことにより、アイルランドでの納税を逃れていたのだ。
2014年にはアップルSIへの法人税率は0.005%もの低い税率となっており、その異常性がよくわかる。
アップルは法律と照らし合わせると、違法なことは行なっていない。だが、ここで問題とされているのは、国家が特定の企業に優遇したことである。EUでは域内での統一市場の形成を最大の目的の一つとしている。だからこそ、独占禁止法や国家が企業を優遇することで競争を妨げることをEUは問題視している。
要するに、今回のケースは税法への違反ではなく、アイルランドの国ぐるみの企業優遇に争点がおかれる。このことから、欧州委員会はアップルに納税を命じたのではなく、アイルランドに追徴を言い渡したのである。
欧州委員会の要求を受け、アイルランドとアップルは強い反発を示している。アイルランドは欧州司法裁判所に提訴する方針を9月末に明らかにした。多額の徴税をわざわざ受け入れない背景には、アップルのほかグーグル、アマゾン、マイクロソフトなどの拠点がアイルランド国内に存在していることから、今後の企業の動向を気にする意図があるだろう。
今年の初めにパナマ文書が流出したことにより、問題が明るみに出たタックスヘイブン。繰り返し述べている通りタックスヘイブンの問題点は、租税回避に積極的な企業に抜け道を作ってしまうことだ。
今回のアイルランドとアップルにまつわる問題は、租税回避をめぐる長い戦いの一端として注目したい。
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