書店で平積みされている「日本史」を学び直す書籍。いっきに読める、2時間でおさらいできるなど魅力的なタイトルで消費者の目を引き付ける。
2009年に発売された『もういちど読む山川日本史』がロングセラーとなったり、大河ドラマ『真田丸』の視聴率が好調であったり、歴史ブームがここ数年じわじわと続いている。そんな歴史ブームの中で本記事では、教科書から“消えた”日本史について取り上げたいと思う。
日本史の教科書
出典:english.chosun.com 日本で最もポピュラーな歴史の教科書といえば、多くの高校で使用される山川出版社の教科書。教科書協会に属する日本史の教科書を出版している会社はそれ以外にもある。東京書籍、実教出版、清水書院、第一学習社、明成社だ。
しかし、東京都が2014年に発表したデータによると、都立高校での山川社の日本史の教科書の採用率は75%超。歴史の教科書の市場は、山川社の独壇場なのだ。山川社の教科書は、本を開いたら勝手に閉じない、営業スタッフによる教科書づくりの要望ヒアリングといった工夫がなされている。その丁寧な施策が、選ばれる理由の1つであることが考えられる。
また、歴史の教科書には、その国の特色が反映される。アメリカのスタンフォード大学アジア太平洋研究センターの研究によると、日本の歴史の教科書は、愛国的記述がなく、戦争の賛美などが全くない。事実の羅列だけで、感情的なものがないという評価がなされている。
近隣国の教科書の評価もいくつか紹介しよう。韓国の教科書は、韓国人に起こったことを詳細かつ念入りに記述している、と評価されている。日本で起きた広島・長崎の原爆投下の記述がないことから、外国間での史実の重要度が低いことが窺える。中国の教科書は、南京事件などの日本軍による残虐行為が強調されるなど、中国人のナショナリズムを煽動する記述が多い、と評価。台湾の教科書は、日本の悪行を書いているが正確な分析がされていると評価されている。
教科書から“消えた”歴史
読者も気になっているであろう、教科書から消えた歴史について紹介したい。現在の小・中・高校生がどんな史実を学んでいるのか見ていこう。
士農工商
by philHendley なんとなく記憶に残っている……という読者もいるのではないだろうか。小学校6年の社会科で江戸時代の身分制度、と教えられていた士農工商。士は武士、農は農民、工は職人、商は商人。上から順に身分が高く、下にいくにつれて身分が低くなる、と考えられていた。
しかし、2000年代には士農工商という身分制度や上下関係は存在しないことが研究で明らかに。平成13年以降、教科書から姿を消すことになった。
知っている歴史の知識が教科書から姿を消してしまってはいるが、士農工商が存在しなかった訳ではない。あくまで、“身分制度”としての士農工商が史実と異なるだけで、江戸時代の一般的な人の職業という意味合いで使われていたのだ。
また、「士農工商という身分制度からの解放」という意味で教えられた「四民平等」も時を同じくして、教科書から姿を消している。
和同開珎
日本初の流通貨幣として教えられた「和同開珎」。しかし、日本初の流通貨幣は「富本銭」であるという学説が有力になったことから、和同開珎が教科書から姿を消すことになった。
和同開珎があったことは事実だが、歴史の教科書の中で最も大切なのは「日本初の流通貨幣」ということ。初でなければ意味がないのだ。現在では、日本初の流通貨幣は「富本銭」として教科書に記載されている。
仁徳天皇陵
出典:www.messagetoeagle.com 日本最大規模の古墳として教えられた「仁徳天皇陵」。大阪府堺市にある鍵型の巨大な古墳は、クフ王ピラミッド、秦の始皇帝墓陵と並ぶ“世界三大古墳”と呼ばれている。
教科書から姿を消した理由は、仁徳天皇の墓であるという確証が得られていないから。確証を得るための発掘は宮内庁が認めておらず、未だに被葬者が不明のままなのだ。そのため、現在の教科書では古墳がある場所の地名を用いて「大仙陵古墳(伝・仁徳天皇陵)」と、記載されている。
旧石器時代
by Dunechaser 旧石器時代、縄文時代、弥生時代、古墳時代、飛鳥時代……という時代の流れを、テスト前に覚えた読者もいるのではないだろうか。実は「旧石器時代」の名称は、歴史の教科書から姿を消しているのだ。
消えた理由は、驚くことに捏造である。2000年の毎日新聞のスクープ記事によって明らかにされた「旧石器時代 捏造事件」。捏造したのは、民間研究者である藤村新一氏。自らが収集した縄文時代の石器を数万~数十万年前の地層に埋めて、その地層から掘り出した石器を「旧石器時代のもの」と呼称した。初めから「旧石器時代」は存在しなかったのだ。
現在の教科書では、弥生時代から記載。縄文時代に関しても、学術的な根拠に欠けることから発展的な学習の扱いになっているのだ。
歴史は変わる
by knakajp 歴史は、様々な資料を用いて分析するもの。過去の出来事を“推測”するため、史実が変わることはよくあることなのだ。教科書は正しいもの、という認識は「歴史」においては取り払うべきもの。現に教科書は4年に1回、改訂が行われている。歴史の教科書の記載が変わる理由は、主に4つ。
教科書の記述が変わる理由
- 1.新たな発見などによる事実の変更
- 2.学会などでの表記変更を受けての名称の変更
- 3.学会などでも諸説ある中での記述の変更
- 4.表記に対する読みの変更
例えば、「鎖国」に関する表記の変更。鎖国の表記が変わった理由は、「1.新たな発見などによる事実の変更」に当てはまる。鎖国は現在「鎖国という名の外交をしていた」という婉曲的な表現がなされている。
この変更は、国際社会の変容が背景にある。以前は、東南アジア諸国は発展途上国とされていて、西欧・欧米諸国との関わり合いを重要視していた。しかし、現在では東南アジア諸国の発展は著しく、アジア大学ランキングではシンガポールの大学が1位、2位を占めている。「アジアの中の江戸時代」という括りで考えると、“鎖国”という強い言葉は不相応であるとされた。その結果、教科書での表記が変更されたのだ。
以上、日本史の教科書から消えた歴史について紹介した。自分の知っている歴史の知識が塗り替えられて、軽い衝撃を受けている読者もいるのではないだろうか。歴史の教科書は4年に1度、改訂される。歴史研究も年々進み、史実も更新されていくので歴史の勉強は継続的にすることが必要である。短時間で歴史の概要を学び直すのも大切だが、最新の書籍で自分の暮らしている国の歴史について情報を仕入れることも重要だ。
グローバル化が叫ばれて久しい昨今。世界のことについて学ぶことにプライオリティ(優位性)を置きがちだが、「日本」について正しく外国人に対して説明できないことのほうが問題ではないだろうか。日本の歴史について学び直すことは、グローバル化に対応するための勉強でもあるのだ。
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