10月2日、菅義偉官房長官は2020年の訪日外国人旅行者を年間4千万人に増やす政府目標の達成に意欲をみせた。インバウンド消費には陰りが出てきたものの、依然として日本を訪れる海外からの観光客は増加傾向にある。
今回は、外国人が日本を訪れる際に参考にしているガイドブック「ロンリープラネット」に着目していきたい。海外のガイドブックで、日本がどのように紹介されているのか見ていこう。
世界シェア25%を占めるロンリープラネットとは
出典:blog.nonsolocrociere.it ロンリープラネットを初めて知った読者もいるだろう。このロンリープラネットは、約120カ国、650以上のタイトルを出版しているアメリカの出版社である。英語版ガイドブックにおいて、世界トップシェアである25%をマークしている(2013年時点)。
このシリーズは、1970年代に創始者トニー・ウィラー氏とモーリン・ウィラー氏の2人が自らのハネムーン旅行を友人に紹介するために手作りしたガイドブックからスタートした。ロンリープラネットの特色は、「圧倒的な情報量」である。上記の写真からわかるように、ガイドブックとは思えない厚み。写真などのビジュアル要素が少なく文字がぎゅうぎゅうに書かれおり、まるで“国語辞典”のような本である。
しかしロンリープラネットは、ただの文字が読みづらいガイドブックではない。ガイドブックに掲載されている情報は全て、ロンリープラネットの派遣員が目で見て、体験したことである。そのため、「海外から見た日本」がガイドブックにそのまま反映されている。一般的に日本人が好むとされている“定番”の観光地や宿ではない場所が掲載されているのも、ロンリープラネットの魅力である。
ロンリープラネットから見る“日本”
by azrasta 2012年に発売された“Lonely Planet Tokyo”の責任者コメントでは、「東京に飽きることは、人生に飽きることだ」と書かれている。
10年以上、東京で過ごした責任者は、東京は「変化」が多い場所だと紹介している。ふらふらと歩いた先にある美術館や夕暮れの新宿からチラリと見える富士山など……日本人にとっての当たり前が、外国人らしい視点で切り取られていることが前置きだけでわかる。
“Lonely Planet Tokyo”に掲載されている情報の中でも、日本人にとっての“日常”であるものを紹介していきたい。
日本の路線図はラーメンのようだ。
アメリカンジョーク混じりで書かれている1文である。麺のようにこんがらがった路線図だが、今までに見たことがないくらい整ったラーメンであると紹介しているのだ。このように、ロンリープラネットのガイドブックではユニークな表現も使われている。
電車が遅れたら、係員が謝る。
「数分の遅延でさえ、係員が謝る」。注目したいのは、強調の副詞“Even”が文頭に使われていること。日本人にとって数分の遅延は、乗り継ぎに影響するため死活問題だ。しかし、外国人にとっては“たった数分の遅延”という感覚である。このような海外から見ると不思議な日本の光景も、ロンリープラネットでは取り上げられている。
緊急オペレーターも英語を喋れない
緊急オペレーターというのは、警察や救急救命士のことである。日本でトラブルが起きた際、緊急オペレーターが英語を喋れないのはかなり不安であるようだ。日本人の英語のスピーキング能力は、2020年の東京五輪の課題になることが予想される。
同性愛に寛容な東京
驚くべきことに、東京はゲイやレズビアンに“特に寛容な場所”として紹介されている。人が多く、いちいち周りを気にすることができないことや、同性愛を罰する法律がないことから“寛容”という印象を外国人に与えたと考えられる。
サラリーマンの頭に注意
日本の電車がいかに平和なのかがわかる英文。短く訳すと「あなたの肩にサラリーマンの頭が倒れてきても、驚かないでください」。海外では、隣の人に寄りかかるくらい熟睡するような不用心な人はいないはずだ。日本に来て、いきなり隣の人が熟睡して寄りかかってきたら驚くに違いない。
ロンリープラネットで巡るTOKYO
ロンリープラネットの中でも特に行くべき観光地、として掲載されている場所の中から特にオススメの場所を5つ紹介する。
#1:大江戸温泉物語(お台場)
by Dal Lu 温泉を中心としたアミューズメント施設として紹介されている大江戸温泉。お台場の大江戸温泉は、江戸の街をモチーフとした内装になっている。形すくい・手裏剣投げ・ヨーヨー釣りといった縁日を楽しむことができるのも外国人に人気な理由の1つである。
また、館内では浴衣を着ることが可能。「温泉・浴衣・縁日」の3つを1つの施設で体験することができる、外国人にうってつけの観光施設だ。
#2:森美術館(六本木)
by かがみ~ 森美術館として掲載されているが、ロンリープラネットが力を入れて紹介しているのは「東京シティビュー」。野外展望台としては日本一高い海抜270mに位置している。変化し続ける東京を360度見渡すことができる。東京スカイツリー、東京タワーなどの外国人に人気の観光地も鑑賞可能だ。
東京シティビューの広報担当おすすめは、日没の夕刻。日が落ちて、東京タワーや東京スカイツリーが点灯する瞬間、東京の街がキラキラと輝きだす時間だ。また、天気に恵まれた場合は夕陽に照らされて赤く染まる富士山が見えることもあるので、六本木を訪れた際には足を運んでみてほしい。
#3:スクランブル交差点(渋谷)
by Ikusuki 「Shibuya Crossing」として掲載されているスクランブル交差点。交差点周辺では、スマホを片手に横断する様子を撮影する訪日外国人の姿が絶えないほど“東京の定番観光地”となっている。
ロンリープラネットでは、スクランブル交差点の景色を眼前に、「わぁ、東京に来ている!」と、実感できる場所だと紹介されている。また、ギャルとギャル男についての説明や、渋谷のスターバックスが交差点の往来を撮影するにはベストなどの撮影方法に関する情報も掲載されている。
#4:すごい煮干ラーメン凪(新宿本館)
出典:www.chefjayskitchen.com 多数あるラーメン店から、ロンリープラネットが特にオススメしているのが“すごい煮干ラーメン凪”。1杯のラーメンに国内から選りすぐった煮干しを50gも使った、贅沢で濃厚な味わいが特徴的な「すごい煮干ラーメン」が看板商品。ロンリープラネットでは、店舗の目印として店舗ロゴを「red circle」として紹介している。
#5:シンスケ(湯島)
by Kossy@FINEDAYS 湯島天神で有名な湯島にある居酒屋。ロンリープラネットでは、典型的な日本の居酒屋として紹介されている。杉のカウンター、はっぴに鉢巻をしたマスター、大吟醸……1925年創業の伝統的な日本の居酒屋である。
ロンリープラネットがオススメする一品は「キツネのラクレット」。油揚げの中にトロっと溶けたチーズを挟んだ料理。昔ながらの和食を現代風にした料理に、ロンリープラネットのライターも親しみやすさを感じているようだ。
その他の外国人向けガイドブックから見る“日本”
by KOREA.NET - Official page of the Republic of Korea ロンリープラネット以外のガイドブックでは、日本はどのように紹介されているのだろうか。その他のガイドブックに書かれている「日本での注意事項」について紹介したい。
マナーが大事
日本でのマナーとしてよく取り上げられていたのは、「箸」と「靴」である。箸の使い方のマナーとして、移し箸・刺し箸が禁止されていることが書かれている。また、日本では当たり前の「室内に入る時に靴を脱ぐ」という行為についても書かれている。
ちなみに移し箸は、お葬式で火葬した後の遺骨を拾うときに用いる使い方なのでマナー違反とされているのだ。
電車での注意事項
電車内での大声での会話、携帯電話での通話は禁止。携帯はマナーモードに設定する、といったものが注意されている。
日本では当たり前の電車内のマナーも、海外では普通ではないものが多い。また、台湾のガイドブックでは「急行」「各駅停車」「通勤快速」などの電車の速さの区分について紹介されている。
チップは不要
「日本ではチップを渡さなくていい」という注意事項もある。日本では、会計にサービス料が含まれていることから、チップが不要の文化となっている。アメリカなどの欧米諸国ではチップを払うのが常識なので、“日本のレストランでチップをテーブルに置いていったら、従業員が走ってお金を返しに来た”と、驚かれる。
以上、海外のガイドブックでの日本について紹介した。海外では日本の文化や日常が、このように見られていたのか……と驚いた読者もいるのではないだろうか。
2020年の東京五輪・パラリンピック前に、海外の人の視点で作られたガイドブックで日本人も知らない観光地を学ぶことは、開催期間中にオススメの場所を聞かれたときの予習になる。さらに、外国語の勉強にもなるので一石二鳥である。急増する訪日外国人旅行者にスマートに対応できるビジネスパーソンになるために、海外のガイドブックで勉強するのはいかがだろうか。
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