近年、ITを活用したフードデリバリーサービスの競争が各国で激化している。2016年4月には中国でeコマースサイトを運営する「Alibaba」がフードデリバリーサービスを手がける「Ele.me」に対し、9億ドルの出資をしたと報じられた。また、タイのバンコクでは「LINE」が物流最大手の「Lalamove」と提携して「LINE MAN」の提供を2016年5月に開始している。
豊富な資金を持つ大企業がこの分野に参入する今、タクシー配車サービスを展開するUberが、9月29日11時よりフードデリバリーサービス「UberEATS(ウーバーイーツ)」を日本でも開始することを発表した。9月28日に開催された発表会会場にて、実際にサービスを体験することができたので、さっそくその様子を交えて紹介しよう。
一歩先を行くアイデアを事業化するUber
もともと、Uberはスマホアプリを使ってハイヤー・タクシーを配車するサービスを世界70か国、400以上の都市で提供する企業だ。2016年5月には、タクシー事業者が撤退して交通手段に困る世帯が多い京都府京丹後市で同社のシステムを導入した「ささえ合い交通」を開始するなど、過疎や高齢化に悩む地域の活性化にも一役買っている。
また、アメリカのUber社では、自動運転トラックを使って運送業を営む「Otto」を買収し、自動運転トラックによる長距離輸送業を2017年に開始する予定だ。さらに、先日開催されたカンファレンスでUberのプロダクト責任者は「飛行機タクシーを検討中」とコメントするなど、未来を見据えたアイデアを持つ企業であることは間違いない。
UberEATSは世界7カ国33都市で展開中
9月29日11時に東京でサービスを開始する「UberEATS」は、すでにサンフランシスコやパリ、ロンドンなど世界7カ国33都市で提供している。東京は8カ国34都市目となり、スタート当初は東京都渋谷区および港区を中心としたエリアでのみ利用できる。
有名店の味をデリバリーしてもらえるのが魅力
配送エリアと同じ、渋谷、恵比寿、青山、赤坂、六本木、麻布エリアにある150以上の人気レストランから注文可能。利用できるレストランは、イタリアンの名店「ダルマット」や、モダン精進料理の「宗胡」、焼肉レストラン「焼肉トラジ」、米国発のドーナツ専門店「クリスピー・クリーム・ドーナツ」など。幅広いジャンルの飲食店が参加しており、数百円の肉じゃがから、2万円のステーキまで注文できる。
提供される料理の価格は店舗と同じで、スタート当初は配送料もUber側が負担する。他社のデリバリーサービスのように、最低料金の設定がない点はこのサービスを利用するメリットだといえる。
アプリだけで注文から決済まで完結
UberEATSは、スマホアプリ(iOS/Android)で届け先を指定し、提携レストランが提供するメニューから料理を注文するだけで、料理を受け取れるのが特徴だ。決済はUberアカウントに登録したクレジットカードで支払われるため、現金でのやり取りは一切不要。配達状況や到着予定時刻もアプリから確認できるので、届くまでの様子をリアルタイムで把握できる。
アプリのUIに感じるプレミアムな空気感
実際にアプリから料理を注文してみた実感として、他社のサービスよりも「高級感」を強く感じた。有名レストランのデリバリーを行う「ファインダイン」も高級という点では近いのかもしれないが、店舗によっては写真がいまひとつで注文する気にならないこともある。
その点、UberEATSでは同社がレストランにカメラマンを手配してメニュー用の写真を撮り下ろしているそうだ。写真のクオリティはもちろん、統一感を持たせる撮影マニュアルが用意されているのも、サービスとしての徹底ぶりが感じられる。
他のサービスとの比較という点でみれば、ポイントサービスなどの導入に今後期待したいところだ。全国1万3,000店以上の店舗を掲載する「出前館」では、Tポイントの付与や利用に対応した店舗が多い。そういった特典があれば、リピーターを獲得しやすくなるだろう。
ユーザーによる評価システムが今後の鍵に
メニューのレベルに関して言えば、できたてが味わえる店頭に比べると少し冷めてしまっていたが、味のクオリティは高い。提供するメニューは飲食店側が決めるので、デリバリーでの向き・不向きの判断は各店に委ねられる。ユーザーは注文した各メニューに関する評価をアプリ上で求められるので、そういった意見もどんどん反映されるに違いない。
新たな雇用を生む「パートナー配達員」
UberEATSでは、「パートナー配達員」と呼ばれるスタッフが配達を行う。時間に余裕がある人や、スキマ時間を使って仕事をしたい人が、パートナー配達員に登録するシステムだ。とはいえ、登録には身分証明書の確認や審査があり、“身元がきちんとした人”しか登録できない。
Uberで培ったプラットフォームを活用
サービス開始当初は1,000人のパートナー配達員が配達を行う。男女比は男性85%、女性15%。登録者は説明会の参加を経て、貸与された専用の保温・保冷バッグを使い、自転車か125cc以下の原付バイクにて配達する。
ユーザーから注文が届くと、パートナー配達員向けの専用アプリにレストランからの配達依頼と配達先の情報が届く。近くにいるパートナー配達員がレストランから料理をピックアップして配達するため、より短時間で配達を行える仕組みとなっている。配達先で近くのレストランから次の配達の依頼を受けるといったこともあるそうだ。これは、ユーザー、レストラン、パートナー配達員の三者がメリットを享受できる新たなシステムといえるだろう。
冒頭に挙げたLINEだが、日本では「LINE WOW」として2015年11月にデリバリー事業に参集したが、わずか1年足らずでサービスを終了したという苦い実例もある。そんななか登場したUberEATSが日本で生き残るには、すでに自国で同サービスを利用した経験のある訪日外国人へのアプローチや、対応エリアの拡大などは欠かせない。
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