HOMEビジネス THE世界大学ランキング2016年版 世界との比較で見えてくる、日本の大学の“今後”とは?

THE世界大学ランキング2016年版 世界との比較で見えてくる、日本の大学の“今後”とは?

Rikaco Miyazaki

2016/10/06(最終更新日:2016/10/06)


このエントリーをはてなブックマークに追加

THE世界大学ランキング2016年版 世界との比較で見えてくる、日本の大学の“今後”とは? 1番目の画像
出典:leif.ru
 英タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)が毎年発表している「THE世界大学ランキング」の2016-2017年度版が、9月21日に発表された。世界の名だたる大学がTOP10を占めている中で、日本のトップと呼ばれる“東京大学”は果たして何位にランクインしているのだろうか? 今回の記事では世界とアジアのランキングの紹介と、日本とアジアの大学の比較をしていきたい。

THE世界大学ランキングとは

 THE世界大学ランキングは、同様の大学ランキングの中でも最大規模を誇る、79か国980大学を対象に調査してランク付けしているもの。評価軸は、「教育」「研究」「論文被引用数」「産業界からの収入」「国際性」の5つ。この5つの軸を評価する“13の指標”をもとに、ランキングを作成しているのだ。

 また、タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)とはイギリスの教育専門誌のことである。世界最古の日刊新聞“タイムズ紙”の付録冊子として、毎年秋に発行している雑誌だ。

2016年版世界大学ランキングTOP10

THE世界大学ランキング2016年版 世界との比較で見えてくる、日本の大学の“今後”とは? 2番目の画像
by diliff

第10位:シカゴ大学(アメリカ)

 第10位は、アメリカ、イリノイ州シカゴにある研究型私立大学。1890年創立、在籍数は約14,500人。

 大学理念は、“Crescat scientia;vita excolatur”(知識を創出した人類の生活を啓発せよ)。設立当初から研究に重点が置かれている大学で、4学期制(クォーター制)の創始をしたことでも有名だ。

 シカゴ大学出身の有名人には、アメリカの大統領選でヒラリー・クリントン氏と競ったバーニー・サンダース氏がいる。

第10位:カリフォルニア大学バークレー校(アメリカ)

 シカゴ大学と同率で第10位、アメリカ、カリフォルニア州バークレーに本部を置く州立大学。1868年創立、在籍数は約38,200人。

 前回のランキングではTOP10外の13位だったが、3つ順位を伸ばして今回はTOP10入りを果たしている。ハーバード大学など、アメリカ東部の名門私立大学群を“アイビーリーグ”と呼称しているの対し、西部を中心とする名門公立大学の集まりである“パブリック・アイビー”と呼称しており、同大学はパブリック・アイビーの1校である。

 カリフォルニア大学出身の有名人には、ソフトバンクの社長の孫正義氏がいる。孫氏の大学時代は、「世界で一番勉強した。間違いなく世界一勉強した」と自分で言うほど勉強したというエピソードがある。

第9位:スイス連邦工科大学チューリッヒ校(スイス)

 第9位はスイス、チューリッヒにある国立の工学系単科大学。1854年創立、在籍数は約18,600人。

 同大学の特色としては、21名のノーベル賞受賞者を輩出していることだ。また、日本の東工大とは学術交流協定を締結しており、交換留学も行っている。

 スイス連邦工科大学出身の有名人には、X線の名前で有名なヴィルヘルム・レントゲン氏や、アルベルト・アインシュタイン氏がいる。

第8位:インペリアル・カレッジ・ロンドン(イギリス)

 第8位はイギリス、ロンドンに本部を置く公立研究大学。1907年創立、在籍数は約16,600人。ランクインしている大学の中でも、創立が1900年以降の珍しい大学である。

 理系専門のトップクラスの教育機関。元々はロンドン大学のカレッジの1つであったが、創立100周年を迎えた2007年に独立した。

 インペリアル・カレッジ・ロンドン出身の有名人には、ペニシリンの発見者でノーベル医学賞を受賞している医学者アレクサンダー・フレミング氏やインド元首相のラジーヴ・ガンディー氏がいる。

第7位:プリンストン大学(アメリカ)

 第7位はアメリカ、ニュージャージー州プリンストンに本部を置く私立大学。1746年創立、在籍数は約8,100人。

 物理・数学の分野で世界トップレベルの研究を行っている大学。かつては男子校で、ニュージャージー大学として設立されていたが、1896年に現在の名称となった。

 プリンストン大学出身の有名人には、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏がいる。

第6位:ハーバード大学(アメリカ)

 第6位はアメリカ、マサチューセッツ州ケンブリッジに本部を置く私立大学。1636年創立、在籍数は約21,000人。

 イギリス植民地時代に設置された、アメリカで最も歴史のある大学である。Facebookの軌跡を描いた映画「ソーシャルネットワーク」の舞台となっていることでも有名だ。

 ハーバード大学出身の有名人には、コメディアンのパックンことパトリック・ハーラン氏や、アメリカ大統領のバラク・オバマ氏。ビジネス界では、マイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツ氏や、Facebook創設者のマーク・ザッカーバーグ氏。更には、映画ブラック・スワンの主演女優ナタリー・ポートマン氏など、各界にOB、OGがいるのだ。

第5位:マサチューセッツ工科大学(アメリカ)

 第5位はアメリカ、マサチューセッツ州ケンブリッジに本部を置く私立の工科大学。1861年創立、在籍数は約11,300人。

 マサチューセッツ工科大学は、創立当初は何人かの心ないハーバード大学の学生に「職業訓練校」と揶揄されていた。その後、第二次世界大戦での国への貢献が評価され、現在ではハーバードよりもランキング上位となっている。

 マサチューセッツ工科大学出身の有名人には、米サイトが選出した「世界で最も頭のいい10人」にランクインした俳優のジェームズ・ウッズ氏がいる。

第4位:ケンブリッジ大学(イギリス)

 第4位はイギリス、ケンブリッジにある公立大学。13世紀に自然発生的に創立、在籍数は約19,900人。

 中世に創立され、オックスフォード大学に次ぐ古い歴史を持つ。創立約800年と言われている同大学は、町の人々と対立したオックスフォードの学者たちがケンブリッジに住み着き、研究・教育活動を始めたことが起源となっている。

 ケンブリッジ大学出身の有名人には、映画007の主演で有名なダニエル・クレイグの妻で女優のレイチェル・ワイズがいる。

第3位:スタンフォード大学(アメリカ)

 第3位はアメリカ、カリフォルニア州スランフォードに本部を置く私立大学。1891年創立、在籍数は16,100人。

 特色としては、キャンパスの広さが挙げられる。全米屈指と呼ばれる広大なキャンパスの敷地には、80,000人収容できるスタジアムやゴルフコースなどが整っている。

 スタンフォード大学出身の有名人には、元首相の鳩山由紀夫氏がいる。

第2位:カリフォルニア工科大学(アメリカ)

 第2位はアメリカ、カリフォルニア州ロサンゼルスに本部を置く私立の工科大学。1891年創立、在籍数は約2,300人。昨年ランキングでは1位だったが、順位を1つ落とす結果となった。

 学部生約900人に対し教授が300人と、少数精鋭の授業を行うことで理系のエリートを育成することを目指している。教授1人あたりの特許数が全米1位の大学である。

 カリフォルニア工科大学出身の有名人には、マーク・ザッカーバーグ氏の高校時代の友人でFacebookの元CTO(最高技術責任者)アダム・ダンジェロ氏がいる。

第1位:オックスフォード大学(イギリス)

 第1位はイギリス、オックスフォードにある公立大学。創立は12世紀に基礎が築かれたと言われている。在籍数は約22,300人。

 英語圏では最古の大学で、現存する大学としては3番目に古い。寄宿制の学寮と指導教師による個人指導が特色の大学である。最大規模のクライストチャーチ・カレッジは、映画「ハリーポッター」の撮影で使用された。

 オックスフォード大学出身の有名人には、ナルニア国物語の著者のC・S・ルイス氏や元イギリス首相のマーガレット・サッチャー氏、皇太子妃雅子さまがいる。

アジアの大学TOP5

THE世界大学ランキング2016年版 世界との比較で見えてくる、日本の大学の“今後”とは? 3番目の画像
出典:www.kcl.ac.uk

第5位:清華(チンホワ)大学(中国)

 第5位は中国、北京市海淀区にある副部級大学。副部級大学とは、中央政府によって直接支配される大学である。1911年創立、在籍数は学部生が約15,000人。

 清華大学は、キャンパスの美しさが特色の1つである。米経済誌「フォーブス」が2010年3月に発表した“最も美しい大学キャンパスランキング”で、唯一アジアからランクインしている。

 清華大学出身の有名人には、習近平氏や胡錦濤氏といった著名な政治家がいる。

第4位:香港大学(香港)

 第4位は香港、薄扶林に本部を置く香港の公立大学。1911年創立、在籍数は約27,400人。

 香港で最も歴史のある大学。授業がすべて英語で行われていて、講義以外にもディベートをする授業もあるなど、アメリカの大学の授業スタイルを取り入れている。

 香港大学出身の有名人には、辛亥革命を起こした孫文がいる。(孫文が学んでいたのは、香港大学の前身である香港西医書院)

第3位:北京大学(中国)

 第3位は中国、北京市海淀区にある国立大学。1898年創立、在籍数は約32,700人。

 北京大学は、理学・社会人文学に重点を置いている。留学生は、80以上もの国から集まっており、約4,000名いる。

 北京大学出身の有名人には、世界銀行のチーフエコノミストに任命された林毅夫さんがいる。

第2位:南洋(ナンヤン)理工大学(シンガポール)

 第2位はシンガポール、南洋にある国立大学。1991年創立、在籍人数は約32,700人。

 南洋理工大学の昨年順位は、第10位。ランクが大きく変わった原因として、“論文被引用数”の比重が変わったことが考えられる。また、敷地面積が工科系大学として最大級の規模である。
 
 南洋理工大学出身の有名人には、2007年の東南アジア諸国連合結成40周年歌「Rise」を歌った孫燕姿がいる。

第1位:シンガポール国立大学(シンガポール)

 第1位はシンガポール、ケントリッジと呼ばれる丘の一帯にある国立大学。1905年創立、在籍人数は約37,970人。

 シンガポール国立大学に留学する学生の半分は、奨学金を借りている。海外の奨学金は、日本のような借金型のものではなく無償の給付型であるので驚きだ。そのため、シンガポール以外のアジア諸国から留学する学生が多数である。

 シンガポール国立大学の有名人には、シンガポール初代首相リー・クアンユーがいる。

かつてのアジアNo.1“東京大学”

THE世界大学ランキング2016年版 世界との比較で見えてくる、日本の大学の“今後”とは? 4番目の画像
by michaelvito
 昨年まで3年連続1位を維持していた東京大学だが、今回のランキングでは第7位という順位になっている。順位を大きく下げた要因は2つあると考えられる。

 1つ目は、学生と教員の国際性の低さである。THEの世界大学ランキングの調査軸の1つである「国際性」は、シンガポール国立大学と60ポイント以上の差をつけられている。シンガポール国立大学は、先述したように留学生に対して魅力的な奨学金制度を設けており、海外の優秀な学生を積極的に集めている。一方で東京大学は、日本人が日本で活躍するための場でしかないのが現状である。

 2つ目は、THEの世界大学ランキングの評価方法が変化したことが挙げられる。2016年に発表されたランキングでの「論文被引用率」について、英語での引用の測定方法を緩和している。東京大学の論文は日本語で書かれているものが多いので、英語での引用が弱くなることは十分に考えられる。ランキングの評価方法が、英語圏に有利になっていることは否めないのだ。

めざましい進歩を遂げるアジアの大学

THE世界大学ランキング2016年版 世界との比較で見えてくる、日本の大学の“今後”とは? 5番目の画像
by zilverbat.
 ランキングの評価方法が英語圏に有利になっている可能性を示唆したが、アジアの大学が国際性、教育、引用などの面で成長しているのは事実である。アジアの大学は、THEの世界大学ランキングの評価基準に則った“大学づくり”を行っている。

 例えば、アジアで第1位のシンガポール国立大学では、国際性を上げるために学生と教授の外国人の割合を増やす努力を行っている。「合格後、1カ月以内に入学を決めれば10万円」という囲い込みや、華僑ネットワークを生かした外部からの資金調達による奨学金制度。また、教授の出身国はシンガポール、日本、オーストラリア、インド、タイ、スリランカ、中国、オランダ、韓国と、国際性の豊かさが窺える。

 シンガポール国立大学の国際性は、学生の出身国にも表れている。なんと北朝鮮の学生が“2人”在籍している。この2人は、どちらとも政府の職員。同大学の教授が北朝鮮まで赴き、面接して選ぶ……日本の大学では考えられない力の入れようである。


 以上、THE世界大学ランキングとアジアの大学ランキングを紹介した。東京大学がアジア首位陥落した原因には、「大学のビジネス戦略」が関わっていた。世界大学ランキングで評価され、順位を上げることを“利益”と考えている大学はアジアを中心に年々増加している。シンガポールや香港といった英語圏の大学では、総長のトップダウンによってスピーディーな改革が行わているのだ。

 日本の大学も“順位を上げること”に特化するのであれば、国際性の改革は必要不可欠である。しかし、フランスやドイツなどのノーベル賞受賞者を多く輩出している大学もTOP10にランクインしていないことから、固有の言語が根強く残る国がランキング上位になることが難しいことがわかる。東京大学をはじめとする日本の大学は、自らの大学の“価値”をどこに置くかを十分に考えた上で、改革を進める必要性があるのだ。

hatenaはてブ


この記事の関連キーワード