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一躍ヒーローになった人物の光と影:巨匠監督による究極の “仕事映画”『ハドソン川の奇跡』

U-NOTE編集部

2016/09/23(最終更新日:2016/09/23)


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一躍ヒーローになった人物の光と影:巨匠監督による究極の “仕事映画”『ハドソン川の奇跡』 1番目の画像
 86歳にして現役で活躍するハリウッドの巨匠と言えば、クリント・イーストウッド。イーストウッド監督が『アメリカン・スナイパー』の次に描く最新作が今週末公開となる。それが、2009年1月にニューヨークで起きた旅客機の不時着事故を基にした映画『ハドソン川の奇跡』。すべてのビジネスマンは観た方がいい、いや観るべき、究極の“仕事映画”だ。
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 これまで42年間パイロットとして真面目に勤め上げ、定年退職まであと数年というある日、離陸直後850メートル上空で起きたエンジン停止のアクシデント。このままでは旅客機もろともニューヨーク市内に落下して多くの犠牲者を出してしまう。その危機に直面した機長に与えられた時間は、わずか208秒。その間にできる限りの情報を収集して状況とリスクを把握し、「すぐに飛行場に引き返せ」という管制塔の指示から離れて、唯一の生還手段としてハドソン川への不時着水を決断。機体をほとんど損傷させずに胴体着陸させるという高度な脱出劇を実際にやってのけたのが、チェスリー・“サリー”・サレンバーガー機長だ。

 真冬のニューヨークの外気はマイナス6℃という過酷な状況下ではあったものの、乗員・乗客155名は全員無事救出。機長は奇跡を成し遂げた英雄として、一躍時の人となり、メディアでも大々的に報道され讃えられた。

知られざる事実の裏側と機長が直面したもうひとつの試練

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 ここまでが多くの人が報道で見聞きした事実だろう。けれど実際のところ、機長にとっての本当の“危機”はここからが始まりだった。機長の偉業に脚光が当たった裏側では、彼の判断と処置は正しかったのか、国家運輸安全委員会による厳しい容疑と追及が始まっていた。飲酒していなかったか、家庭は円満だったのか(!)、その時本当にエンジンは両方とも停止していたのかーー。
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 今までも、ヒーローとして讃えられた人物の“光と影”の両側に迫るドラマを描いてきたイーストウッド監督だけに、本作でも、事故後に機長が直面した「新たな闘い」を緊迫感溢れるタッチでひとつずつ解明していく。ぞっとするのは、機長が突きつけられた心理的な“二次災害”だけでなく、これだけ情報が溢れる中で、わたしたちはいかにニュースを表面だけしか知らないか、改めて痛感させられることだ。

仕事が「労働」になった時代と職業人の責務、顧客の安全の行方

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 もうすでに結末がわかっている事件なのに、最後まで目を離すことができないのは、映画の原題でもある機長“サリー”ことサレンバーガー機長が、ごく普通のまっとうな職業人であること、そして彼が直面した危機は誰に起こっても不思議がないからで、デジタル時代のリスクマネージメントについても考えさせるからだ。その上で、不可能を可能にするような起死回生の「奇跡」は、どうやって起きたのか? ニュースでは充分に報道されなかった、胸が熱くなるエンディングをぜひ目撃してほしい。仕事が「労働」になってしまった時代に、プロフェッショナルとは何か、真のリーダーとは何者なのかを考えさせるラスト。それは、イーストウッド監督が撮り続けてきたヒーロー像そのものなのだと思う。

 そして映画を観に行く前に、舞台になったニューヨーク市街で起きた9・11の悲劇や、航空業界の熾烈な競争によって、ブラック化するパイロットの仕事事情などの背景やサイドストーリーを頭に入れておくと、恐怖と感動が2倍になることは間違いない。

 事故後にサレンバーガー機長はパイロットとしては現役を退いたが、航空業界の実態に警鐘を鳴らし、米議会で「過重労働を強いられるパイロットの年収が200万円では安全性を確保できない」と告発している。本作では冒頭で若干触れられるのみなので、詳しくはサレンバーガー機長も登場する映画『キャピタリズム~マネーは踊る~』(2009年、マイケル・ムーア監督)をおすすめしたい。


9月24日(土)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー他全国ロードショー
【監督】クリント・イーストウッド
【脚本】トッド・コマーニキ
【原作】チェスリー・“サリー”・サレンバーガー
【出演】トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー
【配給】ワーナー・ブラザース映画
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