毎朝、電車で通勤するビジネスパーソン。始業の30分前に会社に着くようにしている人でも、突然の運転見合わせに頭を悩まされている人も多いはずだ。運転見合わせの原因の中でも厄介なのが「人身事故」。今回は、人身事故が起きる背景と日本の鉄道会社の人身事故事情について紹介したい。
自殺者が急増する“ブルーマンデー”
出典:www8.cao.go.jp 土日が終わり、また月曜日から仕事が始まる現実に直面して憂鬱になる“ブルーマンデー”。月曜日から勤務が始まる人に起こる症状だ。
“ブルーマンデー”という言葉は、曜日別の自殺者数にも反映されている。最も自殺者が少ない土曜日の平均61.8人に対して、月曜日は平均84.6人。月曜日の自殺者数は、土曜日の1.4倍なのだ。
さらに、最も自殺の発生件数が多い時間帯は5時、6時、12時。男性だけで見ると、5時・6時の平均数は5.8人。通勤時間帯であることから、人身事故に関連しているといえるだろう。
また、月別の自殺者数では3月~5月にかけて増加傾向にある。勤務問題での自殺者数が最も多いのは、5月。自殺者の数が5月に多い理由は、異動などによる生活の変化が背景にあると考えられる。
人身事故が多い駅・路線TOP3
by takeshisz 日本の人身事故事情について、人身事故の件数が多い駅と路線から暴いていこう。まずは、人身事故の発生件数TOP3の駅から見ていきたい。(2010年01月以降に発生した鉄道人身事故の件数でのランキング)
人身事故が多い駅 第3位:西八王子駅
第3位は、JR東日本の中央本線が通る西八王子駅だ。2010年以降のデータでは30件の人身事故が発生している。乗車人数が3万1千人の同駅は、乗車人数と事故の件数を比較してみると、自殺件数が突出して多いことがわかる。
人身事故が多い駅 第2位:新宿駅
第2位は、1日平均約75万人(14年度)が乗車する新宿駅だ。発生件数は33件。西八王子駅よりも事故件数は多いが、割合的に換算すると西八王子駅のほうが高い。
人身事故が多い駅 第1位:新小岩駅
第1位は、「自殺の名所」と悪名高い新小岩駅だ。発生件数は37件。総武線の快速と各駅停車が乗り入れている。乗車人数は7万2千人で、自殺の名所と呼ばれている同駅だが、西八王子駅のほうが人身事故の割合が高い結果となった。
次に、鉄道自殺者数が多い路線を見ていきたい。こちらも上位3路線を紹介する。(2005~2014年の10年間での発生件数でのランキング)
鉄道自殺者数が多い路線 第3位:東武東上線
第3位は、私鉄トップの人身事故の多さの東武東上線。過去10年間の自殺件数は、185件。利用者1人あたりの死亡率を計算すると、東武東上線がトップだ。毎月2人ペースで人身事故が起きているのは、東上線と中央線の2路線のみ。
東上線の鉄道自殺者数は、2009年以前は年間6件程度。自殺する人が極めて少ない路線だった。東上線の自殺者数が増加した理由としては、沿線住宅の増加が挙げられる。また、全線にわたって地下も高架もなく、踏切が多いことが挙げられる。東上線はホームドアを設置したものの、駅間の事故を減らすことができないため、東武鉄道も頭を抱えている。
鉄道自殺者数が多い路線 第2位:常磐線
第2位は、上野から茨城県をつなぐ常磐線。自殺件数は195件。常磐線の自殺者数が多い理由として考えられるのは、距離の長さだ。常磐線の上野~岩沼駅間の距離は約300㎞に対し、東武東上線の池袋~寄居間の距離は75㎞。比較すると、距離が格段に違うことがわかる。
鉄道自殺者数が多い路線 第1位:中央線
第1位は、人身事故が多い駅の第3位にランクインしていた西八王子駅にも乗り入れているJR中央線だ。自殺件数は253件。
中央線に自殺者数が多いのは、八王子エリアで人身事故が多発しているからである。西八王子駅で39件、八王子駅で30件。同じ中央線でも豊田駅は10件、高尾駅は11件であることから、中央線の中でも特に八王子エリアに自殺者が集中していることがわかる。
人身事故による賠償金問題
by Japanexperterna.se 人身事故による“賠償金”の話は、噂程度に聞いたことがあるのではないだろうか。朝夕のラッシュ時に飛び込み自殺をすると、損害額が億を超えるケースもあると言われている。実際にあったケースはこちらだ。
認知症の男性が電車にはねられ死亡。遺族に720万円の賠償命令
事故が起きたのは、2007年12月7日の夕方。91歳の認知症男性はJR東海道線・共和駅で線路内に立ち入り、快速電車にはねられて死亡。男性は、常に介護が必要とされるレベルの認知症だったことから、JR東海は安全対策が不十分として妻と長男を提訴した。
妻は当時85歳で、長男は別居中。介護ヘルパーに依頼しても、24時間見てもらえるわけではない――。これらのことから、世間では「遺族には酷な判決」だという意見が噴出した。
これに対してJR東海側は、下記のように説明している。
720万円という金額については、男性が線路に立ち入った時間帯が影響している。夕方のラッシュアワー時、上下線で20本が最大2時間遅れ、34本が運休、乗客の代替輸送の手配などの要素が、高額賠償につながったのだ。今回のケースでは最終的にJR東海側の逆転敗訴が確定しているが、認知症の高齢者による死亡事故は後を絶たない。
そのような現状をうけて、解決しない鉄道人身事故による鉄道会社の損失を補償する保険商品が今月初めて登場した。
人身事故の損失に最大10億円の補償をする同保険によって、鉄道会社と遺族との裁判トラブルがなくなることが期待されている。
新小岩駅はなぜ「自殺の名所」となってしまったのか?
by Hiroyuki Tsuruno 人身事故が多い駅の第1位、新小岩駅。何故そこまで人身事故が多発するのか? その実態を追及していきたい。
新小岩駅で人身事故の件数が急増したのは、2011年7月。原因は株・FXなどの投資に失敗し、財産を失った人々がネット上に残した書き込みだと言われている。
新小岩駅の特徴としては、ホームの横スレスレを成田エクスプレスが時速120㎞で通過することが挙げられる。飛び込み事故が多発しているのも、成田エクスプレスが通過する3,4番線ホームだ。新小岩駅では直線が続くため、成田エクスプレスのスピードが他の駅より出やすい環境になっている。
新小岩駅では、青木ヶ原樹海や東尋坊、華厳の滝などと並ぶ「自殺の名所」という汚名を返上しようと必死に自殺対策を行っている。天井に青色の光がさすように半透明の素材を使い、精神安定の効果のある鈴虫の声を流し、ヒーリング映像を流し、警備員を配置・巡回させるなど……様々な努力を尽くしている。
自殺を誘発する“音”とは?
by sabamiso 踏切の「カンカンカン」という警報音。この音の繰り返しが早い踏切では、1分間に130回鳴る仕様になっているそうだ。130回という数字は、人が走ったり興奮したりしている時の心拍数と合致しているため、そこから催眠効果が生じるのである。
さらに、単純な音の繰り返しを聞くことで思い詰めている人は「音の中に引きずりこまれそうになる」可能性もあると示唆されている。
日本の音響研究所の鈴木創氏の調査結果によると、自殺が多発する踏切は単一周波数、単純音で早い警報音の踏切であった。自殺が多発した踏切では、鉄道会社によって警報音を変えている場所もあることから、音と自殺の関連性は否定できない。
以上、日本の人身事故事情について紹介した。今回の記事で、人身事故は鉄道会社や鉄道を利用している人だけでなく、大切な家族にまで迷惑をかけてしまうことがお分かりいただけたはずだ。人身事故だけでなく、2020年の東京オリンピックで日本を訪れる外国人のためにも、鉄道会社にはホームドアの設置や高架工事などの対策を早急に講じてほしいと切に願う。
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