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「重国籍」と「無国籍」:蓮舫議員のケースから紐解く“国際法の問題点”

Saki Shinoda

2016/09/15(最終更新日:2016/09/15)


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by 樂活高縣
 民進党代表代行の蓮舫氏が、台湾と日本の二つの国籍を持つ「重国籍」ではないかという疑惑が広がっている。蓮舫氏は今月6日、台湾籍が残っている可能性があるとして、台湾籍を放棄する書類を台北駐日経済文化代表処に提出した。蓮舫氏は日本と台湾のハーフとして知られているが、そこにはどのような問題が介在するのであろうか。

国籍における「血統主義」と「出生地主義」

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by Internet Archive Book Images
 国籍取得の際には、「血統主義」と「出生地主義」と呼ばれる二つの異なる方式がそれぞれの国によって適用されている。

国籍における「血統主義」

 血統主義とは、国籍取得において親のどちらかの国籍を子の国籍とする方式だ。血統主義の中にも、両親のどちらかの国籍を子が選択できる「父母両系血統主義」や、父親の国籍が無条件で与えられる「父系優先血統主義」などが存在する。日本は、父と母のどちらかの国籍を選択することができる父母両系血統主義だ。

 他に父母両系血統主義をとっている国は、イタリア、オーストリア、タイ、中国、韓国などがある。また父系優先血統主義はアラブ首長国連邦、アルジェリア、イラク、イラン、インドネシアなどで採用されている。

国籍における「出生地主義」

 両親の国籍に関係なく、子が出生した国の国籍を与えるのが出生地主義である。かつて植民地であった国の独立や、フランス革命によって広まっていった方式だ。アメリカ合衆国、カナダ、ブラジル、アイルランドなどで出生地主義が採られている。

重国籍となるケース

 これらの血統主義と出生地主義の兼ね合いにより、子が重国籍となるケースは多く存在する。例えば、日本人(血統主義)の両親を持つ子がアメリカ(出生地主義)で生まれた場合、子は日本国籍を与えられるだけでなく、アメリカ国籍も自動的に与えられるため、重国籍の状態となる。

 日本の国籍法では、20歳になるまでに重国籍となった場合、22歳になるまでにどちらかの国籍を選択するよう定められている。日本国籍を選択し外国籍を放棄する場合、区役所や市役所に国籍選択届を提出する必要がある。

 しかし、国籍選択届はあくまで日本の戸籍のみに反映されるものであるため、外国籍を放棄する別の手続きが必要とされている。この国籍放棄の手続きが完了するまで、その人は重国籍の状態のままとなるのだ。日本において、選択肢しなかった国籍の放棄手続は努力義務となっており、「重国籍状態を放置すること」が即刻違法とされる訳ではない。

蓮舫氏の重国籍問題

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by JanneM
 それでは、再び蓮舫氏の重国籍疑惑のケースを見てみよう。

日本の旧国籍法における「父系血統主義」

 蓮舫議員は1967年、台湾人の父と日本人の母の長女として、東京都で生まれた。台湾が父母両系血統主義であるのに対し、旧国籍法であった当時の日本は父系血統主義が採られていた。そのため蓮舫氏は、父方である台湾の国籍を持つこととなる。

国籍法改正と国籍選択

 国籍法が1984年に改正され、日本が父母両系血統主義になることで、蓮舫氏は日本国籍を選択できる状態となった。翌85年、当時17歳の蓮舫氏は日本国籍を取得。その後父と台北駐日経済文化代表処(大使館に相当)を訪れ、台湾国籍(便宜上は中国国籍)を放棄する手続きを行っている。

 しかし、台湾語の窓口で蓮舫氏の父が手続きを行ったため、蓮舫氏本人は「きちんと手続きが完了したのか分からない」状態であるという。台湾の国籍法において、自ら国籍放棄の手続きを行えるのは満20歳以上と定められている。そのため、17歳の時点で国籍選択を行った蓮舫氏は、現在も重国籍である可能性がある。今年8月末、この点を一部メディアが指摘したことにより、今回の疑惑が浮上した。

 蓮舫氏はこの疑惑を受け、台湾に国籍の照会を求めた。しかし確認に時間がかかることから、照会結果を待たず、今月6日に台湾籍を放棄する届け出を台北駐日経済文化代表処に提出することとなった。

国際法と国籍問題の現状

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by jaci XIII
 重国籍である場合、納税や兵役の義務が複数の国家で生じるうえ、どの国家で外交的保護を受けるべきかが曖昧になってしまう。そのため、国際法では「国籍単一の原則」が提唱されており、人は必ず一つの国籍を持つべきだとしている。

 しかし現在、日本を含め世界各地で多くの重国籍者が存在しているのが実情だ。他方、様々な事情によってどの国の国籍も取得できず、国家からの保護を受けられない無国籍者も多く存在する。この状況を引き起こしている原因として、国籍に関するいくつかの問題点があげられる。

問題点1:重国籍者に対する国籍放棄手続きの周知不足

 上述のアメリカ重国籍者や蓮舫氏のように、選択しなかった国の国籍放棄手続きが完了していないために重国籍となるケースが多く見られる。国籍に関する国家間の連係は行われていない場合がほとんどなため、重国籍の当事者が国籍選択・放棄の2つの手続きを行うように徹底すべきだろう。

 ところが、日本では区役所や市役所で国籍選択届を提出した人の多くが、外国籍放棄の手続きの存在を知らないのが実情である。国民が重国籍となるのを回避するため、各国は手続きの詳細に関して、当事者たちに詳しく周知する必要があると考えられる。

問題点2:国籍管理の不透明さ

 多重国籍であった人が、国籍を選択した国で国籍を確認したい場合、本籍地で戸籍謄本を照会することで可能となる。しかし選択しなかった国の場合、例えばアメリカでは、大使館に連絡を取っても国籍放棄が完了できたのか確認することができない。また蓮舫氏のように、国籍照会に多大な時間を要するケースもある。

 各国家によって国籍の管理のシステムが異なるうえ、簡単に照会を行うことができない状況が、重国籍問題を解決する際の障害になっていると言える。

問題点3:それぞれの無国籍者への柔軟なシステム不足

 アメリカは出生地主義をとっているが、アメリカ人夫婦が血統主義の国で子を生んだ場合でも、子はアメリカ国籍を取得できる。「両親いずれかがアメリカ居住経験をもつ」という条件付きで、国外の出産であっても国籍付与を例外的に認めているのだ。これにより、無国籍者の発生が防がれている。

 しかし、国家間の国籍法の矛盾や帰化の不認定、亡命などの様々な理由によって国籍を持たない無国籍者は、日本国内だけでも数万人存在すると言われている。アメリカのようにそれぞれの無国籍者のケースに合わせて、法や制度をフレキシブルに対応していく必要があるだろう。


 国籍問題は複雑であるがために、当事者であっても、自分の国籍の状態を把握することが難しい。しかし国際法で「国籍単一の原則」が提唱されている通り、当事者の権利や安全を守るためにも「一つの国籍を持つ」ことは重要だ。蓮舫氏の処遇については議論の渦中だが、今回の報道をきっかけとして、重国籍・無国籍問題の解決に向けた動きが広まることに期待したい。

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