8月30日、オンワードホールディングスは東京の銀座三丁目に保有する土地308平方メートルを譲渡したと発表。110億円で取得した銀座の一等地は、何故手放されることになってしまったのか……。今回は、ニュースの裏側にあるオンワードホールディングス(以下オンワード)の“意図”を紐解いていきたい。また、会社にとって“土地を持つこと”にはどんな役割があるのかを考えていこう。
オンワードの土地売却
ここでオンワードの“土地売却”のニュースついて、改めて整理したい。
売却された土地は、銀座の並木通りの角地に面した一等地。オンワードは当初、店舗を出店する予定であった。
ニュースの中で公表されている売却した理由は、「資産の効率化および財務体質の向上」。譲渡価格は135億円。ここから帳簿価格114億円と諸経費を控除した“約20億円”が、固定資産売却益として計上される予定となっている。
オンワードの“意図”とは
by ed_needs_a_bicycle 表向きでは「資産の効率化および財務体質の向上」が売却の理由となっているが、オンワードの本当の目的・意図は一体どこにあるのか。
オンワードの2016年2月期の営業利益は、前期比65.9%の37憶7800万円であった。営業利益が前期比7割を切った原因は、三つある。
まず一つ目に、百貨店の衣料品販売の苦戦が挙げられる。オンワードの店舗が置かれている百貨店の市場は、年々縮小している。縮小傾向にある百貨店での売上が見込めないのは、明白だ。
二つ目に、円安によるコスト上昇が挙げられる。オンワードの輸入している衣料品の原料が、円高によって価格が上昇。一着あたりの粗利益率が悪化し、収益を圧迫する結果となった。
三つ目に、イタリアにある欧州法人オンワードラグジュアリーグループの減損損失が挙げられている。イタリア経済は、2015年初頭から3年に及んだ景気後退から脱却。しかし、依然として成長率が低迷していることが減損の背景となっているのだ。
今に始まったわけではない? オンワードの「土地売却」
営業利益が不調であると先述したが、2016年2月期の純利益では同社比101.8%と微増している。
微増の理由は、「土地売却」だ。投資有価証券の売却だけでなく、物流子会社が保有していた土地・建物を売却することで特別利益160億円を捻出する結果となった。つまり、オンワードホールディングスは銀座以前から土地売却に積極的であったのだ。
ファッション業界の現状から見えるオンワードの戦略
ファッション業界は、業界規模としては拡大を続けている。しかし、その市場を席捲しているのは、ファーストリテイリング率いる“ユニクロ”や、埼玉県さいたま市に本社を構える“しまむら”といったファストファッションだ。
アベノミクスの影響による消費マインドの持ち直しを期待し、ユニクロは商品の値上げに踏み切った。しかし、週末セールを行わないことで結果的に“客離れ”を引き起こしてしまったのだ。ファッション業界の市場を引っ張ていたユニクロの顧客でさえも、値上げにはついてこれなかった――この事実から、ファッション業界が快晴であるとは明言できない。
また、『フランス人は10着しか服を持たない』(ジェニファー・L・スコット著)が売上60万部を突破したことから、“必要以上に服を買わない”というエコ思想が世間に広がっていることがわかる。
以上のことから勘案しても、ファッション業界の先行きは不透明である。オンワードホールディングスは、会社の行く末を考えて、地価が高いときに「土地売却」を行っていると考えられるのだ。
日本の地価公示価格が高いエリアTOP3
by peter.lubeck オンワードホールディングスが売却した土地は、銀座の中でも「一等地」と呼ばれる場所にあった。そこで本記事では国土交通省が毎年実施している地価調査を元に、地価が高いエリア上位3つを紹介したい。
第3位:「丸の内2-4-1」 約3,280万円/平方メートル
by wallyg 第3位は、“丸ビル”の愛称でお馴染みの「丸の内ビルディング」が建つ土地。
かつて“黄昏の街”と揶揄されるほどに物寂しい街だった丸の内は、三菱グループによる再開発で活気を取り戻した。再開発のスタート時に建てられた「丸の内ビルディング」は、丸の内再起のシンボルといえる。
丸の内ビルディングに入居している企業は合計5社で、いずれもIT企業である。その内の一社「Linked In」は、世界最大級のビジネス特化型SNSを提供している企業。同社は2016年6月13日に、Microsoftが約2兆8000億円で買収したことで話題となった。
丸の内のオフィス街の特徴を一言で表すと「グローバル」。丸の内の街の構想では、ブランドコンセプトを「世界で最もインタラクションが活発な街」に設定している。丸の内が、グローバル企業の誘致に積極的なことがうかがえる。
第2位:「銀座5-3-1」 約3,470万円/平方メートル
出典:www.flickr.com 第2位は、数奇屋橋交差点の一角に位置する「銀座ソニービル」が建つ土地。
ソニーの製品が展示されているショールーム、レストラン、ショップ、イベントスペースなどが入っている同ビル。実は、2017年3月に解体が予定されているのだ。解体後は、「銀座ソニーパークプロジェクト」が進められる。
「銀座ソニーパークプロジェクト」の概要について紹介したい。同プロジェクトは、ソニービル開業50周年を迎えた2016年から、7年がかりで大規模リニューアルを進めていく。コンセプトは「街に対して開かれた施設」。2018年から2020年の間は、東京五輪を想定し、地上部分を公共性の高いフラットな空間を提供。2022年完成予定の新ソニービルでも、パークの考え方を継承した施設へしていく方針だ。
第1位:「銀座4-5-6」 約4,010万円/平方メートル
by shadu_b 第1位は、三越銀座の向かいに位置する「山野楽器銀座本店」が建つ土地。
山野楽器銀座本店の土地は、商業地全国1位の地価公示価格を10年連続で維持している。
創業1892年の株式会社山野楽器。楽器・CD・DVDを販売しているチェーンストアで、かつてはギブソン社の代理店契約をしていた創業100年を超える老舗企業である。日本で最も価値の高い土地では、有名アーティストのサイン色紙が当たる抽選会や有名な演奏家のミニコンサートなどが行われているのだ。
以上、オンワードの土地売却の意図と、そんな銀座を中心とする日本の地価が高いエリアについて紹介した。
企業が不動産を選ぶ際には、“土地のブランド”が重要視される。NHKの連続テレビ小説「とと姉ちゃん」の主人公の常子は、「あなたの暮らし出版」のオフィスを銀座に構えた。常子と共に会社を興した敏腕編集長、花山伊佐治が「銀座にオフィスがあるだけで、仕事がやりやすくなる」と助言したことから奮発することを決意。実際に、「銀座にオフィスを構える出版社だから、話を聞いてみた」という登場人物も存在した。
ドラマの例からわかるように、企業の不動産がある場所から会社の価値を値踏みすることもあるのだ。株主たちが、株を購入する際の判断基準の一つとしている可能性もある。だからこそ、オンワードが銀座の一等地を手放したということが、大きな意味を包含していることをおわかりいただけただろう。企業にとっての不動産の意義は、“保有する土地の地価=ブランディング”という構図なのだ。
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