日本人が拾った財布を警察に届けたり、列を守ったりすることを、海外から称賛されているのを聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。
これらの規律を守った行動の裏側には日本人の「恥の文化」にあります。本記事では、日本独自の文化である「恥の文化」と諸外国の「罪の文化」を比較しながら紹介していきます。
- 「罪の文化」と「恥の文化」とは?
- 日本と欧米で比較したときに現れる「罪」と「恥」の意識の違いとは?
- 「恥の文化」が魅せる日本の評価
「罪の文化」と「恥の文化」とは?
日本人の特徴として、思いやりがある、礼儀が正しい、など「正直な精神を持っている」という清廉なイメージがあると思っている人も多いでしょう。
しかし、これらは時として異なる印象を与えてしまうことがあります。
実際に海外の人々からみた日本人は、自己表現が消極的、人目を気にしすぎている、謙遜さがかえって自虐的に見えるなどのマイナスイメージがあります。
では、このような日本人の性質は一体どこから来たものなのでしょうか。日本文化と西洋文化(欧米)を比較して、日本人に根付いた価値観について探っていきましょう。
アメリカの文化人類学者であるルース・ベネディクトが著書である『菊と刀』には、日本人の国民性を研究したものが記されています。
その中で彼女は、欧米では内面の良心を重視する(=罪の文化)のに対し、日本は世間体や外聞といった他人の視線を気にする(=恥の文化)と考察しました。
両者の違いは、行為に対する規範的規制の源が、内なる自己(良心)にあるか、自己の外側(世間)にあるかに基づいています。
欧米の「罪の文化」・日本の「恥の文化」
- 【欧米】「罪の文化」:欧米では内面の良心を重視する文化
- 【日本】「恥の文化」:世間体や外聞といった他人の視線を気にする文化
神に見られている—キリスト教から生まれた「罪の文化」
では、欧米ではなぜ内面の良心を重視する「罪の文化」が発展したのでしょうか。
欧米はキリスト教文明であり、行動の規範に宗教の戒律が存在することに所以があります。
彼らの心には常に神が存在しており、神に見られているという絶対的な規範の中で行動をしている。
キリスト教の教えによると、神の戒律を守れば、心は清澄に保たれ一点の曇りもない状態になり、それに反したときに強い罪の意識を持つといわれています。
つまり、彼らの心には常に神が存在しており、神に見られているという絶対的な規範の中で行動をしています。このことが罪の意識に繋がっている(神との約束を破ることが「罪」)というわけです。
このことをベネディクトは「罪の文化」と呼んでいます。
人に見られている—世間から生まれた「恥の文化」
一方、日本は多神教であり、神や仏の意識はそれほど強くありません。そのため、人々の評価の矛先は世間の目に向かっていきます。
「他人に笑われたくない」「恥をかきたくない」といった気持ちが、日本人の行動を規定しています。
正しいかどうかで行動を決めるのではなく、世間がそれをどう思うかで自分の行動を決めているとし、ベネディクトはこれを「恥の文化」と分析しました。
日本と欧米で比較したときに現れる「罪」と「恥」の意識の違いとは?
また、欧米と日本を「仕事」「コミュニケーション」「マナー」などのカテゴリに分けて比較してみると、「罪」と「恥」の意識の違いが顕著に現れます。
以下では、それぞれの文化がどのような意識の違いで現れるのかを紹介していきます。
仕事・キャリアにおける「罪」と「恥」の違い
日本の場合、大学卒業後は企業に勤める流れが強くあります。
一方で、欧米では比較的柔軟で、自分にあった生き方を見つけるために旅行をしたり、インターンをしながらいくつかの仕事を掛け持ちしたり、気軽に海外を行きする仕事に就いたりとフットワークが軽い傾向があります。
日々転々としている彼らは、堅実で実直な日本人からすると「きちんとした仕事に就かなくて恥ずかしくないの?」と思われるかもしれませんが、実際は誰かが決めた暗黙の了解に従うことなく、自分に合ったライフスタイルを貫いているだけなのです。
また、起業家が尊敬される欧米に対し、日本では人気企業ランキングのトップの安定した会社に勤めている人に注目がいくという違いもあります。
人とのコミュニケーションにおける「罪」と「恥」の違い
人とのコミュニケーショにおいては、欧米では「自分が迷惑をかける分、相手の迷惑にも許容範囲を広く持つ」という「お互いさま」の論理をもちます。
対して日本は、「人に迷惑をかけてはいけない」から「何もしないほうが良い」という考えに至りやすい傾向にあるでしょう。
他方で、ビジネスシーンにおいても、友人関係においても、お金の話はどことなくはぐらかしてしまう日本人に対し、欧米人は割と直球で話してきます。
お金の話をすることは日本では「卑しい」「下品だ」などと考えられやすいですが、欧米ではハッキリと割り切ってコミュニケーションを取ることが信頼関係に繋がると考えられているところに違いがあるといえるでしょう。
ポイ捨てマナーに関する「罪」と「恥」の違い
ポイ捨てなどのマナーに関しては、日本の恥の文化では「周囲の評価が気になって」ポイ捨てをしません。一方で欧米の罪の文化では「神に見られているという意識」からゴミを捨てません。
「恥」と「罪」——根付いている意識は違えども、その意識が強ければ両者ともにマナーをしっかり守っています。
日本と欧米のことわざで見えてくる文化の違い
欧米と日本の性質の違いはことわざからも垣間みることができます。
根底に「罪」と「恥」の意識があることがわかるのではないでしょうか。
欧米のことわざ(根源が罪にある)
- A guilty conscience feels continual fear.
罪悪感は常に恐怖におびえる。 - God comes with leaden feet, but strikes with iron hands.
神はゆっくり近づくが、その下す罰は確実である - A clear conscience fears not false accusation.
清らかな良心は偽りの非難を怖れない
日本のことわざ(根源が恥にある)
- 武士は喰わねど高楊枝
(武士はたとえ貧しくとも清貧に安んじ、気位が高いことにいう) - 旅の恥はかき捨て
(旅先では知る人もいないし、長く滞在するわけでもないから、恥をかいてもその場限りのものである。) - 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥
(知らないことを恥ずかしがったり知ったかぶったりせずに、素直に聞いて学ぶべきだという教え)
「恥の文化」が魅せる日本の評価
日本の文化である「恥の文化」は、良いところもあれば悪いところもあります。
自己の文化の良い面悪い面を知り、文化の理解を深めていきましょう。
日本の「恥の文化」における悪いところ
ルース・ベネディクトの言う「恥の文化」とは、日本に対して揶揄する意図も込められています。
日本人は誰かに自分の悪行が知られ場合、非常に恥ずかしさを感じ、その結果死さえ厭わないケースもあります。
しかし、仮に他人に自分がやっていることがばれなければ、自分のやったことを悪いとは感じないという意味も込められています。
日本の「恥の文化」における良いところ
一方で、恥の文化にも良いところはあります。「常に意識が外に向けられている点」です。
日本では子どものころから相手が嫌がることはしない、周りを考えて行動するといった、協調性のある考えが根付いています。
これは集団生活をする中で和を大切にし、お互いの思いやりを持つことにつながります。
周りを常に意識すると、多くを言わなくてもわかってくれるという安心感があるのもひとつの魅力です。
「恥の文化」と「罪の文化」を比較してみると、日本がもつ特有の性質がはっきりと見えてきます。
世間体を気にする「恥の文化」はまるで悪行かのように扱われているものの、換言すれば、日本人のもつ心の美しさを表しているといえるのではないでしょうか。
但し、グローバルな視点に立った時、「恥の文化」の度が過ぎ、自己表現の妨げになってしまう一面も持ちます。
「恥」に内包される美徳は、「思いやり」と「わかりにくさ」の紙一重で脆いものです。
日本人に根付いた「恥の文化」について、もう一度考えなおしてみてはいいのではないでしょうか。
グローバルに活躍するためには、日本文化について理解が必要
- 欧米では、内面の良心を重視する文化
- 日本では、世間体や外聞といった他人の視線を気にする文化
- 恥の文化は、謙虚になりすぎてしまう欠点があるが、礼儀正しさや思いやりを生んでいる
本記事では、「罪の文化」と「恥の文化」の特徴についてご紹介しました。
他国の文化と比較することで、自己の文化をより深く知れたのではないでしょうか。
日本と欧米で、どちらの文化のほうが優れているといった優劣をつけることはできません。ただ、お互い考え方の違いがあることだけ理解しておくことで、相手のことが理解しやすくなるでしょう。
本記事を参考に、日本と欧米の意識の差について、ぜひ理解を深めてみてはいかがでしょうか。
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