「I Have a Dream」。これはキング牧師ことマーティン・ルーサー・キング・ジュニアが人種差別撤廃を訴えた有名な演説だ。50年経った今でも屈指の名演説として語り継がれている。本記事では人々の心に訴え続ける名演説から、ビジネスマンのためのプレゼン術を読み解きたい。
ノーベル平和賞受賞のきっかけとなった歴史的演説
出典:julys974.wordpress.com 本項ではキング牧師の「I Have a Dream」として知られる演説がどのような内容だったか振り返りたい。この演説は1963年8月28日に、人種平等と差別の撤廃をワシントンD.C.で呼びかけたワシントン大行進での17分にわたるスピーチだ。ここで、中でも特に有名な部分を引用する。
この演説はアメリカにおける最高の演説と称されることもある。キング牧師は人種差別撤廃を非暴力で勝ち取ろうとした運動が評価され、1963年のタイム誌のパーソンオブイヤーに選ばれた。そして、翌年の1964年にノーベル平和賞を受賞した。
動画は演説のフルバージョンだ。是非ご覧になってほしい。キング牧師の演説に心を揺さぶられる人々のリアクションがわかる。
「I Have a Dream」から学ぶ聴衆を意識したプレゼン術
出典:genius.com リンカーンの奴隷解放宣言から100年経ってもなされなかった人種差別撤廃に向けて、大きく前進するきっかけとなったこの演説。本項では人々の心を動かした演説から、現代のプレゼンテーションに使える技術を5点にまとめた。
1:聞き手にビジョンを抱かせる
再三述べている通り、この演説で民衆に訴えていたことは人種差別の撤廃だ。差別を受ける黒人だけでなく、集会の参加者の4分の1にのぼる白人たちを奮起させるためには、黒人による白人への怒りをただ訴えるだけでは意味をなさなかっただろう。
この引用のようにキング牧師は黒人の白人に対する怒りではなく、人種差別が撤廃された後の、白人と黒人が仲睦まじく触れ合うという、具体的で想像しやすいビジョンを聴衆に訴えた。これは、老若男女、つまり誰にとっても等しくわかりやすい。
このように、相手の想像力をかきたて、且つ全員が同じようなビジョンを共有できるようにする技術は、プレゼン現場の一体感をもたらすのに有用である。
2:未来の話をする
キング牧師は、「今現在窮屈に感じている自分」ではなく、「未来の子供たち」を焦点にしていることがわかる。自分の存命中に制度を変えたい、とはついつい抱いてしまいがちだが、彼は、アメリカの行く末に希望を持っていたことが分かる。
プレゼンをする際は、クライアントに対して、どうしても過去や現在のグラフや資料を基に話をしてしまいがちだ。しかしクライアントにとって、このプレゼンを受け入れた未来に、どのようなメリットがもたらせられるのかを伝えることにこそ意義がある。
3:フレーズを繰り返す
キング牧師の演説では「I Have a Dream」を繰り返し使ったことは有名だ。他にもNow is the time to(今こそ〜するときだ)、Let freedom ring(自由の鐘を打ち鳴らそう)などその演説で重要な意味を持ったフレーズを繰り返すことで、人々の記憶に残し続けることができた。
キング牧師のように、演説ほどの繰り返しをプレゼンで行うことは、ご周知のとおり難しい。ただ、例えば冒頭に、「このプランは○○なんです」と伝えておき、最後の一押しとして、「だから○○じゃなければいけないんです」など、核心に迫ることを繰り返すという効果はある。
4:平易な言葉で説明する
キング牧師は演説の中で、難しい単語を使うことはほぼ見うけられなかった。これは、差別的扱いを受けるアフリカンアメリカンの子供たちが学校に通えないまま大人になったり、小さな子供にもわかるように、という配慮なのではないだろうか。言葉の壁を少しでも減らすために、キング牧師は易しい言葉で聴衆を惹き付けたのだ。
日々「カタカナ語」が増える毎日で、プレゼンの最中に何気なく難しい専門用語を使ってしまってはいないだろうか。プレゼンで求められることは難解な単語を連発することではなく、企画を理解してもらうことである。そのためには、あえて凡庸な言葉で相手の理解を勝ち取る、というテクニックも必要だ。
5:誰もが知っているものから引用する
キング牧師の演説には引用や引喩されている部分が多い。
上述の通り、演説の冒頭部分では「Five score years ago」とリンカーンの演説を引用している。
そして、「我々はすべての人々は平等に作られている事を、自明の真理と信じる」という箇所はアメリカ独立宣言の引用である。
奴隷解放宣言やアメリカ独立宣言など、「アメリカ人」であればほぼ皆知っている、アメリカの歴史からの一文を添えることで、キング牧師は自らの論理が“間違っていない=正しいもの”であるかのように信憑性を持たせた。
このように、有名な文献からの引用は、自分の話を信じ込ませることに長けている上、相手が自分の知っているフレーズが出ることで、注意をひかせたり、納得させるために重要なファクターになる。相手の知識欲を煽らせるのも一つのテクニックだ。
キング牧師の演説には聴衆を魅了するための工夫がちりばめられている。その工夫は、社内の規模の小さな会議からクライアントへの売り込みまで、幅広く応用が利くエレメンツばかりだ。聞き手を自分の領域に踏み込ませることができれば結果は自明の理である。日本人がプレゼン能力が低いというのは遍く知られたことだが、だからこそ、キング牧師のスピーチを参考に「響くプレゼン」を遂行してほしい。
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