by University of Central Arkansas
少子化で受験人口が減る中、大学教育の質の低下が顕著になっているという事実は、日本が抱えている問題の一つである。文部科学省が新設大学などを対象にした調査では、英語の授業で中学程度の基本的な文法を教えている大学もあった。
では、海外の大学はどうなのだろうか。日本と比較することにより、それぞれが抱えるメリットや問題が浮き彫りになってくる。それと共に、国の方針や性質が大学制度に色濃く反映していることに気づくだろう。
アメリカ:入学は簡単、卒業は難しい
by Eric Demarcq アメリカでは、学期ごとに中間試験(Mid Term Exam)と期末試験(Final Exam)が実施され、記述式テストの他、語学クラスならスピーチやインタビューのテストを行うクラスもある。この中間テストや期末テストの割合が、大体50~60%くらいで、残りの40~50%は、授業中に行われる小テスト(5~15%)、論文(15~25%)や課題(10~15%)はもちろん、発言や授業中の態度(10~15%)、出席点(5~10%)などもすべて含まれる。
成績は「A/B/C/D/F」に加え、「+/-」をつけて12段階に細分化され、DやFでは単位を落とされてしまう。階級はGrade Pointと呼ばれる数値に換算され、全科目の成績評価平均値GPA(Grade Point Average)が就活などで非常に重視されるため、テスト期間でないときも気を休めることができない。一方で、単位制を採用しているので、必要な単位数を取得すれば早く卒業することも可能。
また、ディベート、ディスカッションの力を養えるところや、共通試験結果の他にも課外活動や個性の重視してくれるところなど、アメリカらしい魅力的な部分がある。
イギリス:ブランドより、成績重視
by Daniel Mennerich イギリスは9月に入学式があり、3年で大学を、1年で大学院を卒業できるのが日本と大きく異なる点だ。博士号は最短3年で取得することが可能である。また、現在は受験機会が毎年夏に一度だけ行うことになっている。例えば数学の場合、全部で6ユニットあり、1年目に3つ、2年目に3つの試験を受ける。1年目の試験の結果が思わしくなかったものは2年目に再受験可能なことから、全体の半分は2度試験を受ける機会があることになる。
就職の際は大学名のブランドより卒業時の成績の方が重視され、最低でも2等級以上の学位を取らないと厳しいと言われている。また2年間の成績の合計が最終的な卒業成績になるため、初年度を終えた後、学生たちは目の色を変えて勉学に励みだすのだ。
フランス:圧倒的に少ない、教育費の自己負担
出典:www.telegraph.co.uk 日本の高校での3年間が、フランスの中等教育後期である「リセ」に相当するのだが、まずその期間に、バカロレア(大学入学資格試験)に向け、理系、文系、経済・社会系の3つに別れる必要がある。第2学年と呼ばれるリセの1年目では60%が同じ科目を学び、残りの40%でそれぞれ分野ごとの勉強を行う。
バカロレアに合格すると、行きたい大学の学部に願書を出し、入学許可をもらう。日本のように大学別の入学試験は行われない。バカロレア取得者は、基本的にどこの大学へも入学することができるが、入学定員数が限られているため、必ずしも希望の大学で学べるとは限らない。
学士を得るためには3年間、修士は5年間の教育課程、博士は8年間の研究過程が必要だ。また国立大学では登録料以外の授業料は無料となっている。日本の大学制度と比べると、経済的な自己負担が圧倒的に少ないことが見て取れるだろう。
韓国:驚異的な進学率の理由
韓国は、日本と大学制度がほぼ似ている。違う点と言えば、1学年は3月から始まり翌年の2月までの1年間となり、夏休み(7~9月)の前後に分かれる2期制が一般的。入学と卒業が日本より約1ヶ月早くて、受験も11月に行う。また、韓国では男子に徴兵の義務があるため、大学に入ると教養課程を終えた段階で一度休学し兵役に行き、戻ってきた段階で復学することが多い。
大学への進学率は98.8%(日本は50.7%)と驚異的な数字が出ているが、制度が似ているにも関わらず一体何が異なるのだろうか。その理由は、日本では大学が4年制、短期大学が2年制(医療系などは3年間)であるが、韓国には2年制や3年制の大学もあり、これらの大学で学ぶ内容は調理師や美容師といった専門職を養成するものである。つまり、韓国の大学には日本の専門学校の内容が含まれていて、あらゆる分野に「学士号」が付けられているというイメージになる。
さらに過酷な受験戦争も繰り広げられている。スヌン(日本のセンター試験にあたる日)には、試験のさまたげになるため上空のヘリコプター飛行が禁止されたり、試験に遅刻しそうになった受験者をパトカーで送り届けたりと厳戒態勢が敷かれるのには驚かされる。
中国:大学=成功への切符
by nothing is impossible for a willing heart 中国は9月に新学期が始まり、テスト時期が6月末と1月末という風に、一年で一番暑い時期・寒い時期に重なるため、テスト前になると24時間開放のエアコン付き教室が学生の間でとても人気だそうだ。人口が多いため、こういった空き教室はもちろん、普段は空いている図書館も人でいっぱいになり、席取り合戦が繰り広げられるため、枕やタオル、食事やゲームなどを持ち込み、完全に生活の拠点を移して臨戦態勢で臨む人がいる光景も日常茶飯事だ。
進学校では朝7時から夜9時まで授業+補習をする所もあり、日本以上に学歴=価値、という認識が強い。良い学校に進学させることを非常に重用視する中国では学校の教師、親たちは「とにかく良い学校に」入れることを最優先しており、長い授業時間も「当然」と受け入れられている。
日本の様に60%近くが高等教育に進学できる現状とは違い、12億人という人口の中で大学に進学できる率は20%程度しかない。高校全入、資格ベースでいえば誰しも等しく大学入学のチャンスがある日本と比べると、中国の学生たちが持つ勤勉への意識の違いが著しく見受けられる。
インド:試験は常に厳重体勢
出典:digipraim.com インドといえば、世界の理工系大学の中でナンバー・ワンとも言われるインド工科大学(IIT)が有名である。IIT入試科目の数学・理科(物理・化学)は、アメリカの大学入試STA(日本でいうセンター試験のようなもの)よりもはるかに難易度が高く、特に数学が難しい。年間20万人が受験して、合格率はなんと1%台。入試には、一科目2時間あたりの口述試験も課される。
入学してからも、過酷さは半端ではなく、1学期14週のうち3回の大試験があり(1回目に3週間半がかり、2回目に4週間がかり、そして期末試験)、いつも学生たちは試験競争にさらされている。また、学部卒業には180単位取得しなくてはならない。
そんなインドの期末試験(terminal test)では、カンニングや不正が多く目立っている。そのため1クラスを半分に分け、監督官が3人ほどつく教室で試験が行われたり、後からの書き直しの不正防止のために鉛筆ではなく万年筆で書く必要があるなど、日本では考えられないような厳重な体勢で行われている。
各国の大学制度を比較していくと、日本の大学制度の欠点も浮き彫りになってくる。例えば、ディスカッション能力の欠陥、英語力の乏しさ、大学受験準備に多大な費用と時間がかかるなど、様々な点があげられる。
他方で、貧富の差が激しい国では、大学に固執しすぎて不正が多発したり、平等に試験を受けられる人が少なく、進学すらままならない学生たちが多いことも現状である。
それは我々にとっても他人事ではない。これからの日本の未来を担っていく若者たちにとって「大学」という存在がどうあるべきか、単なる通過点にならないように捉えたい。現在の、大学の数は多いのに志望者は少ないという現実の下で、名門大学を卒業してきた新入社員との感覚の共有など、鑑みてみる点は多い。
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