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東京五輪はビッグチャンス? イスラム教徒のための「ハラル」と日本の開発事情

菊池喬之介

2016/08/29(最終更新日:2016/08/29)


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by Elias Pirasteh
 リオではオリンピックが終わり、パラリンピックが開幕した。4年後はついに私たちの都市、東京だ。日本には世界中から、多様な人種や言語、宗教の人々が訪れるようになる。もちろん食生活が日本人とは異なる人もいる。

 そんな中、世界に19億人いるムスリム(イスラム教徒)を東京でも多く見かけることになるだろう。実は現在、ムスリムをターゲットとした「ハラル食品」の市場が一部の企業で話題になっていることをご存知だろうか。

 本記事ではハラル食品について、また拡大するハラル市場に飛び込む日本企業を紹介したい。

そもそも「ハラル食品」とは?

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by Attila con la cámara
 最近は「ハラル」という言葉を新聞やテレビ、街中で見かける機会が多くなってきた。だが、ムスリムが食べる食品と知っていても、なにが駄目でなにがいいのか正確にわかっている人は少ないかもしれない。そこでここではハラル食品に関する基礎知識を整理したい。

ハラル=「許された」

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出典:muslimbackpackerseoul.blogspot.com
 ハラルはアラビア語で「許された」という意味である。ハラルは食に限った話でなく、生きる上で神から許されていること全てを指している。一方で「禁じられている」という意味の言葉が「ハラム」。物を盗む、人を殺す、豚肉を食べるなどイスラム法(イスラム教の聖書コーランや預言者ムハンマドの言行に基づく法)で禁止された行為をハラムという。ハラルは「ハラムでない行為」なので、ハラムを理解すればハラルを理解することができる。

ハラムな食べ物 

豚・犬
死んだ動物の肉、イスラムの方式にしたがってと畜されなかった動物の食肉、あるいはその派生物
血液など

その他、かぎづめのある動物など

※宗派、国および地域、個人によって詳細の解釈が異なります。

出典:ハラル(ハラール)について|ハラル・ジャパン協会
 ハラムな食べ物といえば豚、酒が有名だが、それ以外にも細かい制約がある。例えば、牛や鶏は食べることを禁じられていないが、撲殺や絞殺してしまうとハラムなものになってしまう。

 また、酒に関しても個人によって認識が大きく違うことがある。飲酒こそはしないが、消毒用アルコールや発酵食品に入っているアルコールは気にしないという人がいる一方、それらの行為が絶対に嫌だという人もいる。

 ハラル食品とは、製造者がハラムでない印「ハラル認証」をつけられた食品のことを指している。ただ、ハラル食品は比較的新しい市場なので、全世界共通のハラル認証はまだない。日本では決まった団体への届け出さえ必要ないので、誰でもハラル認証を始められる状況となっている。

東京オリンピックに向けてハラル市場はさらに成長

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出典:rilek1corner.com
 ハラル食品は何なのかわかった、けれど日本で大きな需要があるのか?と思われた方もいるかもしれない。確かに日本に住むムスリムは約10万人とまだ少ないが、ムスリムの訪日観光客は増え続けている。

 2013年に東南アジア諸国のビザを緩和したことにより、ムスリムの多いマレーシアとインドネシアからの訪日観光客は前年比35%増の約30万人に急増。2011年の約2倍にもなる。

 また、国連世界観光機関の調査によると、ムスリムが旅行時に最も重視するものはハラル食品であった。日本ではイスラムやハラルへの理解がまだまだ少ないが、ハラル食品を求めているムスリムはたくさんいる。

東京オリンピックに向けてムスリムを取り込む

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出典:www.mb.com.ph
 政府は東京オリンピックが開催される2020年に、訪日観光客の数を2016年の2倍の4000万人とする目標を発表した。

 その中でも力を入れるのが、東南アジア諸国だ。近年著しい発展を続け、中間層が増えた東南アジアからの訪日観光客は、まだまだ増える伸びしろがある。また、マレーシアなどは一人当たりの消費額が韓国や台湾と比べ高いこともあり、大きな経済効果が期待されている。

19億人の市場を狙う日本企業

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出典:www.emirates247.com
 ムスリム観光客の増加によりハラル食品に取り組む日本企業も小規模ながら増えてきた。本項では日本の伝統食品を掲げて、今後さらに広がるであろうハラル食品の市場にいち早く飛び込んだ企業「宮坂醸造」を紹介したい。

創立350年を超える老舗が「味噌」でハラル市場へ

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出典:www.familytreeacupuncture.com
 日本には醤油、寿司、ラーメンなどハラル認証を得られる可能性のある独自の料理がある。味噌もそのうちの一つだ。2013年、東京都に本社を持つ「宮坂醸造」は近年東南アジアで起こっている和食ブームにビジネスチャンスを見出し、味噌のハラル認証へと乗り出した。

 酒造から始まった創立350年の老舗。もちろん味噌の味には自信を持っていた。だが、ハラル認証を得るにはイスラムに基づいた厳格な基準をクリアしないといけない。そこで大きな問題になったのはアルコールだ。品質を維持するために加えるアルコールと自然発酵させる過程で生まれるアルコールをどう減らすかが当分の課題となった。

 品質を維持するために加えるアルコールに代わる添加物は半年かけて開発した。自然に生じるアルコールを減らすにはさらに苦戦した。その後3ヶ月研究したのち、アルコール分0%の味噌を作ることに成功した。

 そして2年後の2015年、宮坂醸造はついに味噌では初のハラル認証を取得した。今後はインドネシアを始めとするイスラム社会での販売を進める。

 多大な努力でハラル認証を勝ち取った宮坂醸造の工場長赤池浩三氏はこう語る。

「高い壁だからこそ、やりがいがあると感じています。
その向こうには非常に大きな市場があると思っています。」

出典:イスラム圏に商機あり ~“ハラル”市場を狙う日本企業~ - NHK クローズ ...
 馴染みのないムスリムを必死に理解しようとする試みだから達成できたハラル認証。確かに、成果を得るには多くの努力を必要とする。だが、ムスリム人口は約19億人をターゲットにしたハラル市場は30兆円に上り、大きなビジネスチャンスだ。独自の食文化、高い水準の技術力を持つ日本の企業はどんどん挑戦してほしい。


 日増しに大きくなるハラル市場。続々とイスラム教とは無縁の海外企業が参入しつつある。それに対し歓迎するムスリムもいれば、非ムスリムが開発するハラル食品に「この食事は本当にイスラム的に正しいのか」と懸念を抱くムスリムも少なくない。

 日本人は宗教に無頓着な人が多いため、ムスリムが食事に大変気をつかうのを理解できない人もいる。だが、ムスリムたちからすれば何よりも重要な問題であり、非ムスリムがおろそかなハラル認証を行うと侮辱にすら感じるものだ。

 相手への理解を深め、信用を得ることで成り立つハラルビジネス。東京にやってきたムスリムを“おもてなし”するためにも、私たちのイスラムへの理解が求められている。

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