「他社に負けない良いモノ・サービスを作りたい」と、商品開発に邁進している企業が多く見受けられるが、現代は「商品飽和の時代」と言われている。飽和とは、モノが豊かにあり、それぞれのモノの質も同じくらい高いことを言う。そのため、消費者は商品を選定する時、「なんとなくいつも買ってるから」という理由で商品を購入していることが多い。
一流企業は消費者により自社ブランドを利用してもらうために、ブランドイメージを向上させることを目標としている。また、広告代理店はこうした企業からブランドイメージを向上させる案件を受注している。最近、広告代理店では、アクティベーション(行動化)を目指す「プランニング・マーケティング」に力を入れる動きが見られている。
そこで今回は、博報堂行動デザイン研究所の國田 圭作氏の『人を動かすマーケティングの新戦略 「行動デザイン」の教科書』から、アクティベーションマーケティングを学び、消費者が行動を起こす、つまり、行動デザインとは何か見ていこう。
商品飽和時代を切り拓く、「行動デザイン」とは
出典:mainmarketactivations.wordpress.com 新商品を売り出す時、必ず売上目標を設定するだろう。しかし、多くのビジネスマンが目標設定の背景に、消費者がアクションを起こす「行動量」という要素を入れ忘れている。そのため、どんなに消費者が良いと思う商品を売り出したとしても、実際に消費者が行動を起こさなかった場合、目標と大きく乖離した結果が出てしまう。目標に行動量という要素を入れることで、新商品のPRの効果も分かりやすいものとなるだろう。
現在のマーケティングの基本理論として、AIDMAモデル(アイドマの法則)が存在する。このAIDMAモデルは約100年前の理論であるが、未だにマーケティングの基本理論として使われている。AIDMAモデルは人が物事を認知してから行動を起こすまでの段階を表したモデルであるが、認知・好意までの段階は現在は問題はない。実際に行動に移させることが問題となっているのだ。
AIDMAモデル
- Attention(注目)
- Interest(興味)
- Desire(欲求)
- Memory(記憶)
- Action(行動)
AIDMAモデルは、「意識が行動に先行する」という考え方で構築された理論だが、國田氏は「行動が意識に先行する」こともあると述べている。例えば、楽しいから笑うことが多いが、笑うと楽しくなるということがあるだろう。このように、行動から意識に影響を与えることも少なからず実証されているのだ。だからこそ、行動デザインという行動に焦点を置いたマーケティング戦略は有効と言えるのだ。
“人を動かす”行動デザインを作る、6つのステップとは
出典:www.atec-ltd.com 人を動かすことのできる行動デザインを作ることは、簡単ではない。目標をどう設定するのか、ターゲットは誰なのかなど、様々な場面における方向性・ゴールを設定しなければならない。そこで、國田氏が本書で紹介する「行動デザインを作る6つのステップ」を見ていくとしよう。
ステップ①:行動ゴールを設定する
行動ゴールは総顧客の総行動量を指す数値である。売上目標やシェア率といったビジネスゴールを行動に置き換えたものが行動ゴールだ。商品飽和の現代において、売上目標などの数値だけでは目標を達成できる計画を作ることはできない。顧客の行動を促進させることに重点を置く以上、目標も行動に焦点を置いたものでなければならない。
ステップ②:ターゲット顧客を特定する
行動デザイン上でターゲットを特定する時、商品の特性に注意しなければならない。ターゲットとする条件は、その商品に対して、高い行動量を示すことが予想される層である。つまり、属性ではなく行動に視点を置いたターゲット特定が求められるのだ。
ステップ③:行動観察から行動チャンスを発見する
ターゲットの行動を観察し、行動チャンスを見つけることが行動デザインにおいて重要な要素となる。行動チャンスとは、「〇〇したいのに△△できない」といった「行動の未充足」を見つけ、その未充足を充足にさせる計画を練る機会のことだ。行動デザインにおける特定のターゲットの行動チャンスを見つけることは、性別や年代以外にも様々な情報を参考にすることが重要である。
ステップ④:行動をつくり出す仕掛けを設定する
行動をつくり出す仕掛けを「行動誘発装置」と言う。行動誘発装置は広告的なメッセージといった形式だけではなく、商品開発やイベント開催などの様々な形式がある。「行動誘発装置」の主な目的は、ターゲットの意識を行動へと駆り立てることである。例えば、サッカー日本代表の試合などでは、多くのサポーターを試合観戦へと駆り立てるために、「帰属意識」に焦点を置いた日本ならではの仕掛けがされていた。
ステップ⑤:全体シナリオを構築し、実行する
どんなに優れた行動誘発装置を仕掛けたとしても、そこにターゲットを呼び込まなければ、行動デザインの実現は不可能だ。そのため、行動誘発装置への導線を綿密に計画する必要がある。シナリオ構築の際、「どの媒体を使うべきか」といった手法発想ではなく、「どうしたら人は動くか」という目的発想を主軸からブレさせないことが重要だ。こうして、一本の軸に沿ったシナリオが完成するのだ。
ステップ⑥:成果を評価し、PDCAを回す
全体シナリオを構築する際に、掲げていた目標と成果を比較し、現実の目標と成果のギャップは何が原因で生まれたものなのか分析する。そして、最も重要なのは、次の機会が今回とは全く異なる内容にならないようにすることだ。せっかく分析したのに、それを実践しなければ、より優れた行動デザインの構築をすることはできないのだ。
成果を評価し、PDCAを回す優れた「行動誘発装置の作り方」とは
行動誘発装置は、私たちの身近で多く存在している。例えば、男性用トイレの小便器の中に、的(ターゲット)をマーキングしてあることがある。用を足す人達は、何となくその的を狙いたくなる。この的が存在することによって、小便器の周りが以前よりも綺麗になったという話をよく耳にする。このように、たった一つの的でさえ行動誘発装置になりうるのである。
優れた行動誘発装置を作る時、最も忘れてはならないことは、「行動発想」である。商品を多くのユーザーに使わせたいという目的に対して、多くのビジネスマンが陥ってしまうのが、「モノ発想」という商品の質向上に重点を置く考え方である。ユーザーが商品をどう使って、どんな行動をすることができるのかと考えることで、自然と行動誘発装置を構築していくことができるだろう。
「商品を多くの人達に買ってほしい」という思いが先行して、どう商品に触れてもらうかと思考を巡らす人がほとんどだろう。しかし、優れた行動誘発装置を構築するためには、ユーザーがその商品を手に取った時にどんな行動をするのかを第一に考えると良いだろう。その後、ユーザーに「こうした行動をするのはいかがでしょう?」というメッセージを込めた仕掛けをしていくのだ。
私たち日本人は商品の質にこだわりすぎているのかもしれない。「日本の商品の質は良い」と世界からも称賛されているが、商品飽和の現代、今の私たちが焦点を置くべきは、人の行動作りである。「高度な商品開発」と「優れた行動誘発装置」の2つを兼ね備えた国になれば、日本が世界の市場をリードしていく未来も想像だけではなくなるだろう。
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