「戦略」と「ビジョン」と「計画」の違いをきちんと説明できる人はどのくらいいるだろうか。戦略とは、優位性を強化、拡大していくための“設計図”であり、“デザイン”である。夢や構想のままである「ビジョン」とは違い、「戦略」は理想と現実のギャップを埋めるシナリオなのである。
「戦略の立て方」を授業で習った人は少ないだろう。つまりどういう筋道で戦略を立てるべきか、戦略はどのような価値があるのか学ぶ機会はまれなのである。しかし戦略を立てることは、ビジネスマンにとって必ず通る道である。そこで今回は、遠藤 功監修『事業戦略のレシピ』から正しい事業戦略の立て方を学んでいこう。
「今」の現状を正しく知ること:現状分析
出典:www.propertycasualty360.com 戦略を立てるというと多くの人が思い浮かべるのは「今後勝ち進んでいくためにどうすべきか」ということである。つまり「将来」について思い描くことである。しかし実は戦略を立てるための第一歩として必要なことは「今」を思い描くこと、つまり「現状分析」をすることである。そのために必要な思考のプロセスを三つご紹介させていただく。
まずは思い込みをなくすこと
多くの場合、経験則からくる思い込みや感覚から、知っている「つもり」、正しく理解している「はず」という誤解から現状分析の失敗は起こっている。「市場は常に変化しているのに従来の思い込みに固執する」ということはもちろんのこと、「相手には伝わるはずという当事者間の認識の違い」ということもよく見られるケースだ。
例えば、営業担当者は製品が良くないから売れないと主張するのに対して、製品の企画開発担当者は営業がきちんと売らないから売れないと主張する。つまり現場の相互の認識を確認することも現状分析の一つなのだ。
常に「目的」を明確にすること
現状分析において最も重要なことは、常に「目的」を明確に意識することだ。決して「現状分析」がゴールというわけではなく、戦略を策定することが目的なのである。ひな型を用いて中身を「埋めた」だけの分析にならないように気を付ける。
現状分析の基本は「SWOT分析」
戦略を策定するためのヒントとして代表的なのが「SWOT分析」である。このSWOT分析は分析結果を分類することに適している。自社の成長の機会や、自社の成長を阻害しうる脅威に対して「現状のままだとチャンスがありそうなのか、もしくはリスクがありそうなのか」ということ、強みや弱みという点において、「現状の強みは既存事業の成長に十分か、もしくは弱みが成長を阻害しないか」という点を意識しなくてはならない。
SWOT分析
- Strength:自社の強み・優位性
- Weakness:自社の弱み・課題
- Opportunity:成長の機会
- Threat:自社の成長を阻害しうる脅威
有効な戦略で効率のよい成長:戦略オプション
出典:www.techzsavvy.com 戦略オプションとは自社としてどの分野を選択するのか、取りうる複数の選択肢を洗い出していくことだ。現状分析によって様々な成長の機会や脅威が浮かび上がってきた上で、どの機会を狙うのか、どの脅威に対して優先的に対処していくのかを考える。また自社が今後成長していくためにどこに力をいれるかという選択肢(=オプション)を検討していく。その選択肢を分類するための三つのオプションをご紹介させていただく。
成長オプション
成長する機会のオプションとして対象市場の拡大、新たなニーズの出現、競合の弱体化など様々なオプションが考えられる。こうしたオプションはほとんど三つの視点に分類されると本書は紹介している。
成長オプションの考え方
- ①既存事業での売り上げ拡大余地があるのか
- ②新たな事業領域への展開余地があるのか
- ③収益性を向上させる余地があるのか
脅威への対応オプション
脅威への対処オプションを考えるときに、まず存在する脅威が、具体的にどう自社の経営にインパクトを与えうるかを考える必要がある。その点を留意して本書で紹介している現状分析結果として想定される脅威の例を紹介したい。
現状分析として想定される脅威の例
- 市場規模が縮小傾向
- 消費者のニーズ、ライフスタイルが変化
- 新規参入の脅威
- 代替商品の脅威
- 既存顧客のリピート率が減少
例のように選択肢としてあげられた脅威への対応オプションを表にまとめよう。「脅威はチャンス」という視点も重要である。
強化・補強すべき強み・弱みのオプション
「成長オプション」、「脅威への対応オプション」の選択肢がまとまったら、自社がどの強みを維持、強化もしくは生み出し、どの弱みについては補強するのか、という選択が必要になってくる。「成長オプション」「脅威への対応オプション」のリストから自社の強みが生かせるオプションを絞り込む。
戦略を絞り込み、施策へ落とし込む:戦略策定
戦略は実現性が必要である。どんなに美しい戦略でも、実行に移されない戦略は机上の空論である。経営陣が「納得」し、現場陣が「動ける」戦略の策定が必要なのだ。そこで現状分析をし、戦略オプションを策定し終えたら、最後の段階である戦略の絞り込みと施行に関するヒントをご紹介したい。
戦略の絞り込み
戦略オプションの策定が終了したら、そのオプションが実行可能なものかどうか、絞り込む必要がある。そのなかで本書が重視するのは実現性の検証である。この実現性の検証にはポイントがあり、それは「組織に対して現場がどの程度認識できるものであるのか」「戦略を実行するにはどのくらいの難しさがあるのか」「想定されるリスク・デメリットを理解しているのか」という三点を確認することである。
実現性検証の三要素
- 組織能力(身の丈)
- 戦略実行の難易度
- 想定されるリスク・デメリット
戦略から施行へ
戦略策定後、その戦略が実行されず結果がでない、またその進捗がうやむやになるということは少なくない。そのようなことを避けるためにも戦略を「ひとつのかたまりとして考えることができ、具体的なアクションがイメージできる単位」まで分解して考える必要がある。つまり会議から現場にも伝わるような戦略を立てる必要があるのだ。
戦略を立てるといってもうわべだけの戦略では意味がない。すべての人が納得でき、現場の人々が動くことができる戦略を立てることが「成果」を勝ち得るための方法だと、本書は語っている。
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