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“三千年の歴史を継ぐ男・俵静夫” 最北の地・北海道で今もトド猟を続ける意義とは

樋口純平

2016/07/14(最終更新日:2016/07/14)


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by Mick Thompson1
 日本では、トド猟は縄文時代から続く伝統的な狩猟で、現在も最北の地・北海道で約20名の集団で行われている。そんなトド猟集団の中でも名人と言われるほどの腕を持つのが、俵静夫だ。俵静夫は80歳という高齢でありながら、船の上でライフルを自在に扱い、誰よりも多くトドを狩ってきた。

 しかし、現在、トドはアメリカ・ロシアから準絶滅危惧種に登録されるほど、世界的には減少傾向にある生物だ。そのため、日本のトド猟は世界中から批判されている。縄文時代ならば、食用として必要不可欠であったため、トド猟をする意義は理解できる。だが、今現在もトド猟を続ける意義があるのだろうか。

 今回は、2016年7月17日放送の『情熱大陸』に合わせて、俵静夫とトド猟の意義について見ていくとしよう。

船上の水撃ち名人・俵静夫とは

自分の型をまず決めてしまうことが大事だ。型をピタッと決めて動かない。自分の船が乗っている波とトドが乗っている波が一瞬合う瞬間がある。その瞬間に息を止めて、撃つ。

出典:俵静夫
 俵静夫は9人兄妹の長男として、北海道で生まれた。18歳で自分の船を購入し、独立を果たした。その後、父親の影響を受けて29歳でトド猟を始めた。つまり、今年でトド猟歴が52年にもなる大ベテランなのだ。そして、北海道中のトド猟師たちが名人と仰ぐほどの腕を持つ。

 世界的にトド猟が批判されているにも関わらず、なぜ、俵静夫はトド猟を続けるのだろうか。それは、トドが北海道の漁業に大打撃を与えているからだ。トドによる北海道の漁業被害額は17億円を超える。これは、俵静夫を含む漁師にとっては生活の危機とも言える事態だ。

オレはいいんだ、猟師に満足しきっているから。海で死ぬならそれでいい

出典:俵静夫
 トド猟が行われるのは、冬だ。もし、船から極寒の海へ落ちれば、まず命はない。そのため、仲間のトド猟師たちは高齢の俵静夫が未だにトド猟を続けていることを心配している。だが、地元の海を愛する俵静夫にとって、海を守るために戦い、海で死ぬことは本望だという。

縄文時代から続く、三千年の歴史を持つトド猟とは

 縄文時代のトド猟は主に食用に狩猟され、トドの革を使った生活用品も作られていた。その後も交通の便が整っていなかった北海道では、食糧確保や防寒のために、トド猟が盛んに行われていたのだ。なぜ、トドなのかといえば、当時の北海道でトドはたんぱく質を十分に摂取するに堪える格好の動物だったからだ。

 しかし、交通の便が整い始めると、トドに食用としての価値はなくなった。そのため、一時はトド猟の必要性がなくなったのだ。それが逆にトドの生態数を増加させることとなり、漁業に被害を与えるようになった。そして、漁業に被害を与える害獣を駆除するという意義を持って、トド猟の必要性が再び生まれることとなったのだ。

 2014年まで、世界的な批判を考慮し、駆除枠の他に保護枠を日本は制定していた。しかし、トドを殺さない対処法はあまり効果がなかったため、やむを得ず駆除枠を2倍に拡大した。現在、年間500頭以上のトドが駆除されている。ただ、トドとしても、人間による漁獲量が増大したため、漁業網の中の魚を狙わなければならない状況にある。俵静夫と同じく、トドも生命の危機を回避するために生き抜こうとしているのだ。

俵静夫のトド猟に対する思いとは

手負いをさせたくないし、完全照準じゃないと、引き金は絶対に引かない。

出典:情熱大陸-2016/02/07-
 トドに弾をかすめただけで終えた猟の後、俵静夫はこう語っている。世界中がトド猟を批判する思いも俵静夫は理解しているのだ。だからこそ、トド猟をする以上は一発で仕留めることを信念としている。そのため、俵静夫は1日に3発までしか引き金を引かない。3発以上の弾丸をトドに向ければ、傷を負わせてしまうだけでトド猟が終わりかねないからだ。

 俵静夫のトド猟は、トドを殺すことだけで終始しない。俵静夫にとってトドを殺すだけで終わることは、トドに対して失礼な行為なのだ。そのため、俵静夫は仕留めたトドを持ち帰り、自ら捌いた肉を島の住民たちと分かち合う。漁業の害獣駆除という名目はあるが、トドの肉を食べることまで済ませなければ、無益な殺生をしているように感じてしまうのだ。


 トド猟に誠実に向き合う俵静夫も、過酷な自然界におけるトドも、お互いの生活を守るために動いている。トド猟を問題として捉えるとき、どうしたらトドも北海道の漁師たちも守ることができるのだろうか。こうした互いの権益が絡む問題は、どこでも起きている。相手(トド)を慮り尊重する俵静夫の姿勢は、私たちビジネスマンもコミュニケーションのうえで見習うべき点が多いのではないだろうか。

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