今回も前回の「『下町ロケット』佃の牙城が崩壊!? フレームワーク思考“3C分析”による競争優位の築き方」に引き続き、“3C分析による競争優位の築き方”について下町ロケットを舞台に紹介していく。
ロケットエンジンにおける“3C分析”
佃製作所は、佃社長の宇宙科学開発機構で培った高い技術、特にエンジンの品質の高さにより、右肩上がりで成長していった。しかし、大手メーカーである京浜マシナリーとの取引終了に伴い、業績が大幅に悪化する。
【図表1】
ここで佃製作所に目をつけたのが、ナカシマ工業だ。ナカシマ工業は、佃製作所のステラエンジンに対して特許侵害訴訟を起こす。ナカシマ工業は、特許訴訟に強いと評判の会社である。
長期の特許訴訟や多額の賠償金で競合の資金繰りを痛めつけ、最終的には競合の経営権を取得し、特許を自社のものにする、という戦略を得意としている。この特許訴訟戦略を最大の強みをするナカシマ工業だったが、佃製作所には特許訴訟に強い神谷弁護士というパートナーが現れ、最終的にはナカシマ工業に勝利する。
これは、競合の最大の強みに対して、強力な外部パートナーの力を借りることで対抗できた事例である。しかし、神谷弁護士も佃社長との最初の面談で指摘した通り、本来は特許取得時に取得範囲等の工夫を行い、事前に防衛しておくべきだった。つまり、競合の取るであろう戦略を先取りして、自社で対抗戦略を取るべきだった、といえるだろう。
次は、帝国重工へのロケット部品供給で考えてみよう。帝国重工は、初の純国産ロケット開発を行うスターダスト計画の中で、佃製作所の持つバルブシステムの特許が必要となる。当初は自社内製にこだわり、特許の譲渡を希望するが、最終的には佃製作所から部品供給を受けることになった。この時は、圧倒的な技術力と特許により、競合が存在しないという特殊な状況であった。
しかし、サヤマ製作所の登場で状況は一変する。サヤマ製作所は、佃製作所が満たせていないキーデバイスの内製化いうニーズに注目し、帝国重工に共同開発を提案し、一時的ではあるが佃製作所の牙城を崩すことに成功した。
圧倒的な技術力を持つ佃製作所ですら、顧客のニーズを満たせないと取引を失うことがあるのだ。また、顧客のニーズとは製品・サービスの品質のみではない。佃製作所も品質面ではサヤマ製作所を上回りながらも、部品のコンペに負けてしまった。「顧客のニーズを本当に満たせているのか?」「さらに顧客のニーズに変化がないのか?」「個々のニーズの優先順位にも変化がないか?」を常に自問自答しつづけることが重要といえるだろう。
人工弁(ガウディ計画)における“3C分析”
続いては人工弁のケース。子供向けの人工心臓は、大人向けよりもサイズを小さくする必要がある。ボトルネックは小型の人工弁の開発。北陸医科大学の一村教授と共同開発者のサクラダは佃製作所の技術力に注目し、共同開発を依頼する。しかし、サヤマ製作所もアジア医科大学と連携して、人工弁の開発を進めていた。
【図表2】
サヤマ製作所は、外発的動機付けと言われる成果報酬などの賞罰(アメとムチ)により優秀な技術者の採用・動機づけを行い、佃製作所からも技術者を引き抜き、人工弁の開発を進める。一方、佃製作所は佃社長のものづくりにかける情熱の下、ものづくりの面白さに魅せられた社員が開発を行う。こちらは、内発的動機付けと言われる自分の内面から湧き起こる意欲・情熱が行動の源泉である。
また、佃製作所は、共同開発を行い北陸医科大学、サクラダに加えて、ロケットエンジンの顧客である帝国重工からの資金提供を受けることに成功する。自社の顧客を協力者として活用する、佃社長の見事な戦略だ。このように、自社のみではなく、協力関係にある他社も含めて競争優位を考える、顧客を巻き込んで協力者にすることを考えることが重要である。
最近では、3C分析は協力者(Co-operator)を含む4C分析とすることがある。自社のみで差別化を図るのではなく、協力企業を含めて戦略構築をすることが求められていると言えるだろう。
3C分析を行うことで、自社が競合に打ち勝つための課題を明確にできる。また、顧客・市場の分析にPEST分析、自社の分析にSWOT分析、などの他のフレームワークを組み合わせることで、さらに分析の精度を増すことができる。是非、皆さんも戦略を策定する際には3C分析を活用してほしい。
次回(第9回)は、成長戦略を策定する際に有用なフレームワークである「成長ベクトル」をご紹介する。
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