ニュースでよく耳にするオイルショック、宗教対立、パレスチナ問題――。これらはすべて中東問題に含まれ、世界一の大国であるアメリカでさえ、頭を抱えるビッグテーマである。なぜ、世界の主要国である米英が中東問題を無視できないのか? その中東問題の真相を、国際政治と現代史の枠組みのなかで理解することを狙いとした本書『<中東>の考え方』を通して伝えていきたい。これを機に、激動の世界情勢のアキレス腱に位置する中東問題について、深めていただきたい。
石油が出る前の中東問題
アジア貿易のための「通り道の確保」
石油が出る前というのは産業革命以前であるが、その頃はアメリカが台頭する前の時代なので、イギリスの時代であった。そのイギリスは、インドや中国と貿易をする際、必ず中東を通らなければならなかった。つまり当時の中東問題は、「通り道をどう確保するか」であったのだ。
ここで言う「通り道の確保」としての中東問題に、イギリスは2つの手法を用いた。それは中東の諸国と休戦協定を結んで、道を安全に通れるようにすることと、砲艦外交で脅して道を開けさせる方法である。こういった2つの手法を巧みに使い分け、「通り道の確保」としての中東問題と付き合っていた。
また、イギリスが産業革命を起こせたのは、当時の「通り道の確保」としての中東問題があったからである。というのは、当時オスマン帝国という強大な帝国が中東に居座っており、彼らへの発言権を高めるために、イギリスは産業革命に挑んだのである。
3行でわかる「石油が出る以前の中東問題」
- イギリスは、東アジアと貿易するためにアラブを通りたかった
- イギリスは、アラブ諸国と休戦協定と砲艦外交を駆使して「通り道」を確保した
- イギリスは、アラブ諸国に上記の主張を認めさせるために産業革命に挑んだ
石油が注目を浴びた後の中東問題
燃料獲得のための「石油地域一円の確保」
第一次世界大戦前、機械化が進み、燃料としての石油が注目を浴び始めた。その頃より、中東問題は「通り道の確保」から「石油地域一円の確保」に拡大し、イギリスは、この砂漠地帯を自身の支配下に収めようと画策した。ここでも、以前のような砲艦外交と休戦協定を使い分けて、石油地帯を確保した。
そして、この石油地帯を巡る利権争いの最中、第一次世界大戦が勃発し、今後の中東問題を複雑化させてしまうこととなる。
そして、この石油地帯を巡る利権争いの最中、第一次世界大戦が勃発し、今後の中東問題を複雑化させてしまうこととなる。
パレスチナの中東問題の原因が発生
やがて、第一次世界大戦後、イギリスの他のフランス、ドイツ等の各国も同様に、アラブの石油地帯の領有権を主張したため、諸国間の話し合いとなり、国境線を新たに引き直すことになった。その最中、「パレスチナ地域をそのまま領有する」という約束をイギリスがアラブとしたのだが、それを反故にして「ユダヤ人にパレスチナ地域を与える」約束をしたため(イスラエル建国の約束)、今日の中東問題(パレスチナ問題)の原因を作ってしまったのだ。
パレスチナの中東問題が勃発
先述したイギリスの勝手な判断は、当時アラブが領有していたパレスチナ地域をユダヤ人に与え、そこにイスラエルを建国させるというものであった。当然、これによりアラブの反発を招き、「アラブ VS イスラエル」の構図を作ってしまう中東問題(パレスチナ問題)の端緒であった。やがて、イギリスの盟主であったアメリカが、その「勝手な約束」を強硬に実行に移してしまい、パレスチナの中東問題を現実のものとしてしまった。
3行でわかる「石油が出た後の中東問題(パレスチナ問題)」
- イギリスが、石油地域を巡ってフランス、ドイツ、アラブと交渉した
- イギリスが、パレスチナ地域を「アラブにあげる」約束を反故にして、「ユダヤ人にあげて」しまった
- イギリスの盟主・アメリカが、パレスチナ地域にユダヤ人の国家(イスラエル建国)を作り、アラブとの反発を招いた
パレスチナの中東問題をめぐる情勢
イスラエルの軍事基地化
表面的には、先述したようにアメリカが「勝手に」イスラエルを建国してしまったことから起きたのが中東問題である。だが現在では、後述するように米英がイスラエルを利用してしまっているので、パレスチナ問題は抜き差しのならない中東問題と化している。
どのようにイスラエルを利用したのかは、この2つだ。1つ目は、世界中の資産階級の多いユダヤ人のマネーを引き出すためである。2つ目は、イスラエルをアラブにおける米英の軍事基地としての利用するためである。このような利用価値のため、米英側はイスラエルを解体させる気など全くなく、このパレスチナ問題は現状、解決の目途が立たない中東問題となっているのだ。
冷戦によって、二大国を利用するようになったアラブ
冷戦において中東問題を巡る情勢は、変転を迎えた。なんとアラブ諸国が、パレスチナの中東問題の解決をアメリカとロシアに頼るようになってしまったのだ。依然、アラブ諸国の多くは、パレスチナの中東問題への解決にアメリカやロシアの仲裁を待ち続けている。
余談だが、アラブの大国・サウジアラビアは元々、建国の過程において米英の助けを借りていたので、米英の軍事基地であるイスラエルに強硬な姿勢をとることができない。そのことで周辺のアラブ諸国とサウジの意見が衝突することもあり、中東問題が一向に解決に至らないのだ。
中東問題を公正に伝えるテレビ局・アルジャジーラ
アラブのテレビ局として名高いアルジャジーラは、そのような複雑化した中東問題を正しく伝えている。「公正で政治的圧力を受けない、アラブで唯一の報道機関である」ことを自負し、そのことで米英から煙たがられ、ときにアラブ諸国からも嫌煙されているのだ。だが、現代の中東問題を公正に伝えるその姿勢は、ジャーナリズムの観点から高い信用を得ている。逆に言えば、最新の中東問題を巡る情勢を知りたければ、アルジャジーラは欠かせないメディアであるのだ。
3行でわかる中東問題(パレスチナ問題)を巡る情勢
- 米英が、イスラエルを軍事基地やユダヤマネー獲得の手段として利用している
- 冷戦により、アラブはアメリカやロシアにパレスチナ問題の解決を恃むようになった
- アルジャジーラTVは、上記の2つの現状を公正に報道するので、ときに米英やアラブからも嫌煙される
以上、中東問題とそれを巡る情勢について紹介してきた。世界の主要国がこうも引きずられる中東問題は、世界情勢のアキレス腱と言ってもいい。そして、中東問題を理解しておけば、世界情勢の流れを知ることができる。是非、本書を取っていただき、中東問題を通して世界情勢の風向きを知って欲しい。
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