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近年、“日本のアニメ”がそれほど海外でヒットしない理由とは?:『日本のアニメは何がすごいのか』

t.k

2016/05/08(最終更新日:2016/05/08)


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by Stéfan
 『鉄腕アトム』、『ガンダム』、ジブリ作品など、日本人なら誰でも知っているそれらの有名アニメは、クールジャパンの代名詞だ。そして、世界の文化史の中でも、ユニークな地位を獲得している。そのため、当たり前のように日本のアニメは優れていると思われがちだが、日本のアニメが売れていたのは、いや、「売れているように見えていた」のは、今から10年近くも前のことなのだ。

 今回は、そのような日本のアニメが置かれた状況を本書『日本のアニメは何がすごいのか 世界が惹かれた理由』を通じて紹介したい。同時に、日本のアニメを通して、海外の文化への造詣を深めていただきたい。

実はそれほどヒットしていない? 日本のアニメの世界への輸出の現状

「東洋のディズニー」を目指していた日本のアニメ

 日本のアニメの海外への輸出は、比較的積極的に行われてきた。そもそも歴史を辿ると、とりわけ日本人は、明治時代より欧米化を進めてきた。それはフォーマルな場で着られる衣装が、欧米と同じくスーツとなっていっていることからも窺える。そんな日本人は、欧米への憧れが強い。例えば、日本のアニメ映画をリードする東映が「東洋のディズニー」を目指していたことにも、欧米への憧れは見て取れる。それだけ欧米への意識が強いので、今度は逆に欧米・海外から認められたいと思い、日本のアニメを輸出してきたのである。

実は、それほど大ヒットしているわけではない

 日本のアニメは、マスコミが言っているほど、海外で大ヒットは出せてはいない。日本のアニメのアメリカでの興行収入を例にとると、日本のアニメとしては代表的な作品・ジブリ『千と千尋の神隠し』は、日本国内では304億円にも上るが、アメリカでは15億円にも至っていないのである。もちろん、これでもヒットしている方なのだが、日本のアニメは国内で持て囃されるほど、海外ではヒットしてはいないのだ。

近年、“日本のアニメ”がそれほど海外でヒットしない理由とは?

動画共有サービスで溢れる海賊版の日本アニメ

 現在、日本のアニメの多くは、海外の違法の動画共有サービス上で、吹き替え版や字幕版が見れてしまう状況にある。主にアジア各国では、風習や法律の違いにより、著作権の解釈が十分になされていないのだ。そのため、日本のアニメが無料の動画共有サービスにいつまでも残ってしまっている。また、そのような日本のアニメの海賊版が溢れる現状において、アジア各国の対応は十分とは言い難い状況だ。

 一方、欧米ではそういった著作権の法規制が厳密になされているため、日本のアニメは売れてはいるが、それでも日本国内ほどヒットしているとは言い難い状況だ。それは後述する日本との文化の違いに基づく。

日本のアニメがぶつかる、日本と欧米の文化の違い

 特に顕著なのが、日本と欧米の文化の違いだ。これが日本のアニメが進出する際の大きな障壁となっている。例えば、日本のアニメの主人公は無宗教であることが多いが、一神を絶対視する欧米では、これは考えられない。これに代表されるように、そういった文化的相違を是正しない限り、日本のアニメの海外での大ヒットは望めない。

日本のアニメのユニークさに見る、欧米との世界観の相違

 最後に、本書で重点的に語られている、日本のアニメを通しての欧米の世界観について見ていこう。日本のアニメを題材として、グローバルスタンダードである欧米文化への教養を楽しく深めていこう。

心を持つ日本のロボットアニメ

 日本初の国産ロボットアニメである『鉄腕アトム』。鉄腕アトムは心を持ち、喜怒哀楽をはっきりと表すロボットである。日本のアニメに、このような傾向が多いのはなぜか? それは、縄文時代からの世界観である「万物が意思をもった神だ」とするアニミズムが通っているからである。ロボットにも意思があり、心があると日本のアニメは見ているのである。

 欧米のアニメでは、日本のアニメのような心を持ったロボットは登場しない。欧米のアニメでは、キリスト教に代表されるように一神教の世界観なので、登場するロボットは心を持たない無機質なものであり、日本のアニメの心あるロボットとは一線を画すのだ。

日本の「道」を受け継ぐ、スポ根アニメ

 スポ根アニメとは、具体的には『巨人の星』に見られるような、一人の主人公の精神的な成長を描いた、日本のアニメでお馴染みの展開を指す。日本のアニメでは、「主人公の精神的成長」がしばしばテーマとされてきたが、これは剣道に代表されるような「道」の考え方であり、その「剣の道の修行」は「魂の修行」だとする捉え方が、日本のアニメに通っているからである。

 一方、欧米のアニメでは、基本的には表面的な技術は成長するが、日本のアニメのように主人公の精神までは成長しない。彼らは、物理的な技術の向上と精神の成長は別と見ているからである。

子どもから大人まで見れる日本のアニメ

 あなたは、ジブリ作品の対象年齢を気にしたことがあるだろうか。きっと気にしたことはあるまい。「子どもから大人まで楽しめるアニメ」と言える日本のアニメの一つだろう。このように世代を選ばない日本のアニメは、時折、欧米においても強力な競争力を持つことがある。

 一方、欧米では、基本的には「アニメは子どもが見るもの」とされている。そこでは、大人と違って「子どもは不完全な存在」とされているため、リアリティが欠ける「画として不完全」なアニメは、子供が見るものとされているからだ。察するに、アメリカのディズニーアニメが日本のアニメと違い、子どもを対象としたアニメに仕上がっているのはそのためであろう。

歴史的に避けられる日本の魔法少女アニメ

 日本のアニメでは、しばしば少女が主人公となることがある。これは日本のアニメには、卑弥呼の時代に見られるような母性社会の原理が通っているからだ。また、若さを重視する文化も手伝い、日本のアニメでは、少女が少年のようにヒーローとして活躍することが散見される。

 一方、欧米のアニメでは、基本的にヒーローは男性であり、さらに青年以上であることが多い。

 また、魔法に関して言うと、日本のアニメではよく使われる設定だが、欧米圏では元来サタン(悪)が使うものとされており、魔女狩りの歴史にも見るように、本来は避けられがちである。


 以上、日本のアニメの世界におけるポジショニングを本書から抜粋してきた。日本のアニメは、日本人のユニークな民族性により世界でも特別な地位を占めてきた。一方で、近年はマスコミで言われるほど、海外でそれほどヒットしていない理由も少しお判りいただけただろうか。

 マスコミの「日本の文化はすばらしい。アニメのそのひとつ。いままでどおり、誇りをもって世界に売っていくべき」という予定調和的な論調にアニメが利用されているが、省略されている前後の文脈を読み取りつつ、日本のアニメを正しく受け止めて欲しい。

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