6年来アドバイザーを務める雑誌『美的』 (小学館)は、雑誌が売れない時代のなか、7年にわたり「美容雑誌売り上げ1位」を誇っている。ブランド立ち上げからプロデューサーをつとめるシューズブランド「Daniella&GEMMA」も「coco organics」 も大好評、数々のベストセラーとなった書籍にたずさわったりと、ヒットコンテンツを世に送り出している。今回はそんな渡辺さんにヒットコンテンツを作る秘密やこだわりを伺った。
渡辺 佳恵 プロフィール
わたなべ・よしえ/株式会社One to ten代表。
大学在学中から雑誌のライターとして活躍しCanCamに14年在籍。その仕事ぶりが評価され、フリーの編集者ながら同誌初のファッションディレクターに抜擢。社会現象にまでなった一連のCanCamブームを巻き起こし、2006年、起業。現在は(株)One to Ten代表/ブランドプロデューサーとして、大人の女性のための靴ブランド「Daniella&GEMMA」、日本初ナイジェリア産のココナッツオイルを使ったオーガニックコスメ「coco organics」 、骨董通りの行列パンケーキ「クリントンストリートベイキングカンパニー」 、雑誌「美的」 など様々なブランドのプロデューサーやアドバイザーをつとめている。また、運営しているオンラインサロンでは、モデルやタレント女子アナなど多くの女性をプロデュースしてきた経験から一般女性のビジュアルコンルティングを行うサービス「あなた史上最高の自分を引き出します」サロンを開講。100名近い生徒の美容&ファッション&生き方指導を行っている。プライベートでは16歳の女の子のママでもある。
女の子に何が刺さるかを考える日々
by Moyan_Brenn———元々は雑誌の編集者だったんですね。
はい。大学在学中から雑誌のライターをしていました。 「CanCam」に携わったのが23歳のとき。その後、15年在籍し、32歳のときに「CanCam」初のファッションディレクターに抜擢していただいたんです。
そのときにどうしたら雑誌が売れるようになるかなって考えて、思いつく事をかたっぱしから全部挑戦してみたんですけど。そしたら20万部だった部数が80万部になって。もちろん私だけの力ではなく、いろいろなスタッフが関わって売れたんだと思いますが、間違いなく大きな一端を担ったと自分で思えるコンテンツだったので、それは今でも私の力になっていますね。
編集者をやめて、今の会社を立ち上げてからも基本的な事はあまり変わらず、ファッションやビューティ、ライフスタイルなど、女性に何が刺さるかを日々考えてます。
1から10までかかわりたい
by US Department of Education———渡辺さんの会社はプロデュース業だけでなく、PR業もやってらっしゃいますね。
そうなんです。昔はコンサルティング業務を依頼いただくことが多かったんです。コンサルって稼働時間は短いので、そういう意味ではいい仕事なんですけど、すごくおせっかいな私の性格には合わなかった(笑)。
今の時代、コンテンツがいいだけじゃ売れないし、宣伝が上手なだけじゃ売れない。ターゲットをしっかりマーケティングして、刺さるコンテンツを作り、届くPRをしないと売れない。
だから会社の名前も“One to Ten(1から10まで)”にして、ブランド立ち上げのプロデ
ュースからPRまでやっています。
———でも1から10まですべてを請け負うって大変じゃないですか?
正直、本当に大変です(笑)。One to Tenはブランディングに関するすべてのこと、ロゴ開発から商品監修、カタログ作りやメディアへのキャラバン、展示会やポップアップショップの運営まで何でもやります。
例えばこの間も「coco organics」でメディア関係の方に向けてお披露目イベントを開催したんですけど、表に出ている私は、プロデューサーとしてトークイベントに出てお話しさせてもらって華やかですけど、裏では、スタッフと一緒に会場でお出ししたココナッツオイルパンケーキに立てるロゴ入りの旗をひたすら制作している、みたいな。
よく「ブランドプロデューサーなのにそこまでやるの?」と驚かれますが、ブランドが素敵に見えるようなことはなんでもやりたいなって思うのでそこは妥協せずにやっているし、何より関わるブランドを愛しているので、単純に楽しいんですよね。
プロの一般ユーザーになる!
by Chris Smith/Out of Chicago———ヒットを作り出すために大切にしていることはありますか?
私は自分のことを“一般ユーザーのプロ”だと思ってるんですけれど、その感覚を失くさないように気を付けています。業界に長くいると、良くも悪くも、そのルールが身に付いてしまったり、変にこなれてきてしまってどんどん業界人っぽくなってきてしまうから。若いころは自分が業界っぽくないことがかっこ悪くて、すごくコンプレックスだったんですけど、あるとき“これ私の強みかもしれない”って思うようになって。その感覚のまま、ファッションディレクターとして「CanCam」を作ったら、大ヒットしたので、“ああ、この感覚、間違ってなかった。普通で良かった(笑)”って思ったんです。
それからは、普通の感覚を失わないように気をつけています。ですが毎日仕事をしているとやっぱり自然とそうなっちゃうし、時代に合わせて、人々の感覚も変わります。そこで、うちの会社では20〜40代の一般女性500人が参加している研究所を持っていて、そこで取材したりしているんですけど、それ以外にもいつもたくさんの「業界人じゃない人」と話し、街を歩き「一般ユーザーの渡辺佳恵をアップデートさせています。仕事のときは頭の中で「一般ユーザーの渡辺佳恵」と「プロの仕事師の渡辺佳恵」が話し合って、「本当にこれがベストなの?」を常に常に話し合っています(笑)。
余談ですが、私は常に「こうしましょう」と決めたことも「本当にあれでよかったのか」しばらく考えているので、その中で「やっぱりこっちのほうが絶対いい!」となったときに、「あ! わかった!」と大きな声を出します。それは、私が何かをひらめいちゃったサインであることをスタッフたちは知っているので、やれやれという顔をします。それにより、今彼女たちがやっていることがひっくり返ることも多々ありますからね。
でも、彼女たちもそちらのほうがブランドよいと納得してくれて、最終的にはわくわくしながら仕事してくれてますが。うちの会社は中途の転職組がほとんどなのですが、みんな、うちに入ってしばらくすると「仕事ってこんなに楽しいものなんですね」って言っくれます。小さい会社だから、雑用も業務量も多く、大変な面もあるけれど、うちの会社に入ったら「仕事の楽しさや充実感」だけは自信ありますね。
そして、コンテンツを考えるときにもうひとつ大事にしていることが、“自分ごと化”できるかどうか。身近に感じて、いいなとか欲しいなと思うかどうか、を常に考えています。私、じつはものすごく“共感フェチ”なんです。みんなでこれかわいい〜とか、いいよね!っていうのを共感したい。共感できるとうれしい。女の人は心が動かなければ絶対さいふの紐も動きませんからね。
先日、代理店女子の企画コンペの審査員をやらせてもらったんですけど、彼女たちの提案はどれも「よくできている」けれど残念ながら「心を動かすもの」ではなかった。私が長くいた雑誌業界は「正義はユーザーのニーズ」にありました。だから「欲しい、かわいい」が一番大切なことだった。しかし、代理店みたいなところって「正義は上司のはんことクライアントの意向」にまずある。
その企画を上のおじさんに通すためのスキルを身につけ、クライアントに上手にプレゼンするスキルを身につけ。。それは会社の中で生きていくには大事なことなのかもしれないけど、じつは、どんどんターゲットの女性のニーズから離れていくものだったりもするんですよね。私が携わっているブランドプロデュース事業も当然クライアントさんがいます。
その中には、もちろん「女性の感覚がわからない偉いおじさん」もいます。私がマーケティングして、そのブランドのために必要だって思うことと、彼がそう思うことが食い違うことも多々あります。そんなときは、根気強く相手を説得します。ケンカになることもしょっちゅう(笑)でも、決して妥協しません。だって、それが結果としてブランドがユーザーに愛されるためであり、結果、偉いおじさんも喜ぶことですから(笑)
考えてみれば、多くの商品やサービスは、業界人が使うわけではなく、普通の人が使うもの。彼女たちが欲しいものを生み出し続けるためには、これ、じつは当たり前のことかなって思ってるんですけど。
by Stuck in Customs———ご自身の感覚を信じてお仕事をなさっているんですね。いつまでもその感覚を鈍らせないためにはどうしたらいいのでしょうか?
先ほども言ったように「常に一般ユーザーを取材し、その感覚をアップデートしていくこと、そして、実際に歩いて見て、感じるようにしています。今は本当に便利な時代でなんでもかんでもネットで検索できちゃいますよね。私が編集者のころはそれこそPCもインターネットもなくて、原稿用紙でひと文字ずつ書いてファックスを送る…みたいな時代でした。
もちろん撮影場所ひとつ見つけるのでも足で探すしかなかった。カーナビもなかったから地図を見ながらロケ場所を探してました。当たり前ですが、足で稼いだ情報とネットで拾った情報では奥行きが全然違うんです。ネットで拾った上辺だけの情報だけで本当に人の心を動かせるのかな?って疑問に思っています。だから実際に街を歩いてみたり、話題の場所でお買い物したり、みんなが当たり前にしていることをしてみて、何か感じることはとても大切だと思っています。
私がアドバイザーを務める雑誌「美的」でも毎月編集長と私で必ず読者とミーティングをして感想を聞いてるんですよ。そういうユーザーの生の声ってやっぱり大切だから。あとは自分が年を取っても、20代の女の子の気持ちがわかるように周りのアシスタントからもよく話を聞いています。編集者時代もアシスタントは“かわいくておしゃれで男にモテる20代の女のコ”と決めてました。
なぜならそれが「CanCam」のターゲットだから。実際のCanCam女子の感覚を知りたいから、地道に働いてくれる子より、多少ワガママかもしれないけど、その子の感覚や選ぶものを吸収できる女の子をアシスタントにしてましたね。キラキラ女子なので、撮影予定日に「彼と旅行に行くので撮影行けませーん」とか言ってくる子もいましたけど(笑)。そしてよく「佳恵さんのアシスタントはなってない!」って周囲に怒られてましたね。迷惑をかけたことは謝罪しましたが、正直、そこは別にいいんだよって思ってました。アシスタントは自分にとって便利な雑用係、ではなく、新しい感覚を教えてくれる存在であって欲しかったから。
by kalcul———今後プロデュースしてみたいものはありますか?
特別にこれ、という商品というよりも…ターゲットの年齢が私の年齢とともに変わって行くかもしれませんね。とはいえ私、女のコの心をつかむのは相当自信があります(笑)。今までとにかく女のコの中だけで働いて来て、女の子が喜ぶことだけを考えて生きてきたので。
今は20代から40代をターゲットにしたものが得意だけど、自分が年を重ねたら今後ターゲットが50代、60代になっていくのかもしれませんね。最後は老人ホームとかプロデュースしたりして(笑)。でもターゲットは変わってもあくまでも自分がいいと思ったものしかシェアできないところは変わらないと思います。
記事提供:Qreators.jp[クリエーターズ]
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