減りゆく子どもの数、スマートフォンの浸透とテクノロジーの進化により、広がりつつある遠隔授業――。予備校講師は、今一体何を考え、どこに行こうとしているのか。今回は、林修を輩出した予備校講師の世界をクローズアップする。その実態は、カリスマ講師たちの競争社会であった。
どのようなサバイバルサバイバル競争が、予備校講師の世界で行われているのか。本書『嗚呼!花の予備校講師―ガテン系職業の実態と業界の行方』を通じて、今後の予備校講師たちの競争を予想していきたい。
熾烈な予備校講師たちのサバイバル競争 #1
時給2万円以上から、時給1,000円台まで。福利厚生はなし
予備校講師が授業を受け持ち、高校生からのアンケートと合格実績において非常に良い結果を出すと、時給は2万円を超えてくる。ただし、同じ結果を出す講師でも、時給は予備校によりまちまちであり、主にスタディサプリ(リクルート)、河合塾、駿台、東進等の大手予備校講師に限られてくるので、時給2万円は非常に狭い枠と考えておくといい。さらに、その大手予備校でも少子化の影響で、200人教室に生徒が一人しかいないという状況であり、収益は悪化の一方なので、時給2万円を越える予備校講師はさらに一握りだ。
また、授業の準備には膨大な時間がかかるため、その時間まで考慮すると時給が2万円を越える予備校講師は、大手でも一桁人しかいない。
それ以外の大手のほとんどの予備校講師は、集団授業で時給4,000円程度、個別指導だと時給1,000円台もザラである。時給1,000円台の個別となると、多くの場合は有名大学の大学生が担当となり、最近は個別が増えているので、社会人の予備校講師が担当することも珍しくない。また繰り返すが、準備時間も含めると、予備校講師の時給は下がる一方である。
これが中小規模の予備校講師になると、集団授業で時給2,000円台、個別指導で1,000円台が一般的であり、準備時間を考慮すると集団でも時給1,000円台に下がることも珍しくない。こうなると予備校講師の仕事だけでは生活ができないので、他の仕事と兼業していることが現状である。そして、そうした予備校講師業だけでは生活できていない者が、予備校講師全体では多数派だ。
林修氏は、おそらく時給が2万円以上の予備校講師に分類されるが、それにしても希少であり、時給が数千円台の予備校講師との差は歴然である。そういう時給差において、二極化が進んでいると言える。
熾烈な予備校講師たちのサバイバル競争 #2
人気講師はタレント並の忙しさ
時給2万円を超える人気の予備校講師は、一日の授業時間が8時間+予習時間(平均3時間)に加えて、執筆の依頼や林修氏のようにTV出演の依頼も加わり、睡眠時間が4時間以下になることもある。そういう意味で、人気のある予備校講師はタレント並と言ってもいい。
ちなみに、人気のない普通以下の予備校講師は、さほど忙しくない。人気がないので、まず8時間も授業が入らない。よって、忙しさの面でも人気のある予備校講師とそうでない予備校講師では、二極化が進んでいる。
ちなみに、人気のない普通以下の予備校講師は、さほど忙しくない。人気がないので、まず8時間も授業が入らない。よって、忙しさの面でも人気のある予備校講師とそうでない予備校講師では、二極化が進んでいる。
熾烈な予備校講師たちのサバイバル競争 #3
業界再編を巻き起こした、録画授業の台頭
最近、よくCMで目にするスタディサプリなどの録画授業は、一人の予備校講師の録画授業を何人もの生徒に配信できるので、今までの生授業が中心の業務形態を劇的に変えることができる。
その成功例が、林修氏の在籍している東進ハイスクールだ。少数の人気予備校講師のみに選抜し、その録画授業を繰り返し配信することにより、人件費の大幅なカットにつなげた。生徒側としても、厳選された人気予備校講師の授業のみを受講できるので、満足度は高い。
録画授業には、人件費のコストカット以外にもメリットもある。それは、場所を必要としないことによる拡大である。その成功例がリクルートのスタディサプリ(受験サプリ)だ。スマホでも見られる人気予備校講師の録画授業を配信し、予備校がない地方の高校生たちの需要を満たした。また、予備校の多い都心部でもヒットし、日本全国で今や2015年度累計有料会員数は25万人を超えている(2016年2月時点)。
これらの無駄な人件費がかからない録画授業と少子化により、全国の予備校講師の人員は削減の一途をたどっている。録画授業により、予備校側は人件費削減、授業クオリティの担保ができ、生徒側も安く、場所を選ばずに質の高い授業をいつでも受けられるのだから、この流れは止めようもない。テクノロジーによって、なくなりつつある職業の一つかもしれない。
以上、少子化とテクノロジーによって、二極化されつつある予備校講師の実態をお届けした。今後もこの流れは進み、教育機関全体が、録画授業に出られるような人気指導者と、その指導をサポートするチューターに分断されていくだろう。
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