HOMECareer Runners 「社会問題を解決するために、株式会社にこだわった」 リバースプロジェクトと見る、エシカルへの一歩

「社会問題を解決するために、株式会社にこだわった」 リバースプロジェクトと見る、エシカルへの一歩

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2016/04/26(最終更新日:2016/04/26)


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ギャルモデルであり、現役・慶応義塾大学大学院生でもある鎌田安里紗さん。10代、20代を中心に支持を集める彼女はエシカル・プランナーでもあり、多数のファッションブランドとコラボをしたり、「エシカル」に興味を持ってもらえるようなイベントやスタディ・ツアーを手がけたりと、様々な形で発信をしている。

今回、そんな彼女が「この人の発想はこれからの暮らしを考える上でヒントになりそう!」と感じた人たち10人にインタビュー。 生活のこと、暮らし方のこと、自然との関わり合いのこと、自分を大切にすることなどについて、じっくりお話を聞いていく。

今回のインタビューのお相手は、株式会社リバースプロジェクト代表取締役社長の龜石太夏匡(かめいし・たかまさ)さん。リバースプロジェクトは「人類が地球に生き残るため」をコンセプトに、人々に新たな生き方を提案し続けている。

兄2人とともに伝説とも呼ばれたアパレルセレクトショップ“PIED PIPER”を立ち上げた後、脚本家として映画を作りたいという夢を叶えるために映画作りを開始。今度はリバースプロジェクトを立ち上げて走り続ける龜石太夏匡さんに、その想いをお聞きした。

虚構と現実をつなぎ合わせるものとして誕生したリバースプロジェクト

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鎌田  リバースプロジェクトは俳優で映画監督でもある伊勢谷友介さんと映画について語り合っていく中で生まれたと聞きました。

龜石  僕が兄と立ち上げたアパレルのお店で働いていたときに、東京藝大に通っていた伊勢谷がお客さんとして来たんです。 

僕はもともと脚本を書くのが好きだったので、伊勢谷と映画を作ろうという話で盛り上がりました。それで紆余曲折を経て1本『カクト』という青春映画を作りあげ、さあ2本目を作ろうとなったときに、脚本開発のために徹底的に伊勢谷と会話をしたんです。すると、どんな話をしても最終的には未来の話になってしまいました。

未来の話をすると、どうしても山積みされた社会課題に辿り着いてしまうんです。では、この課題に対してどうするか。2つの生き方があると思いました。 

1つは、「社会課題など意識せずに、自分たちのやりたいことをやっていく」という生き方。もう1つは、「社会課題に対して、自分たちのできる範囲の中でできるだけのことをする」という生き方です。

前者の生き方だって悪い生き方ではないし、否定されることではないんです。でも、我々は迷わず後者の生き方をとるよねと伊勢谷と話しました。そうなると、映画のテーマも必ず社会課題に繋がってくるわけです。

そんななかで、辻内智貴さんの書いた『セイジ』という小説に出会いました。「生きるとは何か」「人が人を救うということは、どういうことか」ということが書き込まれた作品で、これを映画にしようと決まったんです。それで僕が脚本を書き、伊勢谷が監督をして『セイジ 陸の魚』という作品を発表しました。

ただ、当時はエンターテイメント映画の全盛期で、作家性が強くて小難しいタイプの映画はなかなか受け入れられず、資金もなかなか集まらなくて、結果として製作期間は7年にも及びました。その間、脚本をもう何十回と書き直して。

でも映画って、こんなに大変な思いをして、人様の巨額のお金を使って時間をかけて作るのに、見た人は1週間くらい経つと忘れちゃうんですよね。思い出や印象に残る作品はありますが、絶えずその作品のメッセージを意識しているわけではなくて、日常に流されていってしまいます。

ただ、環境や社会課題、未来のことは、本当は一番身近な関心ごとであるはずなんです。そこで、映画をつくるだけではなく、継続的にもっと情報発信を行える方法はないかと考えました。それで生まれたのがリバースプロジェクトです。

『セイジ 陸の魚』には、「未来に対していいことをする」ということがテーマのプレゼンのシーンがあります。そのプレゼンが「リバースプロジェクト」という名前だったのですが、それが実社会でも動いていたら、映画という虚構と現実がリンクしておもしろい影響が生まれるのではないかと考えました。

社会問題を解決する組織だからこそ、リバースプロジェクトは株式会社にこだわった

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鎌田  未来を良くするためという目的で興したリバースプロジェクトを、なぜ株式会社にしようと思ったのですか? 私はそれがとても素晴らしいと思ったのですが、社会的なことをやろうとするとNPO法人設立やボランティア活動をしようと考える人が多いと思います。

株式会社として社会的なことをやっていくメリットは大きいなと思います。お金をきちんと稼いで暮らしていて、そのビジネスが成功していけば、他の人も真似できますから。ただ、社会的なインパクトを出すことと、利益を上げることの両立は非常に難しいのではないかと。だから価値があるのですが、ビジネスとして始める上で、難しさは感じませんでしたか?

龜石  当初はボランティア団体とかNPO法人という形態も考えました。でも、人の善意から生まれたことが仕事になって、それが継続されて次の世代まで続いていくようにしなれば意味がないと思い、株式会社にしました。

立ち上げ当初は10人中10人に反対されましたよ。関係のある会社から家族にまで。当時は「失われた20年」のうちでも経済的に最も低迷している時期。「そんな環境問題などの社会課題を解決するビジネスなんて無理だ」と。

しかし、企業が成立するためには社会が成立しなくてはなりません。社会が成立し続けるためには、社会問題を解決しなければならないのです。そんななかで社会問題を解決せずにいたら、問題の原因はどんどん山積していきます。誰にしわ寄せがくるかと考えたら、僕らの世代だし、鎌田さんたちの世代だし、これから生まれる子どもたちの世代です。

ただ、「社会課題に対して何かしたい」という使命感や想いはあっても、何の保証も説得力もないわけです。だから自分たちを信じようと決めました。伊勢谷もそうだし、その時に一緒にいた、リバースプロジェクトのコアなメンバーである、アーティスト、クリエイター、プロデューサーを信じる、と。

ちょうどその頃から伊勢谷も俳優として忙しくなってくる時期だったので、僕が現場を見ることに決めて、3年間の計画を立てました。
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龜石  1年目は人類が地球に生き残るためにはどうしたらいいかという机上の空論を可視化することに費やそう。2年目には、金額は問わないから、とにかく社会とつながろう。3年目にようやくスタートができるような時間軸でやってみよう。そう決めたんです。

3年目に、2年間積み上げて種まきをしてきたことを生かしてスタートしようという計画だったのですが、その3年目に東日本大震災が起こったんです。僕たちも震災1週間後には現地に入って、毎週末に陸前高田から南三陸、相馬などに通って支援活動に明け暮れました。「元気玉プロジェクト」というクラウドファンディングを立ち上げたりしながら、飯館村の卒業式をプロデュースするところまでやってやっとひと段落したのです。

結果、リバースプロジェクトの仕事はほとんどできておらず、3年目が終わったときには、ビジネス的にはスタートに戻っているのと同じような状態でした。

鎌田  積み上げていたものが崩れてしまったわけですね。

龜石  そうですね。ですが、その反面伊勢谷も俳優として伸びていく中で、我々がやってきたことを見てくれる人も増えてきていて。「こいつら本気だ」と思ってくれたんでしょうね。いろんな企業とのつながりも生まれて、リバースプロジェクトの名前も知られるようになり、急に仕事の幅が広がっていきました。

鎌田  そうなんですね。社会性を持ちながら仕事をするのは大変ですが、意志を持ってやり続ければ、周りに気持ちが伝わって、共感してくれる人や応援してくれる人が増えて仕事が回り始めるのでしょうね。

震災後、人々の価値観はエシカルに向かって大きく舵を切った

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龜石  リバースプロジェクトが支持を得るようになったのは、震災も一つのきっかけでしょうね。社会全体が、変わりましたから。震災後、三菱総合研究所の行った人々の消費動向の調査でも、人々の価値観が大きく変わったということが発表されました。利己的な価値観よりも利他的な価値観を示す人が多くなったのです。

環境や労働者に負荷をかけないのは精神的にも良いですよね。お客さんにも嘘偽りなく堂々と勧められます。ちょっと引いてみたときに、未来をちょっとだけ覗きながら選択したほうが気持ちがいいものです。

また、洋服を考えたときに、縫製がいいとか、素材がいいとか、着心地が悪くないとか、素材がいいとか……もう出尽くしていますよね。洋服はどれを取ってももうそれほど変わらず、飽和している。あとは5円安い、10円安いと価格で比較するしかない世界。そうやって人を犠牲にして成り立つファッションが生まれてしまった。

ところがエシカル・ファッションはそこに別の価値観をもたらします。ストーリーがある洋服、環境や労働者に負荷がない洋服、今までにはなかった価値を洋服にもたらします。ちょっと高くても買ってくれる人がいます。そしてまだ担い手が少ない。市場が拡大していくかはまだわかりませんが、ブルーオーシャンなんです。

現行のシステムの中で突破口になり得るのがエシカルという価値観

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鎌田  飽和しているところで価格勝負をするよりも、自分が良いと思っていて、なおかつ競争相手も少ないところで挑戦したいということですね。 

ただ、合理性以外の判断軸を持つのは、現行の社会の仕組みのなかではなかなか難しいですよね。多くの人が合理的か、生産性や経済性が高いかで物事を判断していると思います。それをどのように乗り越えていらっしゃるんですか?

龜石  今の社会の仕組みは、今の時点でかなりほころびが見えてきていると思います。例えば2008年のリーマン・ショック。資本主義の世界は経済成長を見越して成り立っています。誰かに100万円借りたら、105万円など、利子をつけた額で返さなければならないんです。その利子は成長を見越しての金額。我々すらこんなに社会性を帯びているのに、株式会社であれば売り上げは伸ばしていかなければならないんです。

しかし、国内人口は減っていく、資源も減っていく、物ももう足りない物はないほど溢れている。そんな社会の中で本当に経済は成長していけるのか。もう縮小タームに入っているのではないか。

リーマン・ショックの直接的な原因はわかっていますが、それが何であれ、リーマン・ショックは社会現象ですよね。実体経済の100倍ものお金が投機経済では動いている、そんな状況下で起こった社会現象です。原子力も同じ。今、ありとあらゆるシステムが、過渡期を迎えていると思うんです。

とはいえ、我々はシステムの中でしか生きられません。では、そんななかで、今あるシステムをどう生かせばいいか。そう考えたときに、僕は「エシカル」に突破口があると思っています。消費動向を見ても、今「エシカル」が支持を集めているのです。それを、売り上げを伸ばしたい企業が注目しない手はありません。

鎌田  リバースプロジェクトはさまざまな企業と提携を進めていらっしゃいますよね。それは現行のシステムを生かすための方法の一つなのでしょうか。

龜石  そうです。僕が株式会社の社長として一番力を入れているのが、企業との取り組みです。この資本主義というシステムの中で株式会社として健全に動くためにはどうしたらいいかを最優先で考えなくてはならないからです。

加えて社会課題は、一流企業にも我々のように小さい企業にも個人にも、平等に降りかかってくるわけです。だから、リバースプロジェクトの理念に沿った形で価値を提供できる企業さんと、パートナーとしてやっていきたいと思っています。

例えばスーパーチェーンを持つ企業さんとのタイアップの場合。スーパーでは10円安い、20円安いという価格競争はなくならないでしょう。それで助かる人もいるのですから。そういった状況で、我々が何を提案したらいいかといえば「選択できる環境を作る」ということ。「こっちの商品なら誰かの助けになるんだ。これは環境に負荷をかけていないんだ」とわかるようにプロモーションして、魅力的に見せ、売り場で選べるようにしていくこと。企業さんの特性と、リバースプロジェクトの強みを考え合わせてタイアップを進めています。

この時代の日本に生まれ、大人になった者として責任を果たす

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鎌田  「社会課題に対して、自分たちのできる範囲の中でできるだけのことをする」といった場合、さまざまな課題に対して多種多様な意見がある人がいますよね。その点はどうやって考えていらっしゃいますか?

龜石  温暖化の問題にしても、専門家のなかには「これは人間社会の影響ではない。地球のサイクルなんだ」という人もいます。一方で「これは明らかに人間の社会生活の影響だ」という人もいます。原発、ISの問題、人それぞれ価値観があって信じるものがあり、ありとあらゆることにいろんな意見があるので、YES、NOで判断すると対立軸を生んでしまいます。

ただ、我々には責任があると思うんですよ。人類が誕生して文明を築き、いろんな時代を経て変遷を繰り返し、直近でいえば高度経済成長があり、バブルを迎え崩壊し……という歴史の中で、そのときどきでテーマがあり、信じるものがあって、人々は一生懸命に生きてきました。だから我々がこうして何不自由ない生活ができているわけです。

しかし、結果として社会システム全体が過渡期を迎えてしまった。今、世界中を見回しても完全に健全な国ってないでしょう。先進国は負債だらけ。先進国以外を見たときには食うに困るような状況だったり、紛争が起こっていたり。

そんななかで世界の人口は100億人にいずれは達してしまう。これだけ社会課題があるなかで、良いことも悪いことも積み上げてきた結果が今だとしたら、誰が解決に当たるのか。いつの時代においても子どもには責任はないですよね。大人が責任を追うべきです。

しかも、紛争地帯の人々や貧困で食うや食わずの状態で今生きている人々は、生きていくのに精一杯で、社会課題を解決する余力はないですよね。僕は、日本で活動をできる状態で生まれたということは、ある意味エリートだと思うのです。大きな役割と責任があると思っています。

では何をすべきか。大人の責任って、最悪な状況が起こる可能性があったら、それを必死になって備えて、結果的に何も起きなければ「よかったな」って思うことだと思うんです。これは普通の大人たちが家庭内でやっていることですよね。

そうやって大人が頑張る姿を見て育ったら、子どもも同じようにやるようになります。その流れを生み出せると、リバースプロジェクトを始めるときに信じたのです。それで、机上の空論を稚拙でも良い形にしようと思っています。そうすれば議論の対象になりますし、もっと優れている人がもっとうまい方法でやる方法を考えるかもしれない。企業が賛同してくれる可能性もありますよね。

気づきのきっかけを時限爆弾のように埋め込んでいく

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鎌田  先ほど龜石さんは、「社会課題など意識せずに、自分たちのやりたいことをやっていく」という生き方と「社会課題に対して、自分たちのできる範囲の中でできるだけのことをする」という生き方があり、前者だって否定されるものではないとおっしゃいました。

ただ、システムの中で前者のように無意識に生きている人が与える影響は、かなり大きいなと思うのです。例えば、「ファストファッションが安くていいな」と、その悪い側面を知らずに購入してしまうと、その会社の利益に貢献してしまいますから。だから無意識の人も少しは意識する必要があると私は思っています。

リバースプロジェクトの「人類が生き残るために」という理念も、少しでも考えている人には響くと思うんです。でも、まったく考えていなかった人たちにはなかなか届かないのではないでしょうか。そこはどういうスタンスをとっていらっしゃるのですか。

龜石  100円ライターを買うときに「この背景には何があるのだろう。フェアトレードなのだろうか」と考えることは少ないかもしれないけれど、その感覚を持つことは非常に大切ですよね。買い物をするということは、その作られた背景に支援しているのと同じですから。

特に若いときは、「今が楽しければいいや」って考えがちです。でもいつしか気づくわけですよ。特に子どもを持つと変わります。「こいつらの人生を守りたい」「せめて孫の世代まで」って。

僕は今44歳ですが、同級生などは普通に企業に勤めて、子どもが小学校や幼稚園に上がっていたりするんです。話をすると、みんな社会課題に対して意識はあるんですよ。ただ、日々の仕事が忙しくて、週末は家族サービスなどで忙しくて、意識があっても深く考えることはないかもしれない。でもそれを責めることはできないんです。みんな一生懸命生きているから、それでいいと思う。批判してしまったら対立軸を生んでしまいます。

しかし、おっしゃる通り、「それでいい」といって何も手を打たなかったら社会は変わらない。だから我々がやらなきゃいけないのは、社会システムの中にエシカルやフェアトレードを時限爆弾のように埋め込んでいくこと。そこで、リバースプロジェクトはものづくりを行うブランドだけでなく、百貨店などの売り場や消費者を巻き込みながら一緒にプロジェクトをやりたいと思ったんです。

例えば、洋服であれば一ブランドがエシカルを発信しても、あまり大きな効果は得られません。ですが、オーガニックコットンを扱う資材屋さん、工場、ブランドと売り場みんなで、どうやったらエシカルなものをもっと消費者の手に取ってもらえるかということをプランニングすることで、大きな波及効果を生み出すことができると考えています。

10、20というメーカーやブランドが、一堂に大手百貨店などで販売をしたら、大きなインパクトになりますよね。「エシカルだから買ってください」という売り方ではなく、「手に取った商品がたまたまエシカルだった」という流れが作れます。それができれば、結果としては同じなんですよね。

リバースプロジェクトでは未来のための活動をしているわけですが、未来って何かといったら予測なんですよね。株価や為替も予測ですが、予測って災害が起きたら一気に変動してしまうような不確かなものです。誰にも明日のことは、わからないんです。ということは、予測って人の想像でしかない。

人の想像力で未来が形作られるなら、希望を持って想像できるように、みんなの明るい希望を「可視化」したいと思うんですよね。

鎌田  気づいて行動を始めるタイミングは人それぞれだから、それはその人に任せて、いろいろなきっかけを作っておくということですね。発信の仕方で気をつけていることはありますか?

龜石  正直に伝えていくこと。それからマジメなことをマジメにやっているだけではなく、自分でも「これ、かっこいいな」と思えるようにすること。リバースプロジェクトは一見するとかなりゴリゴリと意識高そうに見えるだろうけれど(笑)、バーをやったり、デザインにこだわったりもしているし。あとはね、継続してやり続けること。諦めた時点で終わりだから。

鎌田  「かっこよさ」というのは大事ですよね。「あっちの方がすてきだな。かっこいいな」という感覚があると、そっちに傾いていくのかなという感覚はあります!

龜石  最近感じるんですが、あちこちで若い人に話をすると、明らかに僕らの時代よりは社会課題に関心を持っている人が多いし、できればエシカルでありたいと思っている人が多いんですよね。 

そうやって「かっこいいからほしい」というニーズが生まれてくれば、サービスなり商品なりが生まれてきますよね。そうなればしめたもの。既存の経済の仕組みの中で回していけます。

安易なことを伝える心もある

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鎌田  龜石さんは、自分の心が何に反応しているかを認識して行動に反映なさっていますよね。でも、「会社がやっていることを心から信じられているわけではないけれども、生活のためには今の仕事をやらなければ」と行動している人も多いと思うんです。

龜石さんは小さな頃から自分の心の声に気づいて行動できるタイプだったのでしょうか。それとも何か意識してやっていることがあるのでしょうか。

龜石  「心って何?」と聞かれたら困りませんか? 僕たちは、心とか愛とか嫉妬、時間とわかりやすく言葉にしていますが、その本質を見たことがないですよね。僕は心というものが絶えずどこかにバシッとあって、絶えずそこに立ち戻っていけるというものだとは思っていないんです。ふと立ち止まった時に、自分の心がどこにあるかを考えるような……そんなものだと思います。

心って、ミルフィーユ状になっていて、非常に安易なことを伝える心もあるし、適当なことをいうこともあるんです。目の前に一億円バンと積まれて「俺のことを好きになれ」って言われたら、安易なことを伝える心は「好きになれなくても好きな振りはできる!」って言いますよ(笑)。でも本質的な心の声は自分にとって一番厳しいことを言うんです。「おまえ、そういう生き方をしてきたのかよ」って。

そんななかで、ブレて揺れ動いて、昨日と今日とで違うことを思ってもいいのではないでしょうか。そうやって揺れ動くなかで自分の本質的な心のありかがわかってきて、自分の幸せってなんだろうか、価値観ってなんだろうかということがわかると思います。

僕は自分の心の声を聞いて行動するというよりも、小さな頃から周りにベクトルを向けながら生きてきたように思います。僕は末っ子でしょ。僕が道化になって笑っていれば家族が笑顔になると思いながら暮らしていました。「相手はどう思うんだろう」って敏感に察しながら生きてきたように思います。これは頭ではわからないことで、心で感じるしかないこと。

周りにベクトルを向けながら、自分の心が安易なことをいっているかどうか、心がどこにあるかを探して、どこに拠り所あるか、自分の軸は何かを意識する。そういうことを僕はやり続けてきたのだと思います。それでたどり着いたのが、僕の場合は「未来につながるか」ということでした。

鎌田  龜石さんに対して「自分の確固たる意識を行動に反映していく」というイメージを持っていたのでとても意外でした。お話を聞いていると、周りの人たちのなかで「あ、この人に共感するな」と思ったら素直につながって一緒にやっていくという感覚があるのですね。

龜石  そうですね。でも、共感するものだけをありがたがっているわけではないですよ。相手の全く違う価値観を教えてもらうということもプラスに転じると思います。

鎌田  それはとても重要ですよね! 自分と違う価値観を持つ人に出会った時にどう受け取るか。自分が正しいとか、自分と合わない人は間違っているとか、正しい正しくないという判断軸を持っていると、絶対に対立が生まれてしまいます。相手の価値観が自分と違う時には、どう対応しているのですか?

龜石  「違う価値観を教えてくれてありがとう!」みたいな感じですね。伝え方によって反論したくなったときには、論破しても憎しみしか生まれないから「ああいう伝え方をするのはやめよう」と反省材料として聞いています。 

時には脚本家としての血が騒いで、「どういう考え方、生き方をしたらそういう発想になるのだろう」と興味が湧いて逆に掘り下げちゃったりする時もあります(笑)

完璧な人なんていない。それでいい

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鎌田  ところで、龜石さんご自身の普段の生活のなかでは、食べ物や着る物、買い物にこだわりや意識していることはありますか?

龜石  洋服は自社の物が多いですし、その他はオーガニックのTシャツや友達のブランドの物を着ることが多いですね。ただ、食べ物に関してはリバースプロジェクトの「美味しい水曜日」で食べるとき以外はダメです。店で使っているのはオーガニックな食材がメインですが、自分で食べる時は流れご飯というか、ささっと食べられる物が多いです。仕事で会食があるし、お酒も好きだし。食べない日もあるし、タバコも吸っていますし。

鎌田  食に関してもちろん龜石さんはいろいろな情報をご存知ですよね。それでもご自身で「ダメ」とおっしゃる食生活になってしまうのは、やはり時間がないからですか?

龜石  食に対する意識がもともとあまりなくて。でも、リバースプロジェクトでオーガニックのビールを作ったんですよ。オーガニックのビールだと悪酔いしないんですよね。家で食べる時はオーガニックの調味料などを使っていますが、家で食べる時間が本当になくて。言い訳ですが(笑)

鎌田  スローなファストフードというか、ファストなスローフードができたら良いんですけれど。こういうニーズが生まれてきているから、それに対するサービスも生まれなきゃならないですよね。

龜石  本当にそう思います。ただね、僕は完璧な人なんていないし、それでいいと思っているんですよ。たまに「龜石さん、そんなものばっかり食べて」と怒られたりしてリバースプロジェクトまで否定されちゃうようなことも起こるのですが、完璧を強要し始めると攻撃し合うことになってしまいます。

鎌田  よくわかります。エシカル・ファッションのINHEELSというブランドがあるのですが、その代表の方とよく話すのが、フェアトレードやエシカルを発信していると食も暮らしも100%なエコ仙人みたいなことを求められてしまうということ。でも実際には私の暮らしも全部が全部オーガニックでフェアトレードなわけじゃないんです。

龜石  ネガティブな批判を全部受け入れていく社会ほどつまらない社会はないし、生きづらい社会になってしまいますよね。僕も靴下から全部エシカル・ファッションかといったらそうではありません。環境が整ってないですからね。でも手に入る時にはせめて「じゃ、こっちにしよう」という選択する可能性と意識を持つことが大切だと思っています。

鎌田  本当ですね。私もそういう状態をなるべく共有したいと思っています。それから、若い子がお金がなくてファストファッションを買うということも良いと思うんです。ただ、買うならばせめて長く大事にしてほしい。取れる行動は、そのときの状況とや大事にしていることで人によって違います。その人なりの判断で取り入れていくのが重要かなと思うんです。

龜石  フェアトレードの仕組みを知るとともに、利便性だけを追求した物の背景に何があるかを両方知った上で選択することが必要ですよね。知らないでやることが僕は一番罪深いと思っています。だって、日本にいる人たちは知ろうと思えばいくらでも情報は手に入るんです。それは紛争や貧困にあえいでいる人たちには無理なんです。

経済的な事情や自分の置かれている立場などから選択ができなかったとしても、まずは知ってほしい。知ることは知識として財産になるし、その人の魅力につながるし。まずは第一歩として知っていく。知った上で自分がどう生きるかという選択をしていく。それが結果として未来につながっていくんですよね。

鎌田  まずは知ること。本当にそうですね。今日はどうもありがとうございました!

Interview/Text: FELIX清香
Photo: 三橋優美子

龜石太夏匡

かめいし・たかまさ/1971年、東京都生まれ。東海大学文学部北欧学科卒業。大学入学後、脚本を書きながら俳優修業を開始。大学3年の時、2人の兄が起業しオープンしたアパレルショップ「PIED PIPER」に参加。その後、俳優の伊勢谷友介と出会い意気投合。再び脚本家を目指し始めた。2002年公開の映画「カクト」(脚本・出演)、2008年公開の映画「ぼくのおばあちゃん」(脚本・プロデュース)、2012年公開の映画「セイジ  陸の魚」(脚本・プロデュース)などの話題作を手掛ける。2009年「人類が地球に生き残るためにどうするべきか」を理念に、伊勢谷友介との共同代表で、株式会社リバースプロジェクトを始動。衣食住を中心とした様々なプロジェクトを立ち上げる。

鎌田安里紗

かまだ・ありさ/モデル、タレント 
1992年、徳島県生まれ。高校進学と同時に単身上京。在学中にギャル雑誌『Ranzuki』でモデルデビュー。撮影などの活動を続けながら、2011年に慶應義塾大学・総合政策学部に現役合格。現在は同大学の大学院に進学、芸能活動も続けている。途上国の支援活動に関心が高く、自身のブログでも情報を発信。JICAの『なんとかしなきゃ!プロジェクト』のメンバーにも選出され、フェアトレード製品の制作やスタディ・ツアーの企画などを行っている。ニックネームは「ありちゃん」。

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