by swisscan
2015年に話題となった、グーグルで人事担当責任者を務めるラズロ・ボック氏が書いた『WORK RULES!(ワーク・ルールズ)』。「世界で最も働きがいのある会社」といわれるグーグルの人事や文化についての考え方がわかりやすく記載されている。
本書を読んで、「未来の働き方」について考察する機会になった方も多いのではないだろうか? 今回は、グーグルの人事制度や福利制度の背景にある「ナッジ」という考え方について考察してみた。
「ナッジ」とは、行動経済学から生まれた言葉
グーグルで生まれた「ナッジをもとにした人事制度」とは?
by Cydcorグーグルは、基本的に従業員を信頼していて、それをもとに人事制度が設計されている傾向がある。しかし、一方で人間の持つ合理性をグーグルは疑っている。
つまり、「人間は必ずしも合理的に行動するとは限らず、自分自身のことをよく理解していると思いがちである。そしてそれが、その人にとって良くないことが多い」ということだ。そこで、ナッジの考え方を基に、従業員の選択をより望ましいものにしているのである。
本著にある事例としては、カフェテリアの食品の配置がある。グーグルのカフェテリアには、フルーツのように健康的なスナックと、アイスクリームのような少し不健康なスナックが置かれている。社員の健康のことを考えれば、アイスクリームを廃止すればいいと思うかもしれないが、選択の自由を謳歌するグーグル従業員にとって、それは許しがたき行為なのだ。そんな時、グーグルではフルーツをよりとりやすいところに、アイスクリームをよりとりにくいところに配置したそうだ。これがナッジである。
この実験は当然検証され、フルーツを食べる従業員が多くなったことが確認された。その後、このような配膳が確立した。
やる気にさせる制度「金銭以外の報酬」
by jeffdjevdet成果を出した人に報酬を出すことは、一般的に従業員のやる気を上げると言われている。
そして報酬はしばしば、金銭的なものであることが多いが、グーグルはこれについて懐疑的である。グーグルでも、アワード制度を作ったが、ほぼ全ての従業員に不満を抱かせることになってしまった。著者は、その原因について、報酬の金額を褒め称えてしまったことだと述べている。並外れた業績を出した人に並外れた報酬を出すことは当然だが、金額を誇示しすぎたようだ。その結果、「夢を見た」社員が予想より低かった報酬に不満を持ち、評価の過程が正当なのか疑念が生じてしまった。
そこで、報酬の内容を金銭的なものから、経験的なものや品物に変更したのである。金銭的なものを受け取ると、その価値を計算することに意識が向いてしまい、忘れられてしまうからというロジックだ。実際、この考察は学術的な研究から得られたものだそうだ。
皆が望むのは、現金。では、受け取って満足度が高いものは?
by gfred大変興味深いグーグルの調査結果がある。報酬として望むものは「現金」が多いにもかかわらず、実際受け取っての満足度が高いのは現金ではない、というものだ。
例えば、報酬の候補者に対して、受け取る予定だった金銭もしくは、金額に相当する旅行や品物を渡すということを比較すると、これはグーグル社員も現金を望む傾向が多かった。
しかし、実際には従業員は現金を望む傾向はあるのにも関わらず、経験的なものや品物の報酬をもらったほうが、より長く満足度が続くということがグーグルの調査の結果判明した。
これもナッジの一つの例なのかもしれない。案外、自分のことを自分は理解できていない。外的な動機付けではなく、内的な動機付けをしていくことが重要なのだと著者は述べている。
ナッジの有効活用「幸福度が最大になる報酬」とは
by LugoLounge従業員を信頼しつつも、人は自分のことをよくわかっていないという原則に則っているナッジ。意思決定に影響を受けると考えると、恐ろしく感じる人もいると思いますが、これは従業員のために行われているのだ。
筆者も、報酬は金銭的なものの方がやる気は出ると考えている。おそらく、仕事に対する意気込みも上がるだろう。ただ、生活をトータルで考えた時、経験的な報酬や品物は、幸福度を上げることは間違いない。大きなプロジェクトを成し遂げた報酬として、頑張ったメンバーとハワイ旅行に行くという幸福感は、金銭では代替できないのかもしれない。
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