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“現代”に読みたい、おすすめ傑作詩集5冊:名言にも勝る「詩の力」で感性を磨け

A.Sekine

2016/02/27(最終更新日:2016/02/27)


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“現代”に読みたい、おすすめ傑作詩集5冊:名言にも勝る「詩の力」で感性を磨け 1番目の画像
出典:rongelok.com
 言葉は力を持っている。名言などと呼ばれる言葉や、名スピーチと呼ばれる偉人たちの栄光の場面が多くあるように、いつの時代も様々な「言葉」が人々の心を動かしてきた。

 良い言葉は、人を豊かにする。詩集というと幾分小難しい言葉の集まりといった印象を持つかもしれないが、それは違う。詩は私たちに癒やしと勇気や笑顔、時には世界の在り方を教えてくれるものだ。

 詩集が持つ力は、名言や名スピーチよりも遥かに勝ることがある。本記事では重層な自由詩から成る詩集と、鮮やかな短歌から成る詩集、計5冊をご紹介しよう。

日々の美しさを思い出せる、おすすめ詩集

長田弘『世界はうつくしいと』

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 “うつくしいもの”を美しいと、いつから私たちは言わなくなったのだろう。詩集のタイトルにもなっている詩「世界はうつくしいと」からは、そんな素朴で根源的な問いが発せられている。

 長田氏の詩は、私たちが日々忘れている“日常の感興”を思い出させてくれる。何気なしに一日を彩ってくれているものの多さを忘れがちな現代人。だからこそ“今”読んでほしい、おすすめの詩集だ。

 性急な日々が過ぎ去った人生の午後だけが持っている「寛ぎ」の時間。長田氏の詩集は、尊い安らぎの空間を私たちに与えてくれる。日々の空虚さにふと気がついてしまったときこそ、この詩集を読んで世界に満ちるうつくしさを思い出してほしい。

『世界はうつくしいと』は、そう言っていいなら、寛ぎのときのための詩集である。寛ぎは、試みの安らぎであるとともに、「倫理的な力」ももっている。「寛ぎとはありとあらゆるヒロイズムを進んで失うこと」(ロラン・バルト)であるからだ。二十七篇の詩は、六年の日月をかけ、季節が一つめぐってくる毎に一つずつ、目の前の風景のなかにひそむ消滅点を一つずつ、じぶんの指で確かめるようにして、ゆっくり書き継がれた。――「あとがき」より

出典:世界はうつくしいと:みすず書房

大切な人に贈るなら。この詩集をおすすめしたい

吉野弘『生命は』

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 静かに、けれど確かに。優しい風のように人々の心に届き続ける吉野氏の詩『生命は(いのちは)』。

生命は
自分自身だけでは完結できないように
つくられているらしい
花も
めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする
生命は
その中に欠如を抱いだき
それを他者から満たしてもらうのだ

出典:生命は - 吉野弘 3 生命は | 詩のある暮らし Blog
 世界がそのように緩やかに構成されているのはなぜだろう。生命の不思議、そして温かさに触れたとき、心がなぜだか満たされる。

 大切な人に詩集を贈りたいと思ったとき、ぜひともおすすめしたい詩集である。

本当はいつも“見ていない”だけ。そんな社会の事実に気づかされるおすすめ詩集

茨城のり子『倚りかからず』

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 アンリアルな世界に生きている、と称されることもある現代。私たちは手が筋肉痛になるほど苦労せずとも長ったらしい手紙を指一つで送信できるし、わざわざ飛行機に乗らずとも地球の裏側にいる人と一瞬で通信できる。

 そういった身体の実感を伴わない現代社会を生きる私たちの「背筋をのばしてくれる」言葉たち。見ているつもりで見ていない。知ってるつもりで気づいてない。この詩集には、まるで私たちに警鐘を鳴らしてくれるような、そんな詩が集められている。

じぶんの耳目
じぶんの二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある
倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ

出典:茨木のり子・感動の詩

おすすめ詩集:短歌編

 詩は解釈が難しい......。なんて感じたことはなかろうか。詩には正しい解釈など存在しないし、言葉にできずとも何がしか心を動かすものがあればそれで良いのだが、如何せん共感しづらい面も。

 ずっしりとした自由詩よりも、軽やかな短歌ならば馴染みやすい。紹介する歌人の詩集は日常に寄り添った作品が大変多く、思わず共感してしまうこと請け合いだ。自由詩ほどの壮大さはないが、クスッと頬笑みたくなるようなささやかな愛嬌が短歌にはある。

俵万智『サラダ記念日』

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 このクオリティで処女作だというのだから、世の歌人たちは大変驚いたに違いない。赤裸々な女心をたった31文字で言い得る彼女の作品は、無論女性に人気が高い。

「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの

出典:万智の一人百首 - gtpweb
 余りにもストレートな短歌を集めたこの詩集、難解な女心を少しでも理解したいと望む男性諸君には、とっつきやすい教科書になるだろう。

穂村弘『シンジケート』

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 男性目線から世の女性をしばしば眺めているのが穂村氏の作品。特に、交際している女性に言われた一言を短歌に収めた作品は、男女問わず幅広い層の人間に共感と笑いをもたらしている。

「酔ってるの?あたしが誰かわかってる?」「ブーフーウーのウーじゃないかな」

出典:穂村弘の短歌: かわうそ亭
 『サラダ記念日』が女性目線なら、『シンジケート』は男性目線に寄ったもの。と言いつつも、第三者のような視点を持って詠まれる彼の歌は、女性をも巻き込んで中性的な人類共通の表現とまで化している。大爆笑とまではいかないが、ちょっぴりのユーモアが心地よい詩集だ。 


 詩を読むのに感性は必要ないし、短歌を楽しむのに技術は要らない。紹介した詩集に織り込まれた詩や短歌は、決して難解なものではないからだ。

 頭ばかりで物を考えずに、時には心で感じて心で見る。たまにはそんな時間があっても良いではないか。そんな時間を持つことこそ、あなたの人生を豊かなものにする秘訣かもしれないのだ。誰かへの贈り物として、または自分自身のために。お気に入りの詩集が一冊でもあれば、日々は必ず色づくはずである。

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