by Stuck in Customs
2015年に話題となった、グーグルで人事担当責任者を務めるラズロ・ボック氏が書いた「WORK RULES!(ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える)」。「世界で最も働きがいのある会社」といわれるグーグルの人事や文化についての考え方がわかりやすく記載されている。
本書を読んで、「未来の働き方」について考察する機会になった方も多いのではないだろうか? 「新しい働き方」を追求しているといえるグーグルの人事や文化の書籍、「WORK RULES!」について、紐解いていきたいと思う。
グーグルがどのような実験をし、どのようなデータを得て、どのように評価されているのか
本書は、グーグルの人事や文化について多くの事例とそのデータで溢れている。グーグルは特徴的な人事制度や採用方法があることで知られているが、それらは多くの実験と検証を経て実用化されているようだ。筆者はこのPDCAサイクルはどの企業でも実行することができると述べている。
この本はそんな人事に関するあらゆることに関して、グーグルがどのような実験をし、どのようなデータを得て、どのように評価されているのかという事例に溢れているわけである。人事制度を再構築する際、また新しく制度を作る際には、参考書として置いておきたい一冊だと思う。
マネージャーは必要なのか?という命題
グーグルの特筆するべき点は、人事制度設計の実験において、自明のように思えるものについても、客観的に検証をしているところだ。例えば、グーグルでは「優秀なマネージャーは必要である」という命題について、時間を割いて検証をしている(この命題はグーグル内では自明ではなく、実際エンジニアは管理されることを嫌っており、優秀なマネージャーはせいぜい必要悪で、自分の邪魔をすると信じていたそうだ)。
それに対して、マネージャーが所属するチームによる「マネージャーに対する評価」をもとに、「最高のマネージャーたち」と「最低のマネージャーたち」を特定。さらに「最高のマネージャー」から「最低のマネージャー」のもとに異動になってしまったエンジニアと、運良く「最低のマネージャー」から「最高のマネージャー」のもとに異動することになったエンジニアの異動後のパフォーマンスを測定した(これも42項目にも及ぶ客観的な測定)。
その結果、「優秀なマネージャーはメンバーのパフォーマンスを向上させることができる」と結論づけ、さらに「最高のマネージャー」にあり、「最低のマネージャー」にない8つの属性を明らかにしたわけだ(後述)。この属性にもとづいて、すべてのマネージャーの教育・成長につなげているわけである。
このようにグーグルの一つ一つの制度や文化は、重複なく漏れなく検証され、さらなる発展につなげられているのだ。上記の例であれば、「優秀なマネージャーは必要である」という命題を証明するだけでなく、「優秀なマネージャー」を最小のコストで育てる方法まで確立している。
「最高のマネージャー」にしかない8つの属性
- 1. 優れたコーチであること
- 2. 細かなところまで従業員に口出ししないこと
- 3. 従業員の幸福に関心があると態度で示すこと
- 4. 生産的で結果志向であること
- 5. 自分のチームの話に耳を傾けること
- 6. 従業員のキャリア開発を支援すること
- 7. 明確なビジョンを持っていること
- 8. 何らかの重要な専門的スキルを身につけていること
「グーグルだからできる」への反論
グーグルの福利厚生といえば、無料の食事や、定期的に社内にくるヘアードレッサーなど、多くの企業では実行することができないものが多いと一般的に思われている。しかし、筆者はこれらのコストはそこまで大きくないか、社員の負担によって成り立っていると述べている。また、PDCAサイクルに準じた人事制度の策定も、時間と労力こそかかるが全ての企業で実行することができると筆者は述べているのだ。
これに対して、ネット上の読者の中には否定的な意見を持つ人も多いのも事実。私はこれについて、会社が誰のものかという意識の違いに起因しているのではないかと考えている。つまり、多くの企業が資本家や株主のものであるという認識があるなか、グーグルは社員のものであるという意識が強いように思える。
さらにいえば、グーグルは社員、特にエンジニアの生活についても気を配っている。そうすることで仕事は人生の一部であるが、その仕事で「楽しい」と思えるだけでなく、エンジニアが重要な業務のことに集中することができるのである。
日常の些細な決断の回数をいかに少なくするか
by Robert Scobleスティーブ・ジョブズ、オバマ大統領やマーク・ザッカーバーグがいつも同じ服を着ていることはよく知られている。オバマ大統領は決まったスーツ姿、マーク・ザッカーバーグはグレーのTシャツだ。
この理由として、マーク・ザッカーバーグは、このように語っている。
決断するのに必要なエネルギーは有限であり、小さな決断であっても消耗してしまうそうだ。どのようなスーツを着るべきかなどの些細なことでも決断が重なると、重要な懸案事項についての判断力が落ちる、そうなってしまうのを避けるいう目的があるようだ。
そういった意味では、社員の日常の雑務を減らして、より仕事に集中でき、仕事上の意思決定を優先できる環境づくりは、会社として理に適っているかもしれない。仕事終わりに夕飯のメニューを考え、自分で作ることを考える必要がない、グーグルはこのような生活上必要な負担を減らすことで、そのエンジニアの幸福度と集中度を上げ、さらに業務効率を高めようとしているだ。
確かに、無料の食事や、無料のシャトルバスを用意することは全ての企業ができることではないかもしれない。ただ、生活の負担を減らし、社員の幸福に貢献しようという気概、会社は社員のものという認識を持つことで、それぞれの企業にあった改善策が生まれるのではないだろうか。その改善策を検証し評価する。重要なのは、オシャレなオフィスや職場のレストランではなく、それらの根底にある会社としての意図、スタンス、目的意識かもしれない。
いかに社員の負担を減らせるか
by The DEMO Conference 不要なこと、やりたくないことをできるだけ社員にさせないことは社員の幸福に繋がる。これは、優秀な社員がネガティブな理由で退職することを防げるので、会社側にもメリットがある。このような負担を軽減するのは、試行錯誤した福利厚生だけではない。マニュアル化やリスト化といったツールを使うことで、社員の重要な時間を無駄にせずに済むと筆者は述べている。
例えば、グーグルでは新人研修や採用面接といったものは、構造化したうえでそれを共有する。そうすることで、社員間の負担が減るだけでなく、社員間での評価や指導効果についてのばらつきも小さくなるというのだ。
一方で、グーグルには社員がそれぞれ講座を開き、それを社員が学ぶという文化もある。講座の内容はプレゼン法から瞑想法にまで及ぶそうだ。できるだけ構造化したうえで、そのマニュアルに社員それぞれが価値を付け加えるのである。
リスト化も、社員の判断の負担を防ぐだけでなく、項目の重複や漏れを防ぐ効果もある。
最後に、この書籍の特徴として、例えば、脚注が非常に多いのも目に付く。その中には、グーグルの人事制度とは全く関係のないもの含まれている。ただ、それがグーグルの文化を表しているのではないだろうか。著者もこの本を「楽しんで」執筆したのでだろう。(「楽しい」は、グーグルの文化を端的に表す言葉だと筆者は語っている)
Noの理由を探すのではなく、Yesといえる理由を探そう
確かにグーグルは多くの人的資源や潤沢な資金があるかもしれない。ただ、グーグルがやっていることは、並外れたものというものではなく、程度の差はあれ誰にでも実現可能なもののように感じた。
筆者は「Noの理由を探すのではなく、Yesといえる理由を探そう」と本著の中で何度も主張してる。本著は、グーグルで成功した事例だけでなく、失敗した事例もたくさん掲載されている。このような失敗例が他の企業で成功するかもしれないし、失敗するかもしれない。ただ、Yesといえるように、野心的に、客観的に、試行錯誤することが「より良い人事」に必要なのだろう。
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